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魔王様のケモミミニューゲーム  作者: Ai
ケモミミ達の国
6/11

蠢く闇 前編

第六話です。

過去編です。どうぞ。

巨人襲撃の知らせをリリイ一家に伝えた私は今、アルフレッド隊長、サーシャ、ヴァン、私の四人で巨人襲撃地点へと向かっていた。


すると、まもなく前方に無数の煙がたなびく姿を確認する。

どうやら、私がいた頃よりもかなり巨人に押し込まれ、進行を許しているようだ。

その証拠に、市民はパニックになり、私たちが走って行く方向とは逆――中心部の方向へ、我先に!と走り去っていく。

中心部にほど近いこの場所でさえ、すでに集収が付かなくなっていた。


すると、その逃げ惑う市民の様子を見たアルフレッド隊長は歯を食いしばり叫んだ。

「クソ!!副隊長のあいつはなにをしているんだ!。」

現場の指揮権は隊長不在の際には副隊長へと移行する手はずになっている。

彼が信頼する副隊長の指揮下で、これほど混沌とした現状が生まれていることが信じられないのだろう。

おそらく誰もが目の前の光景を信じられなかったのだと思う。


しかし、「なぜここまで巨人の進行を止められなかったのか」「これほどまで統制が取れていないのか」という一同のいずれの疑問にも答えうる原因を私は知っていた。

それは本来であればそれは先程隊長に報告するべき最優先事項であった。

しかし、情けないことだが、隊長夫婦の舌戦に臆し言うべきタイミングを逸してしまっていた。


だが、隊長の悪態を耳にしてようやく、先ほどまでタイミングをつかめず伝えられなかった事実を私は口にすることができた。

「誠に残念ながら、副隊長はお亡くなりになりました。」

「なに!?」「え!?」「な・・・!?」

三人の驚きの声が重なる。

なかでも、アルフレッド隊長が驚いたように振り向き私を見るので、副隊長の遺言を伝える。

「そして、隊長にあとは託した、ともおっしゃっていました。」

その一言に、大きく目を見開いたアルフレッド隊長。

しばらく、言葉が出なかったようだが。

「あいつ、勝手なことを・・・!」

そう吐き捨てるようにつぶやいたアルフレッド隊長は、あまりにもやりきれない思いで顔をしかめた。


聞いたところによると、アルフレッド隊長と副隊長ことガーディ・コニッチは旧知の仲だったらしい。

衛兵の訓練兵時代から同じ釜の飯を食い、同じ教官の下でどやされながら、ここまで上り詰めた親友だったのだ。

それがこれほどあっけない死になろうとはアルフレッド隊長も思っていなかっただろうし、この知らせを聞いて、最も悲しんでいたのは疑いようもなく、アルフレッド自身だったはずだ。


だが、百戦錬磨の戦士は仲間の死を嘆き悲しむことはしない。

憤りも悲しみも、すべてを戦う力に変えていかなくては、今度は自らがその屍になることを知っているからだ。


アルフレッド隊長は素早く胸の前で十字を切り、目をつむる。

彼が祈りを捧げたのはほんの一瞬だった。

まぶたをゆっくりと持ち上げるアルフレッド隊長。

その瞳にはメラメラと燃える憎悪の炎が宿っているように見える。

そして、開かれた彼の眼はすでに戦地を見据えていた。

「シュタイン!」

「はい!」

自分の名前に短く返事をする。

「では、今、部隊の指揮を執っているのは誰だ?」

アルフレッド隊長の声に素早く私は応えた。

「クフ・トニックです。」

「あいつか・・・。あいつなら、うまく俺たちが来るまでの時間稼ぎをしてくれているだろう。よし、急ぐぞ。」

「は!」

アルフレッド隊長は更に速度を上げてかけていく。

その後ろを私、サーシャ、ヴァンの順に続く。


警鐘の音が近くなってきた。

ツンとした鉄の匂いが私の鼻を微かに刺激する。

空は夕焼けのように青からどす黒い赤へとグラデーションをなしていて、なにか自分の運命を暗示されている気分になる。


――嗚呼・・・・この地獄に私はまた戻っていくのか。


そんな乾いた諦念が私を捉える。

そのときの私は自らの運命をすべて悟ったようにも感じていた。


だけど、まだ私の心はかろうじて死んではいなかった。

絶望という暗闇にあってもなお消えぬ希望であり進むべき道を照らす光。

それが、私にとってはアルフレッド隊長であり、このともに駆けるメンバーの頼もしさだけが、私の弱い心を支えていたのだ。


――まだだ。まだ私たちは終わっていない!


