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魔王様のケモミミニューゲーム  作者: Ai
ケモミミ達の国
2/11

家族

第2話です!今回のお話は長めになってしまいました。キリの良いところまで書きたかったので勘弁してください。

では本編をどうぞ!

 転移した俺を出迎えたのはまずひんやりとした空気だった。

見渡せば、そこには苔むした岩や、折れたままになっている巨木、うっそうと茂るシダ類。

どうやらここは深い森の奥らしい。

月の光も、競うように伸びている高い木々の葉に遮られてここまでは届かず薄暗い。

 さきの勇者との戦いで傷を負った俺としては一刻も早く屋根のある暖かいところで休息をとりたいのだが、こんな山奥ではそれも難しい。

夜が更ければさらに冷え込むだろう。

冷えは傷の治りを悪くする。

急がなくては。

そう思い、俺は辺りをもう一度グルリと見渡す。

しかし、こんな山奥に民家などあるわけもない。

それも魔族の王たる俺だ。

 人間どもに見つかればひとたまりも無いが、かといって同じ魔族であっても今の俺の弱りようを見れば、これ幸いに襲いかかり下克上を果たそうとするであろう。

 魔族の忠誠ほど信用できないモノはない。

 そこで、俺はひとまず洞窟を探そうと歩き出した。

 洞窟であればとりあえずは身を隠せる上、雨風もしのげる。

 火をおこせば夜を耐えることぐらいはできるだろう。

 傷は依然痛むし、なにか頭もぼうっとする。

 早く見つけなくては。

 満身創痍の俺は周りをもう一度ぐるりと見渡す。

 すると、木々の奥に岩肌がちらりと見えた。岩山であればそこに洞窟がある可能性は高い。

 そう考えた俺はその岩山の方角へと歩み始めた。

 人の踏み入れた形跡のない森には当然整備された道など存在しない。

 なんども伸びた蔓やこけのぬめりに足を取られ、道なき道を行くことは困難を極め、着実に俺の体力を奪っていた。

 一時間ほどたっただろうか。やっとの思いで俺は岩山へとたどり着いた。

 そこは草木が繁茂していた森の中とは異なり、地面が岩や砂になり多少歩きやすくなった。

 だが、体力は確実にむしばまれている。それに冷え込んできた。吐く息が白い。

 できるだけ早く見つけなくては。

 俺は岩山のくぼみを探すために懸命に目を凝らし歩く。

 月明かりはおぼつかずなかなか発見することは叶わない。

 そのとき、ヨタカの鳴き声が森の方角から聞こたので、俺は何気なく森の方角に目を向けた。

 それは拍子抜けするほどすぐそこにあった。

 森の方から見ると岩に隠れて見えないが、反対に森の方を見ると岩の影にくぼみがあったのだ。

 俺は足を引きずりながら急いでその洞窟と言うには少し小さい、でも大人が五、六人は入れる岩のくぼみへと入り込んだ。天井も高い。一人だと十分に広く感じる。寝ころぶことも可能そうだ。

 俺はそこまで考えてようやく安堵した。

 どうにか明日を生きて迎えられる。

 しばらく、俺はそこに座り込みジッとしていると、自分の体温で空気が暖められ幾分寒さが和らぐ。

 しかし、さすがにこのままで眠るには少し寒すぎる。

 そう考えた俺は億劫ながらも立ち上がる。

 洞窟を少し離れ、適当なサイズの薪を拾い集めて洞窟に持ち帰った。

 たき火を焚くための火種は自分の魔力しか無い。最後の魔力を振り絞り薪に火を灯した。

 パチパチ火の粉がはじける様子を確認し、安堵のため息をつく。

 すると、突然目眩のような睡魔が俺を襲った。どうやら魔力、体力ともに限界に達したようだ。

 目がかすみ、平衡感覚がなくなる。

 フッという脱力感を感じたと思った時にはすでに俺は意識を手放していた・・・。

 

