マオウピンチ!
第十話です。
二桁の大台に乗りました!
情けないマオウのラブコメを楽しんで下さい〜!
「ふぅ・・・食った食ったぁ。」
俺は膨れたお腹をさすりつつそう呟く。
すると、隣にある白い耳が嬉しそうにピコピコと動いた。
「マオウさん、ホントよく食べますねぇ。作りがいがありますよ!」
グッと拳を握り、瞳を輝かせている人物。
そう、その猫耳はもちろんペルーシャのものだった。
いつもニコニコしている彼女ではあるが、今はいつになく嬉しそうにほほえんでいる。
それもそのはず。
今日の晩ご飯は、なんとペルーシャが作ってくれたのだ。
この前のおかゆはマーガレットさんが作ってくれたそうだが、そのとき、俺はペルーシャが料理を苦手なモノだと勝手に思い込んでいた。
だが、今日出てきた料理はなんとも自分好みで、俺はぺろりと平らげてしまったのだった。
ペルーシャは終始俺の食べっぷりに「ほお。」とか「ふふ。」などと感嘆の声を漏らし、自分の料理にがっつく俺を嬉しそうに眺めていたのだった。
そして、今彼女はなにかを求めるように俺を見つめている。
――て、照れる。
あまりにもまっすぐなまなざしのペルーシャに俺は、ポリポリと頬を掻く。
「いや、まあなに。作ってくれた飯がうまくて、ついな。」
少し照れはしたが、それでもホントに料理がうまかったので、素直に感想を述べると、ボッと音がしそうなほどの勢いで顔を赤らめたペルーシャ。
「え…。きょ、恐縮です。」
そう言ったペルーシャは顔を押さえ、はわわはわわ、とせわしなくしっぽを動かしている。
そんな照れまくりな彼女の様子に俺は苦笑した。
「そんなに照れなくても。」
俺のその言葉にハッとした表情になるペルーシャ。
あまりにも俺の一言に動揺しすぎたことに気がついたのだろう。
ささっと乱れてもいない前髪を整え、コホン!と一つ咳払い。
完全に居住まいをと整えたペルーシャはキリリとした視線を俺に向けて言った。
「て、照れてなんて無いですよ!何言ってるんですか、マオウさん!」
なぜかそんな風に強がるペルーシャに俺は首をひねる。
「お、おう。そうなのか?」
「そうですよ。」
そう言って腕を組み、ツンとすまして見せるペルーシャだった。
確かに、その落ち着き払った様子からは照れた様子なんて全然感じられないし、本人もうまくごまかせていると思い込んでいることだろう。
――しかし。
「顔赤いぞ・・・。」
「え・・・・!」
俺のその一言に驚き、確かめるように自分の顔をぺたぺたと触り出すペルーシャ。
さっきまでの自信に満ちあふれた姿はどこへやら。
もはや、顔どころか、耳まで赤い。
すると、向かいの席で苦笑する気配。
「そこまでにしといてやれ、マオウ。ペルーシャが可哀想だ。」
からかう調子でそう言ったアマミは紅茶に口を付ける。
まるで、小さな子をあやすような口調だ。
「アマミちゃんまで!!」
二人して私をからかって酷い!と言いたげなペルーシャだったが、何かに気がついたのか、再度ハッとする。
んん、と喉をならし瞑目すると、今度は一転。
自信を滲ませた口調でこう切り出した。
「フフン、だまされたね、二人とも。残念でした!私は照れてないよ。だって私の料理がおいしい事なんて当たり前だからね。」
ペルーシャはそう言って、フフンと鼻で笑い、胸を張る。
だけど、悲しいかな。
やっぱり、顔は赤い。
そんな彼女の様子を見ていた俺とアマミは、顔を見合わせ、クスリと笑みを溢す。
「なら、そういうことにしとこう。な、マオウ?」
「ああ、そうだな。アマミ?」
「もう!!二人とも全然信じてない!!」
むきー!と地団駄を踏むペルーシャに俺たちは声を上げて笑った。
「うう・・・絶対見返してやるんだからぁ。」
悔しそうにそう呟いたペルーシャだったが、口元には笑みが浮かんでいる。
結局、俺もアマミもペルーシャも、この他愛ないやりとりを目一杯楽しんでいたのだった。
だけど、楽しい時間は早く過ぎるものでもうかなり夜も更けている。
すでに、マーガレットさんは一足早く床につき、今リビングには俺たちしかいなかった。
「じゃあ、そろそろ寝ましょうか?」
ペルーシャが紅茶の入っていたカップを下げながらそう言った。
「ああ、そうだな。もう夜も遅いし。」
俺がそう言うと、アマミも頷く。
「ああ、私は明日も早くから出なくてはならないしな。」
「そうだよね。アマミちゃん明日もお仕事だもんな~。ホントご苦労様です。」
ペルーシャがアマミに丁寧なお辞儀をする。
「いや、好きでやってるみたいなところもあるし。それに、新入りをビシバシしごけるからな!明日も楽しみだ・・・。」
フフフ、と笑みを溢すアマミ。
おそらく明日、どんな方法で新入りをいびろうか考えているのだろう。
まじでドSだなぁ、アマミって。
アマミがあれほど楽しそうにするなんてよほど、厳しいメニューを考えているのだろう。
新入り死なないかな?大丈夫かな?と心配になるのは、アマミの暴力をこの身に受けてきた俺であれば当然である。
だけど、俺にできることなど何もない。
せめてそんな哀れな新入り達に俺は心の中でエールを送る。
新入り、マジでガンバ!死ぬなよ!