私は心の中でそう叫び、自分の弱さを振り払うように、強く、強く戦場へと駆けていった・・・。





――やはり大きい・・・!


あまりの、驚きと恐怖でその程度の言葉しか出てこない。

外部周辺の建物は軒が低いとは言え、五メートルほどはあるのだが、その建物の屋根は巨人達の腰ぐらいの高さしかなく、巨人達の屈強な上半身が見えるだけで五体ある。


あれが私たちに倒せるのだろうか?

私たちは殺されるのではないだろうか?


そんな悪いイメージばかりが頭に去来する。

私はそれらを振り落とすために、頭を軽く振る。

とりあえず、今やらなくてはならないことを把握しなくてはならない。


そう考えた私はアルフレッド隊長に提言した。

「まずは、クフさんのところに合流しなくちゃいけませんね?」

「ああ、そうだな。シュタイン。どのあたりにいるか、分かるか?」

「おそらく、最終防衛ラインで指揮を執っていると思われます。まずはそこにむかって見るのが良いかと。」

私の推測に納得したアルフレッド隊長はうなずく。

「分かった。そうしよう。サーシャ、ヴァン!」

「「はい!」」

「あの一番手前の巨人のところへ向かう。しっかり付いてこい!」

「「はい!」」

サーシャさんとヴァンさんも大きな声で返事をする、と速度を更に上げる。

二人とも、ウサギ、猫系統の獣人なので魔法を使わずともとんでもない速さだ。

一瞬の加速で私は彼らの最後尾に追いやられる。

だが、私も足の速さには覚えがある。

なんとかこうとか彼らの速さに付いていき、クフさんのもとへと急いだのだった。


私たちがクフさんのもとへたどり着いたとき、クフさんが丁度一体の巨人の頭をすっ飛ばしたときだった。

「うわっ!」

巨人の頭がすぐ近くに落下したため、私は思わず声を上げてしまう。

巨人の頭部はグシャリ!という音を立てて、つぶれた。

クフさんは刀に付いた巨人の体液を左右に振り払い、鞘に収めると、そこで初めて私たちに気がついた。

「おお!アルフレッドじゃないか!よく来てくれた!」

「クフこそ。よくこらえてくれた。」

二人は握手を交わす。

さわやかな笑みを浮かべるクフさんは男らしかった。

だが、もちろんそのクフさんの頭にもケモ耳が生えている。

グレーの毛並みで、鋭くとがったシェイプ。

そう、彼はオオカミ系統の獣人だった。

オオカミは私たち獣人の中では最も上位の存在で、先ほど、巨人の頭をすっ飛ばしたことカラも分かるとおり、オオカミ系統の個体は戦闘力が底抜けに高い。

戦闘能力で言えば、クフさんに勝てる者は、そこにいるアルフレッド隊長ぐらいだろう。


つまり、今の戦力のナンバーワンとナンバーツーがここに集っているのだから、心強くないわけがない。

私は今になってようやく「勝てるかもしれない」と思うようになっていた。


アルフレッド隊長とクフさんは短い間にいろいろな情報交換を行い、今は戦況の整理をしている。

「じゃあ、もはや残存している兵士はたった百人もいないというのか?」

アルフレッド隊長の問いにクフさんは悔しそうな顔で答える。

「ああそうだ。ガーディが死んだのが本当に痛かった。それを聞いた兵士の士気ががくっと下がってしまったからな。」

だがアルフレッド隊長はぴくりとも表情を動かさないで聞いた。

「では、お前はどうやってそれを立て直した?」

その隊長の淡々とした様子にクフさんもすぐに答える。

「三体ほど巨人どもを屠ってやっただけだ。」

その答えを聞いたアルフレッド隊長は初めてニヤリと笑みをうかべた。

「なるほど、ようは暴れただけか。」

クフは嬉しそうに笑う。

「結局それが一番手っ取り早い。」

