マオウの誓い
第九話です。
今回はマオウさんを中心に繰り広げられるラブコメがメインになります。
どうぞ。
「こうして、アマミによって敵は壊走、なんとか国は守られたんじゃ。」
マーガレットさんはそこまで話しきると、紅茶に口を付けた。
なんとも衝撃的な話の後だというのにその仕草は至極落ち着いている。
話を聞いていた俺の方がソワソワとしてしまっていた。
「そのシュタインっていう人は今も生きているのか?」
マーガレットさんはそのシュタインという衛兵隊員に話を聞いた内容まで俺に語ってくれた。
だから、そのシュタインという人物はその事件の当事者であり数少ない生き残りのはずなのだ。
存命であるなら、こんど話を聞いてみたかった。
マーガレットさんは俺のそんな問いかけに軽くうなずいた。
「ああ。もちろん、生きておるよ。」
「そうか。よかった・・・。」
「マオウ。おぬし、今日アマミを迎えに行ったんじゃろう?」
「ああ、行ったぞ。」
今日俺とペルーシャはアマミを迎えに外部周辺の街に向かった。
「なら、シュタインを見ていると思うんじゃがな。」
「え・・・?」
「ネズミの耳の付いた、恰幅の良い男を見かけなかったかえ?今はあのあたりで武器屋を営んでおるんじゃが・・・。」
「あ・・・!」
思い返してみると、確かに、ネズミの耳を着けた男がペルーシャにとんでもない勢いで挨拶していたな。
あの人がシュタインだったのか・・・。
そんな俺の顔を見て、マーガレットさんがフッフッと笑いながら言った。
「フッフッ。まあ今度挨拶にでも行ってきなさい。ペルーシャ達といっしょにな。」
「はい、そうします。」
世間は狭いんだなぁ、という驚きを感じながら俺は笑った。
シュタインさんはネズミの系統らしいので行くときにはチーズでも持って行こう。
俺はそんなことを考えながら、もう一つ疑問に思うことを聞いてみた。
「じゃあ、アマミがあんなに皆から恐れられてるのは、彼女がアルミラージだからなのか?」
俺のその問いに、マーガレットさんはゆるく首を振った。
「いや、おそらく、それだけじゃないじゃろう。皆、アマミに感謝しておるとともに申し訳なく思っておるんじゃ。特に元衛兵隊員の者どもは特にそうじゃ。彼女の両親を失わせてしまったのは自分たちの不甲斐なさだと思っておる。アマミからすればそんなことはない、敵がすべて悪いと言うことになるんじゃろうが、そうはいかないのが人の心の難しいところじゃろうな・・・・。」
「そうか・・・。」
寂しげなまなざしを向けるマーガレットさんに俺は短く答えた。
衛兵隊員が、あんな小さな女の子にすべてを押しつけてしまった、という後ろめたさを抱いてしまうのは仕方ないのかも知れない。
でも、その後ろめたさが、アマミに寂しい思いをさせているのではないか、とふいにそう思った。
「そうじゃな。あの事件のあとからじゃ。あの子達があれほどにたくましくなったのは。」
感慨深げな言葉を紡ぐマーガレットさん。
「それまでは、甘えん坊じゃったペルーシャはしっかり者になっていき、臆病者じゃったアマミはもはやこの国に敵無しというほどに強くなった。子供でありながら、自分たちの生きる道を見つけたんじゃろうなぁ。」
「ええ、そうですね。二人とも強く立派な人です。」
「そう言ってくれると嬉しいのお。」
快活に笑うマーガレットさん。
孫娘を褒められると嬉しいのだろう。
今まで見た中でも最上級に明るい笑顔だった。
すると、脱衣所の方がにわかに騒がしくなる。
「いやぁ!良いお湯だったね~。気持ちよかったぁ。」
「ペルーシャ、お前とお風呂には今後一切入らないからな!」
「あはは!そんなこと言って~。楽しいくせに。素直じゃないなぁ。」
「楽しくない!」
「あはは~。」
そんな会話が扉越しに聞こえ、リビングの扉が開けられる。
「お待たせ~。」
「はぁ・・・。」
上機嫌なペルーシャと少し疲れ気味に見えるアマミ。
二人とも髪がほんのりと濡れ、首元にはタオルを下げたザ・風呂上がりスタイル。
ペルーシャは白を基調としたモコモコのパジャマ。
胸元にはピンク色の猫の肉球のデザインが施されている。
対してアマミはどうかというと、意外にも、パステルカラーの紫色を基調とした可愛らしいデザインのパジャマを着ていた。
こちらは胸元に黒ウサギのデザインが施されている。
二人ともどちらかというとスレンダーな体つきをしているが、パジャマの材質の性質故かシルエットが美しく出ており、否応なく視線がくびれや胸元に行ってしまう。
しかし、どうにかこうにか視線をセービングしたことが功を奏し彼女達は俺のイヤラシい視線に気づいたそぶりはなく、実にリラックスした様子を見せていた。
なかでも、あのアマミも、いつもの険は取れ、すっかりただの美少女のように思えた。
だが、アマミのあの疲れ様・・・一体お風呂でなにがあったんだ?