と、雑なエールを心の中で送った後、俺は立ち上がった。
「んじゃ、俺は昨日と同じ部屋で眠れば良いんだよな?」
「あ・・・。」
「え・・・?」
俺の問いかけに、しまった!見たいな顔で冷汗を垂らすペルーシャ。
俺はそんな彼女の様子を見て嫌な予感がした。
「おい、ペルーシャ。マオウが眠る部屋なんて無いんじゃないか?だって、この家には三つしか部屋が無い。私、ペルーシャ、おばあちゃん。その三人が一つずつ使ってるじゃないか?」
アマミが不思議そうな顔をペルーシャに向ける。
更に気まずそうな顔になったペルーシャは怖ず怖ずとその言葉にこたえた。
「実はですね、マオウさん。昨日使ってもらった部屋はアマミちゃんのお部屋なんです。」
「は!?」
「え・・・?」
間抜けな声を上げる俺に対して、鬼の形相でくってかかるアマミ。
「どういうことだよ、ペルーシャ!!なんで私の部屋をマオウが・・・ってことは、こいつが昨日、私のベッドでね、ねねね眠ってたって事だよな!?」
「うう、仕方なかったんだよ。アマミちゃん丁度家にいなかったし、おばあちゃんも良いって言ってくれたし!」
そんなアマミにペルーシャが必死に弁解している。
というか、俺が自分のベッド使うのってそんなに嫌なことなの?
なにげにショックなんですけど・・・と一人落ち込んでいると、話の矛先は俺に向く。
「マオウ!お前もお前だ。普通女の子の部屋を使うか?しかも、部屋を無断で使うだけでなく、ベッドまで使うなんて恥を知れ!!」
「いやいや!俺はなにも知らなかったんだ。俺は悪くないだろう?」
人差し指を突きつけて、俺を非難するアマミ。
だけど、俺はそのとき、怪我をしていて昏睡していたし、この家のことを何も知らなかったのだから仕方ないだろう。
すると、そんなアマミの様子を見かねたペルーシャが、俺たちの間に割って入る。
「マオウさんは悪くないよ!勝手にアマミちゃんのベッドに寝かしつけちゃった私が悪いの。だから、ごめん!許してください!」
お願い!と言って両手を合わせるペルーシャちゃん。
アマミ軍曹は大層お怒りで、ペルーシャの頭を下げる姿を始めは眉間にしわを寄せて見ていたが、あまりに真剣なペルーシャの様子に観念したのか、フッと破顔した。
「顔をあげなペルーシャ。許してあげるから。」
「アマミちゃん!」
泣きそうな顔で見つめてくるペルーシャに、今度は逆にアマミが申し訳なさそうな顔になる。
「いや、まあ私もちょっと怒りすぎたと思うし。」
「アマミちゃん!!やっぱり大好き!!」
「ぐえ・・・!!」
ペルーシャがアマミに抱きつき、アマミが苦しそうな顔になる。
「う、苦しい。ペルーシャ。」
「えへへ~。」
目を細めてスリスリ~とほおずりしてくるペルーシャ。
アマミは諦めたように大きなため息をついた。
「はあ・・・。」
俺はそんな仲良し二人組の、百合百合しい一幕を見せつけられ、ひとまず喧嘩にならなくて良かったーと安堵していたのだが、俺が今夜どこで眠れば良いのか、という問題の根本的な解決には何一つなっていないことに気が付く。
「じゃあ、お二人さん。俺は今日はどこで眠れば・・・。」
幸せそうに、くっついてほほえんでいた二人だが、俺の一言で中断。
ペルーシャがうーん、と言いながらあごに人差し指を添えて考える仕草を見せる。
「うーん、さすがにここで眠ってもらうわけにはいかないですから、やっぱり考えられるとしたら私の部屋でしょうね。」
「え!!」
俺はあまりの驚きに声を上げる。
アマミも俺同様驚いているようで、ペルーシャの肩を両手で持ち、言った。
「正気か!?ペルーシャ。マオウを部屋に入れるなんて!」
アマミのそれはさりげなく傷つけられる言葉だった。
そんなに嫌かな・・・俺を部屋に入れるの。