その言葉になにか納得したようなそぶりを見せたアルフレッド隊長は次の行動について指示を出した。

「なるほど・・・ならお前はそのまま隊全体を指揮せよ。」

「了解。では、隊長殿は?」

クフの楽しそうな問いかけに、アルフレッド隊長はどう猛な笑みで答えた。

「俺は隊の士気を挙げてくるよ。」

クフは面白そうに笑う。

「それ、お前がただ暴れたいだけじゃねーか。」

「そうとも言う。」

くるりときびすを返した隊長は、鞘からスラリと長い長剣を抜きはなつ。

金属独特の凜とした音が高く響いた。


アルフレッド隊長はその長剣をダランとぶら下げ、こちらに目だけを向けて言った。

「俺があいつらに突っ込む。お前達も付いてこい!!」

「「「はい!」」」

私たち三人は短く返事をし、駆けだした。


右前方に一体の巨人が迫りつつある。

緑っぽい肌に、ごつごつと隆起した筋肉。

頭は大きく、つるりとしている。

知能はあまり高くないのか、手に持った混紡が建物に当たり、そこら中を破壊しているが、そんなことはお構いなしにまっすぐこちらへ向かって来る。

「殺す・・・!」

そう低くつぶやくと、アルフレッド隊長はこちらに迫ってきていた巨人一体に猛然と突撃した。

巨人もアルフレッド隊長に気がついている。

「ブォオオ・・・!!!」

雄叫びを上げる巨人。


「うるさいぞ・・・!」

ヴァンさんは柄に宝玉の付いた剣を掲げ魔法を唱えた。

――植物系創世魔法「アイビー」

「ウギュォオオ・・・!」

巨人の足下から大きな植物のツタが生え、巨人の両脚を絡め取る。

あれほど巨大な植物を生み出すことは並の使い手ではできない。

さすが、この国の理事を任されているだけあって、魔法のセンスはピカイチだ。

これでアルフレッド隊長もやりやすくなったはず・・・。

「ブォオオ!!」

しかし、ツタによって絡め取られていたのは両脚のみ。

巨人は混紡を振りかぶり今にもアルフレッド隊長の上に振り下ろそうとしている。

「隊長!!」

私は思わず、叫んでしまった。

「・・・・!!」

だが、巨人の混紡は誰もいない地面を叩くのみ。

そこに人影らしき者は見当たらない。

「・・・?」

砂埃が舞い上がり、視界が遮られる。

巨人はアルフレッド隊長の姿を見失い、キョロキョロと左右を見渡していた。

「あ!」

サーシャが思わず声を上げた。

空に何者かが飛び上がり、巨人の頭頂部上空で剣を引き絞っている。

燃える空は赤。キラリと光る刃。顔は影になっていて見えないが口元にはどう猛な笑み。

「ハァアアアアア!!」

力強い咆哮とともに放たれた斬撃。

刃は巨人の肩口から足下までを見事切り裂く。

「ゥゥ・・・・コポ・・・。」

両目を見開き倒れゆく巨人。

切り口から、体液が濁流となって噴き出し、ムッとするほどの臭気が私の鼻をつんざいた。

ズズン!という衝撃が大地を揺らす。

これで一体討伐完了。

私はあまりにもたやすく討伐できたことに唖然とする。

「ふぅうー・・・。」

隊長は巨人の体液で汚れた長剣を左右に振り払い、鞘に収める。

その姿はあまりにも超然としていて、先ほどまで巨人との死闘を繰り広げていたとは思えない様子だ。

だが、サーシャさんにはなにかが分かったようで、ツカツカとアルフレッド隊長のもとに近づいていく。

その様子は少し怒っているようにも見えた。

「見せなさい。」

サーシャさんの圧力にシブシブと言った顔のアルフレッド隊長。

「・・・・・。」

サーシャさんがアルフレッド隊長の服を捲り上げると、脇腹のあたりにあざができていた。

「やっぱり、さっきの粉塵。避けきれなかったんでしょ?」

「いやまあ、なに。小石がとんでくると思わなくて。あれだ、別に今も隠そうとしていた訳じゃないぞ?」