「おお。お二人さん。長いお湯だったな。何してたんだ?」
俺がさりげなく聞いた質問に、ペルーシャは目を輝かせて近寄ってくる。
「あ、マオウさん。実はですね。アマミちゃんって結構・・・。」
そこまでペルーシャが言ったそのとき、突然何者かの手によって彼女の口は押さえられてしまう。
見ると、血走った目でペルーシャを睨むアマミ軍曹の姿がそこにはあった。
「おい!!ペルーシャ!それ以上言ってみろ。殺すぞ?」
「ぴゃい・・・ずびばぜん(すみません)。」
アマミ軍曹の殺気によって涙目のペルーシャが謝る姿は、完全におびえる小動物のそれだ。
怖い!アマミ怖い!
なにが怖いってペルーシャはもちろん、俺の方にも凍てつく視線を向けて「それ以上聞いてみろ、殺すぞ?」って目だけで伝えてくるんだもん!いや、ホント怖い・・・。
俺もペルーシャもアマミによって封殺されコクコクと首を縦に振り、抵抗の意思がないことを必死に伝える。
すると、観念したのか、ペルーシャの口を解放するアマミ。
「・・・・っぷはぁ!死ぬかと思ったぁ・・・。」
ペルーシャの冗談のようなそのつぶやきには三割ほどの真剣さがあった。
だが、そんな親友の安堵が気にくわなかったらしい鬼軍曹。
頬を軽く膨らまして腕を組み、唇をとがらせた。
「ペルーシャが変なことをマオウに言おうとするから悪いんだ。」
「ごめんねアマミちゃん。許して?」
シュンとしっぽまでしおれた申し訳なさそうな顔で謝るペルーシャ。
上目遣いなその瞳は潤んでいる。
いくら鬼軍曹アマミと言えども、親友のしおらしい様子には弱いのか、苦笑を漏らす。
「はぁ、しょうが無いな。許すよ。」
「うん・・・ありがとう!アマミちゃん大好き!!」
「はぁ・・・。」
感極まったペルーシャちゃんはアマミちゃんに抱きつき頬をスリスリとこすりつける。
抱きつかれたアマミは鬱陶しそうな表情だが、かといって嫌がるそぶりは見せていない。
いや、ほんのり頬が朱に染まっているところを見ると、少し嬉しいのだろう。
俺は素直に喜べないところがアマミらしいな、と思ってしまった。
そんなほほえましい光景を眺めていた俺だったが、そのまま見つめているわけにもいかない。
「じゃあ、次は俺がお湯をもらっても良いか?」
「あ、いいですよ。」
抱きついたままの姿勢で応えるペルーシャに俺は苦笑しながら脱衣所へと向かう。
「あ、あと、脱いだものは置いといてくれたら良いんで!」
「りょーかい。」
背中にそんな声を受けつつ、俺は脱衣所の扉を閉めるのだった。
「はぁ~・・・良い湯だなぁ。」
俺はお湯に肩までつかり弛緩する。
お湯に浮かびながら、俺はボーと物思いに耽る。
というのも、さっきからずっと、ペルーシャとアマミを襲ったザーテュルという狂人の話が頭から離れなかったのだ。
もちろん、それはその狂人が持つ恐ろしさや狂気性もその要因だとは思うが、それよりも気になっていたことがある。
それは・・・ザーテュルの片目が、俺の片目の状態に酷似していると言うことだった。
先ほども鏡で確認したが、およそ偶然とは思えないほど先ほど話で出てきたザーテュルの目とよく似ている。
嫌な予感がするのだ。
これほど記憶がないことを恐ろしいと思った瞬間はない。
ここに来てからの生活が、ペルーシャやマーガレットさん、アマミの優しさによってとてつもなく幸せで自分が記憶を失っていることを意識したことなど無かった。
だけど、今のマーガレットさんの話を聞いて、それを意識しない方が無理な話だった。
暖かな湯船に浸かっていてもなお、背筋に冷たいモノを感じる。
俺はその悪寒から逃げるように、ザブンとお湯に顔まで沈めるのだった・・・。
脱衣所で新しく用意された綿の部屋着に着替えリビングの扉を開ける。
「あ、マオウさん!長いこと浸かってましたねー。」