 パキパキという何かを踏みしめるような音が聞こえ、俺はまぶたをあげる。

 そこには火の消えた薪の燃えかすを踏みしめた男達がいまにもナイフで襲いかからんとしていた。

 男達の一人と目があう。

 目の覚めた俺に気がつくと、その男は長い舌を下品に突きだし、イヤラシく笑みを浮かべた。

「おい、あんた。身ぐるみ全部おいていけやぁ!そうすりゃ、命だけは助けてやるぜぇ。」

 男達はおかしそうに体をくねらせ嗤う。

 相手は三人でこちらは魔力も尽き手負いの一人。

 普通に考えれば勝てる通りはないだろう。魔法の使えない魔王など、結末をしっているホラー映画ぐらい恐るるにたらない。

 しかし、俺は剣を支えにして立ち上がる。

 目眩は依然として消えず 頭がズキズキと痛み、意識ももうろうとしている。

 だけど、俺は勢いよく鞘からその剣を抜きはなった。魔王にこれ以上、逃げはありえない。

「お・・・?やるのか?こっちは三人もいるんだぜ?へへ。」

俺の好戦的な態度を見た三人はニヤニヤとイヤラシい笑みを浮かべ余裕の表情。

「うるせぇ・・・。」

「あぁん?」

俺の小さなつぶやきに、眉根を潜める男。

「聞こえなかったなぁ、もう一度・・・・。」

「うるせぇって言ってんだよ。くずどもが。」

ギロリと俺は渾身の力を込めて奴らを睨んだ。俺の眼光にすくむ男達。

だがそれも一瞬。

次の瞬間には怒りと憎悪によって顔をゆがませて飛びかかってきた。

「殺す!!」

 短く低い声でそう叫びながら飛びかかってきた男。

 おそらく彼らは夜盗のたぐいであることは間違いない。

 盛り上がった筋肉や伸びっぱなしのひげ。それに、この粗野な動きがなによりの証拠である。

 攻撃の予備動作が大きく容易にナイフの軌道が読めてしまう上に無駄も大きい。

 端的に言って、隙だらけだった。

 だが、今の自分には魔力はない。

 さてどうしたものか・・・。

 俺の迷いを見せる様子に勝利を予見したのだろうか。

 男は恍惚たる表情でナイフを振りかざそうとしている。

 そのとき。俺は右手をパッと開いた。洞窟内に金属音が鳴り響く。

 握っていた剣が地面に落ちたのだ。

 それを見た男の目は驚きと戸惑いによって見開かれる。

 人はイメージしていることと異なる事が起きると、動きが多少なりともこわばるものだ。

 今回も目論見通り、この男もナイフを振りかざそうとしていた腕の動きがほんの一瞬止まり、決定的な隙を生んだ。

 当然、その隙を見逃す理由はない。

 俺は男のナイフを一瞬の加速によってかいくぐり男の背後へ回ると、右足を軸に慣性を利用し体を反転。あとは渾身の力を込め、左手に持った鞘で男の頭を振り抜いた。

 パカァン!というすさまじい衝撃音とともに男の体は洞窟の壁にぶち当たった。

 脳を揺さぶられた男は白目を剥き、泡を吹きながらその場に崩れ落ちる。

 これで一人撃退だ。

 俺はユラリと体を起こし、残りの男達に視線を向ける。

 ヒッと小さく悲鳴を上げる二人に俺はだめ押しとばかりにこう聞いた。

「やるかぁお前らも?ただし、命の保証はしねぇ!」

「ひぃい!!たすけてくれぇえ!!」

 そう叫んだ男達は泣きながら逃げ帰っていく。

 俺はゆだんなくその後ろ姿を見ていたが森の中に消えていくことを確認すると「ふぅうー」と大きく安堵のため息を吐き出す。

「危なかった・・・あのままやっていたら死んで・・・た・・・な・・・・!」

 またも目眩に似た立ちくらみが俺を襲う。

 しかし、今回は倒れ込みそうになるのをなんとか鞘を支えにして踏ん張ることができた。

 やはり俺の体はまだまだ前回にはほど遠く魔力も体力も回復したとは言いがたいこの状況。

 贅沢を言うならばあと二、三日、休息がほしいところだった。

 しかし、さっきの連中がこの横で気絶している仲間を取り戻すために、またここに戻ってくることは十分に考えられる。

 ゆっくりしてはいられない。

 俺は先ほど地面に手放した愛剣を鞘に戻すべく手を伸ばすと、その横に、鍔の広い黒の帽子が落ちていることに気がついた。

 どうやら、俺はこれを被らずに戦闘していたらしいな・・・。

 剣を鞘に、帽子を目深に被る。

 これで右目を見られることはないだろう。

 洞窟をでると遠く向こうの方の空が微かに白んでいるのが見えたが、見上げるとまだそこには星々が輝いている。

 あと一時間ほどもすれば朝が来る。

 澄み渡る夜空に見入っていた俺だったが、満足すると森とは反対の方角へと歩を進めた。

 

