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5話:復活の儀式



 シャティアがロードスケルトンによって案内された場所は山奥の洞窟だった。少し肌寒く、辺りにも生物の気配が無いしんと静まり返った場所。

 洞窟の目の前まで来るとシャティアはおもむろに立ち止まった。隣にはロードスケルトン。ソーサラースケルトンは全員針山で拘束されたままの為、付いて来ていない。


「おっと、一応変装して置いた方が良いか」


 流石に姿を見られたら色々と面倒な事になるかも知れないと思ったシャティアは変装する事にした。クルクルと辺りを見渡した後、確認を込めて頷き、彼女は自身にある魔法を掛ける。すると霧が掛かったようにシャティアの姿はぼやけ、次に姿を現すとそこには銀色の長い髪を垂らした大人の女性が立っていた。


「髪色は……わざわざ変える必要も無いか。ふむ、魔女だった頃とは全然違う姿になったな。もっと前の我はこう……ぼーん、ばーん、って感じをしてたんだが」


 自身の変装した姿を見下ろしながらシャティアはそう感想を零した。

 実は魔女だった頃はシャティアはかなりグラマラスな女性だった。正に人を誘惑するような見た目をしており、本人はそう言った点は疎い所がある為、服装なども動き易いからというのを理由にとんがり帽子以外は露出の激しい下着同然な服を着ていた。そのせいもあってかシャティアは正に悪い魔女、という印象を抱かれていた。


 しかし今の変装したシャティアの姿はどちからと言うとスレンダーな体型をしており、着ている服も子供の時の服をそのまま大きくした無難な布の服。大人というよりかは幼気な少女が少し成長して大人びた、程度の変化しか見られなかった。


「さして意識をした訳では無いのだが……子供の我が成長したらこんな姿になるのかも知れんな」


 生前の頃とは正反対な姿にシャティアは新鮮みを感じ、何処か楽しそうな様子を見せていた。そしてちゃんと幻覚魔法が機能している事を確認し、いよいよスケルトン達の指揮者の所へと突撃する事となった。


「さて、用意も出来たしいよいよ敵陣に殴り込みに行くとするか。出来る事なら我の知らぬ面白い魔法を持った者が居ると良いのだが……案内を頼むぞ?ロードスケルトン」

「グウゥゥ……」


 今回シャティアがわざわざ洞窟まで来た理由、それは気になるという理由もあるがその実彼女はスケルトン達を操る者に興味を抱いていた。強力なソーサラースケルトン達を操り、更にはそのリーダーのロードスケルトンすらも指揮下に置く程の力。果たしてそれはどんな力なのか?はたまた魔法なのか?シャティアが最も重要視しているのはそこであった。故に彼女はこの先にある洞窟の深部へと向かう。そこに自分を満足させる何かがあると信じて。


 洞窟の中に入ると長い通路が続いていた。足跡が残っており、何度か行き来しているのだと分かる。シャティアはおもむろに指を立てて小さな火の玉を形成した。しかしその小さな火の球でも十分通路を明るくし、先が見えるようになった。

 シャティアはどんどん置くへと進んで行く。やがて開けた場所へと出た。そこは高い天井に祭壇のように装飾が施された何やら神秘的な場所だった。


「……何者だ?」


 そしてその空間の中心に一人の老人が居た。しわだらけの顔に眼球が飛び出るように大きく、死人のように痩せこけた男。そんな老人は真っ黒なローブを纏い、シャティアが現れた事に気がつくとゆっくりと振り返ってそう尋ねた。


「この神聖たる場所に儂の許可無く入るとは、何と恐れ多き事か。此処がどれだけ重要な場所なのか分かっているのか?」

「いやはや、すまんな。何分村の外へはあまり出た事が無いんだ。大目に見て欲しい」


 老人は突然現れたシャティアに敵意を向けて睨みつけるが、対してシャティアはろくに警戒もせず呑気に答えながら祭壇の方へと歩み寄った。

 炎の灯った柱に囲まれ、棺のようなが置かれた台。恐らく何らかの儀式をするのであろうとシャティアは見抜いた。


「ところで渓谷を歩いている間にこんな物と出会ったんだが、ひょっとしてお前が操っていた物か?」

「……貴様、ロードスケルトンを退けたというのか?」

「さぁて、どうだろうな?」


 シャティアの質問に対して老人は逆に質問し、その質問に対してシャティアはただ笑みを浮かぶだけで否定も肯定もしなかった。

 老人はシャティアが連れているロードスケルトンの事を見る。ボロボロで、まるで何かに貫かれた様な跡が鎧にある。目の前に居る女が剣術使いとも思えない為、老人は得体の知れないシャティアに恐怖を感じた。


「女、貴様は騎士団の者か?この前儂が返り討ちにした騎士共の仲間か?」

「なるほど、あの騎士はお前と戦っていたのか。という事はどうやら我の探し人はお前で間違い無いようだな」

「ちっ……質問に答えんか」


 今度は老人の質問にシャティアは答えず、勝手に納得して頷くだけだった。いちいちはっきりとしない言葉に老人は苛立ちを感じるが、それでもすぐに攻撃を仕掛けるような事はしない。