「そういうの良いから。貸してみなさい。」

サーシャさんが呆れた顔をする。

なんか、子供とお母さんみたいだな、と思ったことは内緒である。

「すぐ、かっこつけようとするんだから・・・。」

ぼそりとそう呟いたサーシャさんはアルフレッド隊長のアザに手をかざす。

アルフレッド隊長はバツが悪そうにジッとしている。

すると、患部が燐光を放ちだし、みるみるうちにアザがなくなっていった。


――治癒魔法。


治癒魔法は多くの魔力を消費する上に、繊細な魔力操作が必要であるためなかなか治癒魔法の使い手はおらず、戦場では最も貴重な戦力である。

しかも、今のサーシャさんは軽々と、軽傷程度の怪我を治してしまった。

普通、治癒魔法というのは術者に大きな負担が掛かり、時間と体力を大いに奪われるモノである。

しかし、彼女はまるで呼吸でもするかのように治癒してのけた。

さすがだ。

さすが自他共に認めるこの国一番の治癒魔法の使い手、サーシャ・リリイ。

彼女もまた、アルフレッド隊長、ヴァン・カーティスに並ぶ化け物のようだ。


強烈な畏怖の念がわき起こり私は身ぶるいした。

ここにいる三人は紛れもなく最強のメンバーだ。

近接戦闘では右に出るモノはいないアルフレッド隊長。

攻撃性魔法の使い手ヴァン・カーティス。

治癒魔法の使い手サーシャ・リリイ。

この三人がいればどんな敵であっても負けるとはとうてい思えない。

なにせ、あの巨人をものの数秒で討伐してしまうのだから。


私はようやく、なにか絶対的な光を見た気がした。

希望の光が確固たるものとして眼前に迫ってきた気がしたのだ。


勝てる。勝てるぞ。

ここまでは進行をゆるしたが、ここからはそうはいかない。

見ていろ。巨人ども。


ここからが私たちケモ耳一族の反撃だ!


私は敢然と立ち上がり、巨人たちを見据えた。

ここからだと、巨人は左前方に一体、正面奥に一体確認できる。

今の調子でいけば、どうってことなく倒せる・・・。

そこまで考えた私の目に、ふと奇妙な人影を見つける。

目深に被った、ひさしの大きいハットに、足下すれすれまで伸びる黒いコート。

それだけでも怪しい。だが、なによりも私たち獣人とは異なるのが、ケモ耳がついていないことだ。

ここの国の人間であればケモ耳が付いているはずなので、あの黒コートは敵国のものという事になるのか?


その異様な姿に他の三人も気がつき、視線を向ける。

すると、その黒コートの男は細く骨張った手をヒラヒラと振りながら、調子外れな声でこう言った。


「やあやあ。みなさーん?お元気ですかあ?」

「なんだ、お前は?」

アルフレッド隊長が柄に手を駆けながらそう問うた。

すると、黒コートの男は恭しくハットをとり、お辞儀をする。

「わたくし、ザーテュル・ユゴーと申します。以後お見知りおきを。ヒヒッ!」

ひい笑いを繰り返すザーテュルの姿はいかにも奇妙であった。

だが、そのときはまだ不快感しか抱いてはいなかった。

「・・・・・・!!」

しかし、ザーテュルが顔を上げた瞬間、全員が息をのんだ。

――片目がない。

ザーテュルの右目が空洞になっているのだ。

驚きのあまり誰も声を上げられないでいる。


すると、そんな私たちの様子を見たザーテュルは口の端をキュッと引き上げて笑った。

「さあ、みなさん。お元気ですかぁ?」

ザーテュルとの邂逅。

これが私たちの破滅の始まりだった・・・。


いかがでしたか?

また次話で会いましょう!

あと、感想くださいね〜。

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