 岩山を挟んで森と反対側はだだっ広い平原になっていた。

 どこまでも続く新緑の絨毯が昇り始めた朝日を受け、キラキラと輝き実に美しい。景色だけで言うならば素晴らしいの一言に尽きた。

 だが、問題が一つあった。それは、草しかないことだ。

 森であれば木の実であったり、キノコであったり、動物であったりと食べ物には困らないであろう。

 しかし、ここには文字通り草しかない。

 水も食べ物もないなかで、満身創痍の体を運んできたがそろそろ限界が近い。目眩で視界がぼやけ、頭はズキズキと痛む。

 魔力もほとんど尽きた。万事休すか・・・。

 絶望的な現実に気力までも削られた俺は膝から崩れ落ちた。

 目をつむると、芝の青い匂いやお日様のぬくもりが感じられ、こんな絶体絶命の瞬間なのに不思議と心の中は安らかだった。

 俺はそんな自分のことがおかしくて口元に笑みを浮かべていたと思う。

 だけど、そう思ったときにはすでに俺の意識はなかった・・・。


 どこか懐かしいそれでいて嗅いだことのない匂いに誘われて、俺は目を覚ました。

 だが、そこにあったのは見知らぬ天井だった。

 俺はゆっくりと体を起こし周りを見渡す。

「ここ・・・どこだ?」

 そうつぶやき、あたりを見渡していた俺はあることに気がついた。

 傷が手当てされているのだ。

 胸元や肩口には丁寧に包帯が巻き付けられているし、それに治癒魔法による治療の痕跡も見受けられる。

 そこまで術者の技量が高くないのか完全治癒にまでは至っていないがそれでも今の俺にとってはすごくありがたいことだった。

 また、俺の寝かされていた部屋はものも少なく整理整頓がきっちり行われていてここの主の几帳面な性格が会わずとも感じ取ることができた。

 俺はこの家の主に礼を言おうと立ち上がり駆けたそのとき、部屋に続く扉が開いた。

「あ!」

 俺はその声の主を見て驚いた。

 なぜなら、その子ははっきり言って超美少女だったのだ。

 例えるならそう慈悲深い女神様のような風貌だった。

 どこまでも柔和で穏やかな笑みを浮かべる彼女の顔は瞳も大きく肌もなめらかで肌理が細やか。

 ほっぺは見ているだけで分かるほどプルプルもちもちとしていて、人差し指でプニプニしたら絶対に気持ちいいだろうな、と思う。

 だが、一際目を引くのはやはり彼女の髪。なんと彼女の髪は、粉雪のように見事な白色なのだ。

 白髪は老いの象徴とも言われる。

 しかし、彼女の場合、白い肌や大きな青い瞳、全体的にフンワリとした服装。

 そして何より彼女の優しそうな笑みが白髪と相まって美しい聖母のように思われた。

 俺は部屋に入ってきた彼女の姿に声もなく見惚れてしまっていたのだが、あることに気がつく。

 それは、彼女の頭の上に大きなケモミミが付いていることだった。

 それも猫の耳のようにツンッと、とんがった、柔らかな毛で覆われたその耳が。

 俺は自分の目が信じられないでこすりこすりして見たがやはりそこには猫耳がある。

 すると、彼女はそんな俺のぶしつけな視線から逃れるように身をよじるので俺は慌てて取り繕った。

「あ、悪い。じろじろ見ちまって。」

「いえ、そんな。お体の方は良くなりましたか?」

「ああ、おかげで大分良くなったよ、ありがとう。君が看病してくれたのかい?」