泣きそうになっている俺になど気が付かないで二人は話を進めてしまう。
「私は気にしないよ。マオウさんは優しい人だし、それに今は元気そうに見えるけど、一応、マオウさんはまだけが人だからね。私が責任持って一晩いっしょに過ごすよ!!」
任せて!と胸を叩くペルーシャ。
その姿は責任感に満ちあふれたいつものペルーシャのそれだった。
だが、アマミは渋い顔を見せる。
「うーん・・・。」
腕を組み、頭を悩ましていたアマミだったが、突然カッ!と目を見開きこう言い放った。
「いいや、やっぱりダメだ!!マオウがペルーシャのかわいさに負けて、あんなことやそんなことをするに決まっている!二人きりにはできない!!」
「しないよ!!」
アマミのあまりにも酷い言葉に俺は思いっきり突っ込む。
だが、そんなキレキレの俺の突っ込みは気にもされず話は進む。
まじつらい。
アマミが何かを思いつき、ピン!と人差し指を立てて説明する。
「そうだ!これなら、どうだ?ペルーシャとマオウを二人っきりにすることはできないけど、三人いっしょなら別だ。もしも、マオウがペルーシャに変な事をすればすぐに私が殺せるし、万が一マオウの体調が悪くなってもすぐに治療できる。一石二鳥じゃないか!?」
名案を思いついた!と鼻高々なアマミ。
いつもはあまり嬉しそうなそぶりを見せない彼女だが、今は深夜と言うこともあってかテンションが高い。
彼女の耳が嬉しそうにピコピコと動いている。
「それ良いですね!私も久しぶりにアマミちゃんといっしょに眠りたいですし、Win-Winですよ!」
「それだよな!Win-Winだよ!!」
抱き合って歓びを分かち合う二人。
なんだか、なにかの大会で優勝したときみたいな歓び様である。
しかし、そんな歓びの絶頂にある二人とは、対照的に俺はその話に対して複雑な思いを抱いていた。
ええ~~!!
あんな美少女二人といっしょに眠らなくてはいけないのか!?
いや、別に嬉しくないわけじゃない。
むしろ、めちゃくちゃ嬉しい、ちょー嬉しい。
ペルーシャは良い子で可愛いし、アマミも性格がきついところもあるが、見た目はかなりの美少女だから、これで嬉しくない奴がいるはずない。
だけど、だけどだ。
もし、俺の理性が崩壊してどちらかに手を出しでもすれば俺の命はあの鬼軍曹によってあっけなく潰えるだろう。
そんなバッドエンドだけは避けなくてはならない。
俺は自らの生命の危機を感じ、声を上げる。
「ちょ、ちょっと待っ・・・。」
「じゃあ、そうと決まればレッツ・就寝!!」
「そうだな!!よし、行くぞ、マオウも。」
そう言うやいなや、アマミとペルーシャは立ち上がり、俺の両腕を取る。
そして、引きずられるようにして俺は運ばれてしまう。
「おい、ちょっと待って。お願い、ちょっと話をきいて・・。」
俺はあまりに強引すぎる展開に声を上げる。
だけど、俺の言葉には聞く耳すら持たない二人。
「なんですか?マオウさん。顔赤いですよ?照れてるんですね~。」
ペルーシャはそう言って、さっきまでの仕返しができたことを喜んでいるし。
「なんだ、マオウ。お前ペルーシャで変な事考えてるんじゃないだろうな?安心しろ。私がいる限り、お前の考えているようなことは一生起きない。」
にっこりと笑うアマミは相変わらず恐ろしい。
「ああ、神様、助けてくれ~・・・。」
しかし、魔王が神に助けを乞うている、という皮肉さに気が付くモノは、マオウ本人含めて誰もいない。
そこには、楽しそうに笑う猫耳、うさ耳の美少女と、これからの数時間におびえる情けないマオウがいるのみ。
こうして、彼らの賑やかな夜は過ぎさっていった。
いかがでしたか?
感想やアドバイスあれば教えてもらえると喜びます!
添い寝シーンは次の話で出そうかなあと思うので楽しみにしていてください!
では、また!




