表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔女は村人の少女に転生する  作者: チョコカレー
6部:聖騎士血戦
43/49

43話:懐かしき屋敷



 シャティアはまずロレイドの屋敷へ向う事にした。何を始めるにしてもロレイドを通さなければ自分は動く事は出来ない。人間達の街である王都ではシャティアはただの一般人に過ぎないのだ。魔法である程度操れるとは言え限度がある。最も効率が良いのはある程度権力がある人間が身近に居る事であり、ロレイドはそれら全てに当てはまっていた。


 記憶力の良いシャティアは道に迷う事無くエメラルドと共に屋敷へと向かう。途中懐かしい市場などを見掛けながらシャティアは僅かに頬を緩ませた。ふと学友のリィカの事を思い出し、会いたいなどと考えてしまう。自分らしくないな、と思いながらシャティアはいつもの表情に戻り、歩みを続けた。

 しばらく歩き続けているとすぐに見慣れたロレイドの屋敷が見えて来た。人の出入りの痕跡は無く、人気の無い土地に建っている事からまるで幽霊屋敷のような雰囲気を醸し出している。シャティアの横でエメラルドが少し怖がったようにたじろいだ。シャティアは気にせず門をくぐり、ノックをして屋敷の中へと入る。


 シャティアが知っているロレイドの部屋に向かうと、そこでは魔法本を広げて何やらブツブツと呟いている彼の姿があった。髪はボサボサに乱れており、何日もそのままで過ごしていたのか髭も少し伸びている。余程研究に熱中していたらしい。シャティアはエメラルドに扉の前で立っているように言い、足音を立てて部屋の中に足を踏み入れた。


「ん?お客さんかな。悪いけど今僕は研究で忙しくて……」


 足音を聞き、手を止めてロレイドは扉の方に顔を向けた。魔法で記憶を操作されている彼がシャティアの姿を見てもそれが誰かは分からない。今のロレイドからすればシャティアは見知らぬ不思議な雰囲気を持った少女に過ぎなかった。だが何か引っ掛かる所があるのか、シャティアの瞳をみつめて首を傾げる。

 シャティアは懐かしいロレイドの姿を見て僅かに微笑んだ。そして手を上げるとそれを横に払い、自身が掛けた魔法を解除した。


「お勤めご苦労だったな。ロレイド先生」

「……ッ!! シャティ、ア……シャティアちゃん……?え、でも何で?」


 シャティアがそう言葉を投げかけると同時にロレイドは目を見開き、信じられないとでも言いたげに弱々しく言葉を漏らした。腕を震わせ、自身の記憶の矛盾に混乱する。シャティアは落ち着かせるように腕を上げ、ロレイドを制止した。


「どうして今まで……僕は君を学園に連れてったはずなのに……何故こんな事を……」


 案の定と言うべきかロレイドは困惑していた。この状況を予想していたシャティアは別に驚きもせずその光景を受け入れる。

 記憶操作の魔法は対象の脳に強い強制力を働かせる。対象に無理やりそう思わせる為、魔法を解除した際はその矛盾に気が付き脳が混乱してしまうのだ。状況を理解すればすぐに収まるのだが、そう言った負担は少なからずある為、それもシャティアが記憶操作の魔法を好まない要因であった。


「無理な魔法を掛けてすまなかったな。ある程度説明するから、とりあえず話を聞いてくれ」


 何にせよまずは落ち着く事が大事。シャティアは困惑しているロレイドを落ち着かせ、自分も椅子に座って説明をする事にした。当然自身が魔女である事は教えない。ゴーレムを倒した後自分は一人で妖精の湖に行ってみたく、それでこのような事をした、と曖昧に伝えた。ロレイドは何処か納得いかなそうな顔をしていたが、ある程度シャティアの性格を知っていた為、敢えて詮索するような事はしなかった。


「なるほど……まぁ前から君が色々な魔法を使える事は察していたけど。まさかここまでだったとはね」

「あまり驚いているように見えんが?」

「僕だってこれでも元王宮魔術師さ。これまでにも色んな才覚を持った魔法使いに出会ったよ」


 説明を聞き終わった後、思った以上に冷静なロレイドにシャティアは驚いた。てっきりもっと困惑するか、色々問い詰めてくると思っていたのだ。むしろその方が普通の反応である。シャティアがその事を尋ねると今度はロレイドの方が笑みを零し、指を一本立ててシャティアの言葉を返した。元王宮魔術師と言うのも伊達では無いようである。


「それで……シャティアちゃんはこれからどうするんだい?また学園に戻るのかい?」


 完全に落ち着きを取り戻したロレイドを腿をパンと叩いてそう尋ねた。シャティアは少し呆気に取られながらも当初の目的の事を思い出し、思考を切り替えて顔をロレイドの方へと向ける。


「いいや、悪いが我はもう学園に戻るつもりは無い。あそこでの目的はもう達したからな」

「そう、だろうね。では、君はこれから何をするつもりなんだ?」


 シャティアの回答にはロレイドもある程度予想していた。記憶操作の魔法すら扱えるシャティアが今更魔法学園に行く必要は無い。人体生成の魔法も別の道で入手すると言っていた。なら彼女の目的はもう達成されているのだ。だからこそロレイドの興味は彼女の次の目的にあった。あのシャティアが次は何をするのか。未知数の力を秘める少女が何を求めてるのかが純粋に気になった。