「はい。でも、私の治癒魔法ではそれが限界でして・・・。」

申し訳なさそうにシュンとうなだれる彼女に俺は首をぶんぶんと振り否定する。

「いやいや。十分すぎるくらい嬉しいよ。ありがとう。」

「いえ、恐縮です・・・。」

 照れくさそうに首をすくめる彼女の頬は赤く染まっている。

 そんな彼女の様子を眺めていた俺はさっきまで抱いていた印象が少しだけ異なっていることに気がつく。

 俺は始め彼女のことを聖母だと比喩したが少し訂正したい。

 彼女は聖母ではなく天使だな。どうにも可愛すぎる。俺を萌え殺す気か・・・。

 そんな俺の胸中を知らない彼女はしゃべらない俺の事を不思議そうに首をかしげる。

 なので俺は慌てて次の言葉を紡いだ。

「あ、そうだ。君の名前教えてもらっていなかったよね。君の名前はなんていうのかな?」

「申し遅れました。私はペルーシャ・リリイと申します。よろしくお願いします。」

 自己紹介を終えたペルーシャは丁寧にお辞儀をする。ピクピクと嬉しそうに耳が動いているのが見て取れた。

 ついに俺は先ほどから疑問に思っていたことを口にする。

「あのさペルーシャ。気になってることがあるんだけど良いかな?」

「はい、なんでしょう?」

「君は獣人族でいいのかな?」

「はい。そうです。この通り私は獣人です。」

俺の質問を肯定したペルーシャは、おもむろにおしりを俺の方に向けて突き出す。

 短めのスカートの上からでも、彼女のおしりのシルエットは綺麗だった。

 だがそれ以上に俺を驚かせモノがある。それは・・・。

「しっぽがある・・・。」

 そう、彼女のおしりからは白いしっぽが生えていたのだ。

 俺は驚きのあまりフサフサと柔らかな毛で覆われたそれをまじまじと見てしまう。

 俺の視線がよほど恥ずかしかったのか、その言葉を聞くとすぐにくるりと反転したペルーシャ。

 見ると、顔が赤く火照っている。

「私、猫系統の獣人なんです。だから、今見てもらったようにしっぽも生えていますし、この通り猫耳だって生えています。」

 そう言うと両手を両耳にそえピコピコと器用にその猫耳を動かして見せるペルーシャ。

 自分は獣人である、ということを伝えようと懸命に努力する姿は非常に愛らしい。

 いつまでも見ていたいがそういうわけにもいかないので俺は感心したようにうなずいて言う。

「そうかぁ。ペルーシャは猫の獣人なんだね。」

「はい。そうなんです。ここの国の人たちは基本的に皆獣人です。渡しみたいに猫系統の子もいれば犬系統の子もいますし、珍しいので言えばオオカミの子もいます。」

「へえ。そりゃすごいな。」

「恐縮です・・・。」

 頭を押さえて照れるペルーシャだが、しっぽがフリフリと左右に揺れているのでどうやら褒められて喜んでくれているみたいだ。

 しっぽに感情が出ちゃうんだな。可愛い・・・。

「では、そろそろあなたの事を教えて貰えると嬉しいんですが・・・。」

控えめな上目遣いでそう尋ねてくるペルーシャに俺は自己紹介をしようと試みたのだが。

「あ、そうだな悪い。まだ、俺の自己紹介がまだだった。俺の名前は・・・あれ?俺の名前は・・・。」

「どうされたんです?」

 言葉につまる俺を心配そうに見つめるペルーシャ。

 しかし、俺はいっこうに自分の名前が思い出せない!

