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6話:喚びだされた悪霊



「ヴォォォオォ……ォォ……!」


 悪霊や胴体の口から重々しい鳴き声を上げながら太い腕を壁に打ち付け、地面へと降り立った。ズン、と洞窟内が大きく揺れ、シャティアも思わず両手を広げてバランスを取った。


「やれやれ、面倒な事になってしまった……」


 地面を蹴って飛び掛かって来た悪霊を浮遊魔力で宙へ避けながらシャティアはそう言葉を零す。攻撃を外した悪霊はそのまま洞窟の入り口付近まで突っ込んで行き、そこに居たロードスケルトンをバラバラに吹き飛ばしてしまった。

 手応えはあったものの倒した標的が違った事から悪霊は不機嫌そうな鳴き声を上げる。それを宙に見つめながらシャティアは冷静に分析を始めた。


「山の魔素を大量に集めて儀式をしたからな……かなり強力な悪霊を喚んでしまったようだ。これは少し骨が折れるな」


 復活の儀式の失敗で喚ばれる悪霊は儀式で使われた魔力の度合いによって強さが変化する。今回は老人がシャティファールを復活させる為に大量の魔力を使った為、かなり強力な悪霊が出て来てしまった。言わばシャティアと同等の魔力を持つ悪霊である。シャティアは額から流れた汗をそっと腕で拭き取った。


「そろそろ帰らねば母上に怪しまれる。本気でやらせてもらうぞ」


 いい加減時刻もそろそろ不味い時間帯の為、シャティアは早く村に戻る為に全力で戦う事にした。とは言っても洞窟が崩壊しない程度の力だが、それでもこの悪霊相手に手加減は出来ないだろうとシャティアは薄々感じていた。


 両腕を広げて炎の槍を形成する。そして腕を振り払い、炎の槍を放った。高速で飛ばされた炎の槍は悪霊の身体へと突き刺さるが、全くダメージが通っている様子は無く、更には炎の槍はズブズブと悪霊の黒い身体の中へと飲み込まれて行ってしまった。


「グルゥウウウォォオオ!!」

「……驚いた。魔法を吸収する能力まであるのか」


 ダメージが通っていないどころか僅かに悪霊の魔力が増えた事に気が付き、シャティアは悪霊が魔法を吸収する体質なのだと見抜いた。この個体が偶々そういう能力を持っているのか、それとも全ての悪霊がその能力を持っているのか、それは分からないがいずれにせよ今目の前に居る敵は相当厄介だという事が判明した。


 シャティアが面倒くさそうに髪を掻くと、今度は悪霊の方から動き出した。両足で地面を蹴り、先程よりも素早い動きで突撃して来る。それもシャティアは浮遊魔法で軽々避け、更に上へと避難する。

 どうやら悪霊は魔法での攻撃手段を持っていないらしい。先程から物理攻撃ばかりあである。ならばまだ何とかなるかな、とシャティアは考え手の平を悪霊に向けて腕を振り下ろした。


「ふん!」

「グォオオッ……!!」


 ソーサラースケルトンに使ったように重力魔法を使用する。悪霊の巨大な身体が床に突き刺さり、そこにヒビが入った。シャティアは手をもう片方の手で支えながら重力の負可を加え続ける。


「グゴゴゴゴゴ……!!!」


 重力魔法は本来相手の動きを制止する為に存在する魔法。だが膨大な魔力を持つシャティアだからこそソーサラースケルトンを潰せる程の威力を出す事が出来る。それだけ強大な魔法なのだが、悪霊は一向に潰れる気配が無く、それ所か少しずつ足を踏み出して動きを取り戻して来ていた。


「……動けるのか、この重力下の中で……!」

「ゴァアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 とうとう悪霊はけたたましい咆哮と同時に身体を起こし、重力魔法を跳ね返してしまった。魔法の反動を喰らったシャティアは軽く吹き飛ばされ、宙を回転する。

 体勢を立て直した後、シャティアは信じられないという目で悪霊の事を見た。自分の得意な重力魔法に耐える所か魔法を打ち消す程の力。こんな事は初めてだった。


「……ハハッ! やってくれるでは無いか!!」


 シャティアは思わず笑みを零す。これまで重力魔法に耐えた者など一人も居なかった。だからこそシャティアは自身の重力魔法に自信を持っていた。それが破られたというのに……彼女は笑う。打ち破られるからこそ、魔法の進化に終わりは無いという事を体感出来る。彼女にとってそれが何よりの喜びだった。


「ならコレだ!!」


 シャティアはすぐさま両腕を振って辺りにある柱や棺を浮かして悪霊へと投げつける。魔法が効かないのなら物理攻撃ならどうだ、という考えだった。だが悪霊は飛んで来た柱を拳で粉砕し、棺を腕を振るって跳ね返し、全く物ともしなかった。