「すまん、気持ちよくてつい、な。」
「・・・?そうですか。なら、良かったです。」
ペルーシャは一瞬不思議そうな顔をしたが特になにも気にした様子はなく笑う。
だが、俺は少しお湯に浸かりすぎたようでクラクラしていた。
「すまん、冷たい水貰えるか?」
「ほら、やるよ・・・。」
ペルーシャに言っていたつもりだったが、なんと驚くべき事にアマミがすでに水の入ったグラスを持ってすぐ隣にいた。
「あ、ありがとう、アマミ。」
「フン・・・。」
鼻を鳴らしてソファーへと向かってしまうアマミに俺は苦笑を漏らし、ありがたくその水を飲んだ。
思っていたよりも喉が渇いていたようで、一息でグラス一杯すべて飲み干してしまう。
「っはぁ!うまい。生き返ったぁ・・・。」
俺がグイッと口をぬぐいそう言うと、ペルーシャがこそっと耳打ちする。
「アマミちゃんずっとマオウさんがのぼせてるんじゃないか?って心配してたんですよ。」
「え、それホント?」
「ホントです。」
俺が驚いてペルーシャの顔を見ると、悪戯っぽい笑みを浮かべたペルーシャがそこにいる。
ピコピコと可愛らしく耳が動いているのがなんとも幼く見える。
すると、アマミは、俺たちがなにやらアマミについて話していることに気づいた。
「こら!ペルーシャ、また変なことマオウに言ってんじゃないだろうな!」
両手を腰に添えペルーシャに突っかかるアマミ。
「えへへ~、変なことは言ってないよぉ。」
「本当だろうな。」
訝しげな視線を送るアマミに対し、ペルーシャは自信満々な表情を作った。
「本当だよ。事実しか私は言わないです!」
ムン!と自慢げに胸を張るペルーシャはふりふりとしっぽが揺れている。
そんなペルーシャの様子に呆れたアマミは、額に手を当てて呟く。
「その事実ってのが一番心配なんだよなペルーシャの場合・・・。」
「なんで!心配しないでよ、アマミちゃん!!」
「ムリ。」
「がーん!!」
この世の終わりのような顔で落ち込むペルーシャ。
しっぽも耳もしおれてしまい、全身で落ち込んでいるのが分かった。
俺はそんな二人の様子がなんだか嬉しくて笑みを溢す。
「なに、笑ってんだよマオウ。」
そんな俺の笑顔がかんに障ったのかギロリとこちらをにらみつけるアマミ。
「なんでもないよ。」
俺がそう答えると、アマミは顔を赤くして飛びかかってきた。
「むぅー!なんかお前のその顔気にくわない!天誅!」
「ぐぇ!!苦しい、助けて。」
アマミの指が首を容赦なく締め付ける。
「あはは!アマミちゃんとマオウさん仲良いなぁ!」
ペルーシャがそんな俺たちの様子を無邪気に笑っているので、俺たちは抗議した。
「「これのどこが、仲良しなんだぁああ!!」」
「ほら、仲良し!」
図らずも声が揃ってしまい、その様子を見て嬉しそうに両手を合わせるペルーシャ。
俺たちの抗議など耳を貸す様子もなく、うんうん、と嬉しそうに頷いている。
そんな嬉しそうな彼女を見ていると、俺も悩んでいたのがばからしくなってきた。
それはアマミも同様で呆れながらも口元には笑みを浮かべ笑っている。
いつのまにか、俺も声を上げて笑ってしまっている。
こんな幸せがずっと続いていけばこれ以上嬉しいことはない。
だけど、もしもその幸せが失われそうになれば、誰よりもまず俺が彼女達を守る。
アマミに揉みくちゃにされ、ペルーシャに笑われながらも、そんなことを心の中で一人、俺は誓うのだった。
いかがでしたか?
次回でこのお話もようやく節目の10話を迎えます。
ここまで応援してくださった方々ありがとうございました!
これからも応援よろしくお願いします。
ということで、何か節目にふさわしいお話を描きたいなあと思いますので意見とかあればドシドシ感想欄にてください!
よろしくお願いします!