 そして、名前どころか、過去のいくつかの記憶がすっぽりと消え去っているようで、記憶の断片だけが頭をよぎり意味をなしてくれない。

 こんな事は初めての経験で俺は戸惑った。

「どうやら記憶がいくつか消し飛んじまっているみたいだねぇ。」

 俺はサッと声のした方向に顔を向ける。

 扉を開き入ってきたのは初老のおばあちゃんだった。

「あなたは・・・?」

「儂はマーガレット・リリイ。この子の親代わりだよ。」

「ペルーシャの・・・。」

「ああ。よろしく。」

「こちらこそよろしくです。」

しわがれた声に俺はそう答えたがそれよりも気になることがある。

「で、マーガレットのおばあちゃん。」

「なんだい?」

「さっきのってどういう意味だ?記憶が消し飛んでるとかなんとか。なにか知っているなら教えてくれ!」

 前のめりになって真剣に俺は彼女にそう聞いた。

 すると、彼女は「まあ、落ち着きなさい。」そう言って苦笑し、ペルーシャも逸る俺の肩に手を添え目だけで「大丈夫」と伝えてくる。

 俺はあまりにも焦りすぎたらしい。

「落ち着いたかい?」

「ああ。取り乱して悪い。」

「いいや、悪くなんてない。誰だって記憶を失うのは怖い。」

 ニコッと優しく俺にほほえみかけてくれるマーガレットのおばあちゃんは見ていて不思議と安心できた。

「まず、私の知っている事はそれほど多くはない、と先に断っておくよ?その上で話を聞いておくれ。」

 念を押すようにそう言ったおばあちゃんに俺はうなずく。

「分かった。」

 それを見たおばあちゃんも頷き返し、語りを始める。

「あれは昨日の朝方。私とこの子は丁度そのとき王都ヴァルハラからの帰りでユスティーナ高原にさしかかっていた。

夜行の馬車だったからこの子は熟睡していたんだけど、私はどうにもあまり眠れなんだ。

じゃから、ぼんやりと外の景色を眺めておったんじゃ。

すると、どうだ。高原の真ん中にフラフラとおぼつかない足取りで歩く男が見えてきた。

そう。それがお前さんだった。

いつ倒れてもおかしくないぞ、という私の予感は数秒後見事的中した。

お前さんがまるで崩れるように倒れたのだ。

私は馭者に指示を出しすぐさま倒れたお前さんの元へと向かわせた。

死んではいない。

それが分かった私は大急ぎで、お前さんをこのウチに運び傷を治す手当を始めた。

だが、傷はどれも深く治療は困難を極めた。

そして色々とお前さんの体を調べて分かったんだが、どうやらお前さんの脳は極度の疲労と、魔力の枯渇によって酷く傷ついていた。

なにをすればここまで酷く傷つくのか、と思うほどにじゃ。

勿論、私たちもなんとかそれも治療できないかとがんばってはみたんだが、お前さんの体の傷すらも完全に治すことすら叶わなんだ。堪忍しておくれ。」

申し訳なさそうに謝るおばあちゃんに俺はゆるく首を振った。

「いや、謝ることはない。傷を治してくれただけでも感謝している。」

「そうかい。そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとうね。これが私の知っているすべてだよ。」