「グォァアアアアアアアア!!」

「……ぐっ!!」


 今度はこちらの番だと言わんばかりに悪霊は地面を蹴って宙に居るシャティアへと飛び掛かる。先程よりも早く、今度のはシャティアは完璧には避けきれなかった。服の腕の部分が切り裂かれ、幻覚魔法の一部が解ける。つまり幻覚魔法を解いた時同じ様に服が裂けているという事だ。シャティアは表情を曇らせた。


「く……こんなボロボロの服を見せたら絶対に母上に怒られるな」


 肩の部分だったら最悪縫ってしまえばどうにかなったが、ここまで裂けてしまえばもう元通りにするのは無理だろう。シャティアは村に戻った後何か上手い言い訳が出来るようにその事を考えながら悪霊の方へと向き直った。


 明らかに先程よりスピードが増している。こちらに動きに慣れて来ているという事だ。全く末恐ろしい存在である。短時間で勝負を付けなければ更に厄介な事になるだおる。そう考えシャティアは両方の手の平を悪霊へと向けた。


「お返しだ。とっておきを喰らわせてやる」


 魔法を吸収すると言っても限度がある。それに直撃はさせる事が出来るのだ。ならばとシャティアはありったけの魔力を手の平へと集め、それを一気に解き放った。台風とも思える程の激しい魔力波が放たれ、洞窟内を切り裂きながら悪霊に直撃した。


「グゴガァアアアアアアアァァァッ!!!??」


 雷が落ちたような激しい音が鳴り響き、悪霊の悲鳴も響き渡る。そのまま悪霊は壁へと押し付けられ、辺りの岩を壊しながらその岩の中へと埋まって行った。

 壁が崩壊して岩の中に悪霊が埋もれた後、シャティアは小さくため息を吐いて地面へと降り立った。丁度その近くには隠れていた老人も出て来ており、悪霊が埋もれたのを見ると安心したように胸を撫で下ろした。


「な、なんと言う化け物だ……それに貴様、魔術師だったのか!?」

「……一応な。後、注意しておくがまだ隠れていた方が良い」

「何……?」


 シャティアは表情を険しくしながら老人にそう注意した。老人はまさかと思って岩が積もっている所を見る。すると僅かに岩が揺れ動き、一部が粉々に吹き飛んで悪霊の腕が現れた。そこから石ころを退かしながら悪霊の身体が姿を現し、シャティアの前には先程よりも倍大きくなった悪霊が降り立った。


「更にでかくなったな……喰らったのか?我の魔力を」

「グォォォォオオオオ!!!」


 あれ程の衝撃波を喰らいながらも無傷で、更には吸収してパワーアップしてしまう。実に恐ろしい結果であった。流石にあれを吸収されると思っていなかったシャティアに表情から少しだけ余裕が消える。目の前に居る悪霊に意識を集中させながら、いつでも魔法を唱えられるように魔力を手の平に集めていた。


「ゴァァアアッ!!」


 刹那、悪霊が動いた。腕を振り下ろしてシャティアを潰そうとする。すぐさまシャティアは魔法の壁を形成してそれを防ぐ。だが凄まじい威力で、シャティアの本体にも僅かに衝撃のダメージが通った。シャティアの子供の身体にはそれは十分なダメージで、彼女の口からは弱々しい声が漏れる。

 悪霊は更に拳を振るった。今度は前方から。シャティアは前にも魔法の壁を形成するが、衝撃を受けて後ろへと下げさせられる。更に悪霊は拳を打ち付け、シャティアが魔法の壁で防ぎ、悪霊が殴り続けるのが繰り返された。徐々にシャティアは押され始め、壁の端まで追い込まれる。


「ぬ、ぐっ……!」

「ゴガゴアゴガガァアアアアアア!!!!」


 悪霊からの絶え間ない拳の雨が降り注ぐ。魔法の壁にもヒビが入り始め、シャティアの限界が近づき始めていた。

 さぁ此処からどうするか?シャティアは汗を垂らしながらも冷静に考える。平静を保ち、絶対に焦らずに、彼女は逆転の機会を伺う。


 通常魔法も駄目、得意の重力魔法も駄目、物理攻撃も跳ね返される……こんな敵を、どうやって倒す事が出来る?シャティアは思わず目を瞑って思考の中へと飛び込んだ。悪霊を倒せる方法を、この強大な敵を打ち破れる方法を考える。そして、一つの答えへと行き着いた。


「アレをやるしか無いか……」


 ある魔法。通常の魔法とは違う、特別な術式によって行われる魔法。この魔法はシャティアが持つ魔法の中でも異質な魔法であり、他の魔女達すら恐れる程の禁じられた魔法である。