 もしもロードスケルトンを退ける程の力を女が本当に持っているのだとしたら、十分に警戒しなければならない。老人は僅かに横へずれ、シャティアとの距離に注意しながら話を進めた。


「此処に何しに来た?儂の崇高たる計画を止めに来たのか?」

「ほぅ、計画?是非ともその計画とやらを教えて欲しいな」


 ようやくシャティアはまともな感想を返し、老人は僅かに微笑む。自身の崇高たる計画によっぽど自信があるのか、自慢でもするかのように鼻を高くした。シャティアもシャティアで好奇心旺盛な為、こんな敵陣の真っ只中でも構わず平気で老人と会話する余裕を見せていた。


「ククク、知りたいか?……では教えてやろう」


 老人は急に警戒心を解き、台に手を置きながら、手をかざして祭壇を見せつけるかのようにして大きく口を開いた。


「儂の計画は、忌々しい勇者によって滅ぼされてしまった魔女様達を再びこの世に蘇らせ、暗黒の世界を作り出す事だ!!!」


 天井を見上げながら老人はそう高々と宣言した。シャティアは思わず自分の腕をつねり、吹き出してしまいそうになるのを堪える。

 何せその復活させようとしている魔女の一人は自分である。何とも複雑な気分になったが、シャティアはあくまでも冷静な素振りを見せ、感心したように息を漏らした。


「ほぅ……」

「素晴らしき魔女様達に魔術の理想世界を作ってもらい! 無知で愚かな人間共には消えてもらう……ククク、その願いがもうじき叶うのだ! この復活の儀式でな!!」


 老人が自分の側にある祭壇に手を向けながらそう言ったので、シャティアはやはりこれは復活の儀式であったかと確信を得た。

 それにしても人間にしては随分と感心な奴である、とシャティアは自分の認識を改める。てっきり自分達魔女は人間からは忌み嫌われるばかりの存在だと思っていたが、こうして魔女達の事を崇拝してくれる人物が居る。そう思うとシャティアは何とも感慨深い気持ちになった。


「クク、貴様のような女には分かるまい?魔女様達がどれだけ素晴らしい存在か、どれだけ神々しい存在か……」


 シャティアの反応を見て驚いていると勘違いした老人は自慢話のようなよく分からない話をした。その言葉を聞いていると何やらシャティアはむず痒い気分になり、恥ずかしい気持ちになった。

 自分が褒められている、というのに慣れていない彼女にとって、かつて自分をそんな素晴らしいなどと言われるとどう反応すれば良いか困った物があった。とりあえずは笑わないように口元に手を当て、彼女は笑顔を取り繕う。


「いやはや……」


 そして老人の自慢話が終わった後、シャティアはゆっくりと手を降ろして顔を見せながらようやく口を開いた。その瞳はキラキラと輝いており、何処か喜んでいる節があった。


「それは実に素晴らしい計画だな! で、誰を蘇らせるんだ?お喋り好きのファンタレッタか?魔術の研究ばかりしているクロークか?我としてはエメラルドの奴を蘇らせて欲しいんだがな……」


 警戒心の事など忘れ老人に詰め寄りながらシャティアはそう質問をした。次々と他の魔女達の名前を述べ、老人に驚いた表情をさせる。

 老人は困惑した。こんな成人にもなっていない女がスラスラと魔女達の名前を述べた事に。そして何を勘違いしたのか、シャティアもまた魔女を崇拝する者なのだと思い込んだ。


「ほほぅ、若いくせに感心だな。【七人の魔女】の名を知っているとは……」

「うむ、まぁ、知る機会は多くあったからな」


 完全に敵意を失ったシャティアを見て老人もそんな言葉を述べてしまい、二人の間に先程の緊張感のような物は無くなってしまった。入り口で呆然と立っているロードスケルトンも戸惑ったように身を引いていた。


「だが、儂が最初に蘇らせるのはその方達では無い……」


 老人は指を一本立ててそう言い、祭壇の方に顔を向けるとそちらの方へと歩いて行った。シャティアはそのままその場で様子を伺っており、何かをする素振りは無い。それどころか復活の儀式を見届けたいとさえ思っていた。

 老人は棺の前で立ち止まり、その棺に手を触れながらシャティアの方に目を向けて口を開いた。


「儂が蘇らせるのは、他の六人の魔女様を率いた伝説の御方、【叡智の魔女】シャティファール様だッ!!!」


 シャティアがその言葉を理解するのに一瞬間が必要となった。まさか出て来たのが自身のかつての名だとは思わず、誇らしげに鼻を高くしている老人の事を呆然と見つめていた。

 そしてようやく復活しようとしているのが自分だと分かり、彼女は再び何とも言えない複雑な気持ちになった。


「お、おぅ……」

「他の魔女様達の統率を取り、魔女の中でも抜きん出た魔力を持つ賢者に匹敵する御方!! ああ、シャティファール様、今すぐに貴方を復活させてみせましょう!」


 うっとりとした瞳で、恋い焦がれるように老人は甘ったるい声で天井に向かってそう語りかけた。だが実際はそのシャティファールは老人の目の前に居る女性、更には幻覚魔法を使っている為、その正体は幼い少女。彼女こそが魔女シャティファールである。シャティアは小躍りしている老人を見ながら苦々しい表情を浮かべた。