 嬉しそうに笑うおばあちゃんの顔はやはりペルーシャに似ている。

 正確にはペルーシャがおばあちゃんに似ているのだがどちらでも良かった。

 だが、困った。

 自分の名前も思い出さないとなると、かなり日常生活に支障が出てくる。

 名前ぐらいはどうにか思い出さねばなるまい。

 うーん、と思案し必死に思い出そうとするがいっこうに思い出せず、ため息が漏れる。

 そんな、俺の様子を見かねたのか、おばあちゃんが「そういえば。」と言った。

「そういえば、お前さん、寝言で俺はマオウだ、などとつぶやいておったぞ。」

「マオウ?」

 うむ、とうなずいたおばあちゃんはいかにも妙案を思いついた、というような口調で提案する。

「だから、とりあえずここにいる間はマオウと名乗るのが良いのではないかえ?」

「それがいいと思います。マオウさん。」

 ペルーシャも両手を合わせて賛同する。

 確かに、俺がこのまま名前を思い出せずにいれば、皆困るだろう。

 しかたない。とりあえず、これからは自分のことを「マオウ」とそう呼ぶことにしよう。

「分かった。俺の事はマオウと呼んでくれ。」

 こうして俺の名前はマオウと決まった。

「だが、もう一つ気になることがあるんじゃが・・・。」

 言いづらそうに口ごもるおばあちゃんに俺が聞く。

「なんだ・・・?」

「おぬしの右目それはなにかの呪いが掛かっておる。それに心当たりはないのかえ?」

「右目・・・。」

 隣にあった姿見で自分の右目を確認した。すると、そこには眼球はなく、真っ黒い何かが渦巻いていた。

「な、なんだこれ・・・。」

 俺は右目を手で押さえるが何も思い出せない。俺はゆっくりと首を振る。

「残念ながらなにも思い出せない。」

 心配そうに俺を見つめる二人だったが、俺がそれほど取り乱していないことに安心したようで顔を少し綻ばせて言った。

「そうか。なら良いんじゃ。しかし、その右目を露出したままだとなにかと不便じゃ。そのお気に入りらしき帽子も部屋の中では使えないじゃろう?ほれ、これを付けなさい。」

 そう言っておばあちゃんがくれたのは黒い皮の眼帯だった。

 受け取るとしっとり肌になじむ感じが気に入った。

「ありがとう。ありがたく受け取るよ。」

「そうかい。役に立てば嬉しいよ。」

 俺は受け取った眼帯を早速付けて見ると不思議としっくりときた。

 姿見でずれていないか、おかしなところはないかを確認した。

 自分の黒髪にその黒い眼帯はよく似合っているように思える。

「それじゃあ、マオウさん。これからは私たちのことを家族だと思ってくださいね?」

「家族・・・。」

「はい!家族です。」

「だけど、俺は獣人でもないし、ましてやこの国のものでもない。そんな奴がこの家にいても良いのか?」

 彼女は優しく微笑み、俺の手を自らの両手で包み込んで言った。

「はい。種族なんて関係ありません。今、この瞬間から私たちは家族です。これからよろしくお願いしますね。マオウさん?」

「ありがとう。ペルーシャ。」

 不覚にも少し涙を流しそうになっていたが、俺は意地と根性でなんとか笑顔を作った。

 そんな俺たちの姿をなにも言わずに見守っていたマーガレットのおばあちゃんだったが、「そうだ。」と言って扉を開く。

「そうだ。マオウさん。お腹すいているじゃろう?今、丁度おかゆ作っていたから持ってきてやるね?」

「あ、私も手伝うよ。マオウさんはちょっと待っててね?」

くるりとターンして片目をつむるペルーシャが可愛すぎて「おう。」としか答えられない俺。

 彼女はそんな俺のそっけない返事に気を悪くした様子もなくタタタ!と駆けていく。

 白いしっぽがフリフリと揺れていた。


 俺は二人の退出を見送ると不思議な感慨に囚われていた。

 記憶を失ったその代わりに家族ができた。自分の存在が自分ですらわからない自分の事を「家族」だと言ってくれる人に出会えた。

 奇跡だ。

 自分はこの世で一番の幸せ者だ。

 今は素直にそう思える。

 扉の向こうでは楽しそうにペルーシャとマーガレットおばあちゃんがしゃべる声が聞こえる。

 お粥ができれば彼女達はすぐにこの部屋に戻ってくるだろう。

 ここで泣いてしまえば彼女たちに心配をかけてしまう。

 だけど、俺は胸の内にこみ上げてくる何かをこらえきれず、静かに一粒だけ。

 たった一粒だけ、人知れず大粒の涙を流したのだった・・・。


いかがでしたか?

次回からはケモミミ王国開拓編になるのでよろしくお願いします!笑笑

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