 シャティアの性格上、あまりこの魔法は使いたく無かった。だが、この状況ではコレしか手段が無い。シャティアはそう割り切り、目を開いた。


「ゴォァアアアアアアアアアアアアア!!!」


 目の前には怒り狂うように叫び声を上げている悪霊。何度も拳を打ち付け、シャティアの魔法の壁を破壊しようとする。そんな乱暴な敵を見上げながらシャティアはゆっくりと呪文を唱え始めた。焦ってはいけない。確実に、的確に敵を封じる為の、必殺の魔法。


「そう怖い顔をするな。我もこの魔法を使うのは久々なんでな……少し荒れるかも知れん。勘弁しろ」


 そう注意をしながらシャティアは腕を払って術式を構築し、着々と魔法の準備を進めて行く。魔法の壁はいよいよ大半が破壊され、悪霊の拳も更に激しく打ち付けられていた。悪霊も何かを悟ったのか、シャティアの行動を止めさせようと必死に拳を振るっている。だが、シャティアは焦らない。ゆっくりと、優雅に、世間話でもするかのように軽口を叩きながら呪文を進めて行く。


「我が名は叡智の魔女シャティファール……恐れ、戦き、そして去ね」


 隠れている老人には聞こえないよう、シャティアは人差し指を自分の口元に当てながらそっと言霊を述べた。そして次の瞬間辺りに光が灯り、その光がシャティアの手の平へと吸収されて行った。ふっと辺りから光が消え、シャティアの手の平に無数の魔法陣が展開される。


「【眠り歌】」


 魔法陣が飛び散り、辺りに小さな光の球が舞い散る。そして拳を振るっていた悪霊の動きが次第にゆっくりとなり初め、機能を失ったように動かなくなった。悪霊は苦しむ様に身体を抑えている。そして胴体の口から甲高い悲鳴が鳴り響いた。


「ゴガァアアアアアアアアアアァァァ……ッ!!??」


 やがてその身体は崩壊していき、塵のように消え去って行った。

 これがシャティアの必殺魔法。眠り歌。対象の魔力をゼロにするとんでもない魔法であり、シャティアが編み出した彼女だけの魔法である。

 この魔法は他の魔女ですら恐れ、シャティアがリーダーと呼ばれる理由でもある。魔術師や魔力で生きる生き物にとって、力の根源である魔力を消されるのは非常に恐ろしい事であり、魔力と密接な関係にある魔女からすれば天敵とも言える魔法であった。

 故に、魔力を媒介として喚びだされた悪霊はその根源を絶たれ、朽ちてしまった。


「ふぅ……久々だったが、上手く行ったな」


 悪霊が消え去ったのを見てシャティアは疲れた様にその場に膝を付いた。僅かに彼女の身体もブレており、幻覚魔法が解け掛かっているのが見える。

 当然眠り歌にはデメリットもある。魔力消費が激しいのと、僅かに呪文を唱えるのに時間が掛かるという点だ。戦いの最中でそんな隙を見せれば真っ先に倒されるのは確実。使用するのにも色々と条件が必要なのだ。最も、多才な魔法を持つシャティアからすればそれくらいの時間稼ぎはお手の物なのだが。


「た、倒したのか……というか貴様は、一体何者なのだ!? 最後のあの魔法は何だ!? 周囲の魔力が急に消えたように見えたぞ……!!?」

「おお、生きていたか。運が良かったな。すまないがその辺りの事は秘密だ。我も色々と訳ありなんでね」


 岩の陰からひょっこりと老人が顔を出し、無事なシャティアに駆け寄ってそんな質問をしてくる。あれだけの戦いをしながらも被害を受けなかった老人にシャティアは感心しながらそう詮索しないように注意した。


「だがこれで良い口実が出来た。お前は復活の儀式をしようとして失敗。召還された悪霊によって祭壇を崩壊させられ、その被害を受けて気絶……よし、このシナリオなら問題無いだろう」

「な、何を言っているんだ?」


 辺りの損害を見てシャティアは何やら思いついたようにそうポンと手を叩いた。何を言っているのか分からない老人はぽかんとした表情でシャティアの事を見つめている。


「悪いがお前にも眠ってもらうぞ。復活しようとしてくれたのは嬉しかったが、森の魔素を奪われたら自然が破壊されてしまうからな」


 そう言うとシャティアは老人の顔の前で手を横切らせ、呪文を唱えた。それだけで老人がガクリとその場に崩れ落ち、寝息を立て始めた。

 シャティアはこれで良しと言って顔を頷かせ、もう一度辺りの様子を伺う。見落としやミスは無いか、自分の痕跡などは残っていないか確認し、満足いくまで確認するとようやく立ち上がった。


「よし、では帰るか」


 シャティアは幻覚魔法を解き、子供の姿に戻って村へと戻る事にした。

 帰り際、空を飛びながら彼女は母親に服の事を怒られるなと心配に思いながら帰った。


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