 自分の事を崇拝してくれているのは素直に嬉しい。少々行き過ぎている所や、復活の為に魔素を山から集めていたのは思う所があるが、それに目を瞑れば魔女にとって彼は利のある存在だ。だが此処で彼が復活の儀式を行った所でシャティファールは蘇らない。何故ならもう存在しているからだ。

 それを伝えた所で信じてもらえる訳も無く、どうしたものかとシャティファールは頭を抱えた。そうこうしている内に老人は復活の儀式の準備を初め、杖を手に取って魔力を込め始めた。


「さぁ今こそ! 最強の魔女シャティファール様の復活だ!!」


 スケルトン達に回収させた魔素を魔力へと変換し、老人は大量の魔力を杖へと送り込む。祭壇からは淡い光が漏れ始め、神々しく輝いていた。ロードスケルトンは恐れるように身を引き、洞窟の陰へと隠れる。祭壇から風圧が襲って来てもシャティアは相変わらずその場に佇んだまま、ぼーっと老人の事を見つめていた。


 さぁどうするべきか?どうやって老人に儀式を止めさせるべきか?このまま儀式を行った所で失敗するのは目に見えている。ならば他の魔女を復活させるように誘導するべきか?だがあれだけ信仰心の高い老人を説得するのは大変だろう。ならばいっそ気絶でもさせてしまおうか?そんな物騒な事を考え、シャティアはとりあえず声を掛ける事にした。


「おい、一応注意しておくが、止めておいた方が良いぞ」

「フハハ! 今更止めても遅いわ!!」


 シャティアが手を振ってそう制止の声を掛けるが、老人は止めようとしない。彼は自分の念願の目的を果たす為、最早部外者の声など一切聞く気が無かった。

 突風が巻き起こり、祭壇がその風に囲まれる。逃げ場を失ったシャティアであるが相変わらず能天気で、大して焦った様子も見せず風に煽られない様に祭壇の中心の方へと近寄った。


 ふと老人の杖が輝き、彼はそれを呪文を唱えてそれを地面に打ち付ける。そして弾けたように光が飛び取り、風が消え去った。祭壇も光を失い、辺りは一度静寂に包まれる。

 老人は儀式が成功した、と思ってそのしわだらけの顔を歪ませながら笑みを浮かべた。だが、棺から出て来たのは黒い液状の手のような物だった。


「な、なんだコレは……!?」


 シャティファールでは無く、黒い気味の悪い物体が出て来た事に老人は驚き、尻餅を付いてその場から引いた。老人がシャティアの側まで逃げると、シャティアは小さくため息を吐いてその黒い物体を見つめた。

 最初は手だけが棺から出ていたその黒い物体はやがて足らしき物も外に出し、人間と同じように二足歩行をして姿を現した。だがそれには顔と認識出来る物が無く、黒い物体から手と足だけが生えた魔物とも思えない奇妙な恰好をした。


「やれやれ、喚んでしまったな」

「ど、どういう事だ!? 儂はシャティファール様を復活させようとしたはずだぞ!? あ、あの黒いのは何なんだ!!?」


 明らかにシャティファールとは思えないそれに老人は目を見開きながら指を差して疑問を訴えた。シャティアは相変わらず面倒臭そうな顔をしており、額に掛かっていた髪を払うとゆっくりと説明を始めた。


「復活の儀式は正しい手順を踏まなければ邪な魂を喚んでしまう……憎しみ、恨み、妬み、そう言った負だけの感情が集まった邪悪な生き物」


 黒い生き物がピクリと反応を示した。途端にその身体はぶくぶくと突起して変化していき、腕は丸太のように太く、足は竜のように鋭い爪を持ち、胴体だった部分は真っ二つに裂けて口の形となり、それは化け物の姿と化した。


「ようこそ、悪霊よ。そのまま何もせずあの世へ戻るなら我も何もしない。だが、危害を加えようものならそれ相応の対応をさせてもらう」


 シャティアは丁寧にお辞儀をしながら黒い化け物、悪霊にそう言った。その言葉が通じているのかは分からないが、悪霊はワナワナと身体を振るわせ、次の瞬間身体中から黒い針を出現させた。真っ直ぐ伸びて来た針をシャティアは避け、後ろに居た老人も慌てて物陰に隠れてやり過ごした。

 自分のほんの数センチ横にある針をそっと指でなぞりながら、シャティアは小さく笑みを零す。


「返答はノーと受け取った。では、我もやり返させてもらうとしよう」


 ぎゅっと握りこぶしを作り、シャティアはそこに精一杯の魔力を込めると勢い良く振り下ろした。するとシャティアの拳から砲撃とも思える程の魔力波が放たれ、悪霊はそれに飲み込まれ、祭壇のはるか後ろの岩の壁へと減り込んだ。



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