 シャティアは口元に手を当てて僅かに笑みを零す。そしてその澄んだ瞳を真っすぐ向けながら口を開いた。


「この街で噂になっている怪物の事について知りたい。件の怪物の事だ」


 シャティアの今の目的。それはこの街で騒ぎになっている怪物の正体を探る事。魔族でも魔物でも無いその怪物は今王都で噂の中心となっている。動物や魔物を好むシャティアからすれば興味の尽きない対象であった。だがいかんせん情報が少なすぎる。エメラルドを通して分かった事は僅かな目撃情報があるだけでそれだけでは答えを導き出す事は出来なかった。故にシャティアは知りたいのだ、更なる知識を。

 答えを聞いたロレイドは僅かに表情に変化を見せた。渋るように目を細めて頬を掻いた。


「ああ、例の怪物か。殆ど缶詰状態だった僕の耳にもその噂は届いているよ。よっぽど手強い敵のようで、近々聖騎士団が本格的に動き出すらしいね」


 ずっと研究尽くめだったロレイドでも怪物の話は聞いていたらしく、僅かであるが情報も持っていた。シャティアはロレイドが零した聖騎士団という言葉に首を傾げる。


「聖騎士団とは何だ?」

「王宮直属の騎士団だよ。街を守ってて兵団への命令権も持ってる。個々の力が強く、魔術師でも手こずる程の騎士達さ」


 シャティアが尋ねるとロレイドは簡単に説明してくれた。その間手を振ったりと何処かいつもと違う態度が垣間見える。まるで聖騎士団の事をうっとおしく思うような、そんな態度。その事にもシャティアは疑問を抱いたがその事は問いかけなかった。今必要なのは怪物の情報とそれに関係のある事。それ以外の事はどうでも良い。


「ふむ……中々興味深い。是非ともその聖騎士団にも会ってみたいな」

「君は相変わらずだねぇ。まぁ分かってるのはそれくらいだよ。怪物の詳細は未だ不明。聖騎士団も今はそれを追っているっていう形」


 大体の説明を聞き終えた後シャティアはその聖騎士団にも興味を覚え、髪を弄りながらそう呟いた。ロレイドは首を横に振ってシャティアの相変わらずな性格に笑みを零す。

 結局の所怪物の事について詳しく聞き出す事は出来なかったが、それでもシャティアからすれば探求心をくすぐられる事となり、怪物についてより一層知りたいと思うようになった。


「ところでシャティアちゃん。怪物を追うと言うならしばらくは王都に居るんだろう?その間は前みたいにこの屋敷を使うと良い」

「……良いのか?もう我は学園に通ったりもしないのだぞ?先生が気を遣う必要は無い」

「そんな寂しい事言わないでくれよ。僕は君の保護者なんだから……それにね」


 意外な事を言い渡されシャティアは珍しく驚いた表情を浮かべる。村に居た時からロレイドは優しかったが、いくら何でも今回シャティアを助ける必要は無い。なのに助けると言うのは少し引っ掛かる所がある。すると彼は微かに笑みを浮かべて言葉を続けた。


「それに、僕は君の成長が見たいんだ。既に人としての頂きに達している君が、どこまで行けるのかをね……」


 その瞳は純粋だった。一切の闇が見られない澄んだ瞳。ロレイドは本気でシャティアの成長が見たいようであった。そして彼は既にシャティアが実力者である事を認識している。だからこそ更なる進化を見たがっているのだ。シャティアは変わり者だな、と感想を抱きながらもロレイドのその心意気に感謝した。そして僅かに視線をズラし、扉の方に居るエメラルドの事を見る。


「そうか、それは助かる。ではお言葉に甘えさせてもらおう……それと」

「扉の方に居る子もだろう?分かってるよ。事情は聞かないけどシャティアちゃんの友達なら喜んで歓迎するさ」


 シャティアが言い切る前にロレイドがその先の言葉を続けた。まさか気づかれていたとは、とシャティアは意外に思い、ロレイドの顔を見上げる。彼は余計な事は言わず、ただ笑うだけだった。シャティアは敵わないな、と小さくため息を吐き、自身の髪を掻いた。

 学園の事はロレイドが手回ししてくれるとの事だった。元々シャティアは英雄のように祭られている為、ある程度融通が利く。適当な理由を用意すれば簡単に良い訳する事が出来た。村の方にもロレイドが上手く伝えておくとの事で、シャティアは何から何まで有難うと頭を下げて感謝した。

 今後の予定を立てた後、シャティアは情報収集をする為に再び街へ繰り出す事にした。部屋を出て扉の前で待っていたエメラルドと会う。ふと彼女は何処か不満げな顔をしていた。


「良かったんですか?あの男の言う事を信用して……」

「先生は我の先生だ。信用に足る人物だよ」


 エメラルドから注意を促すような言葉を投げ掛けられた。ロレイドの人柄を知っているシャティアからすればそれは心配無用な物だったが、何より彼女が思った事はエメラルドが人を疑うという事だった。やはりかつて人間に裏切られた事がトラウマに残っているのか、今の彼女は以前のように積極的に人を信用しようとしていない。どうしたものかな、とシャティアは口元にそっと手を当てた。


「心配するなエメラルド。お前が不安がるような事は無い。例えあったとしても、我が守ってやるさ」


 顔を俯かせているエメラルドの肩をぽんと叩き、シャティアは優しくそう言葉を掛ける。するとエメラルドは小さく頬を膨らませ、シャティアの事を睨みつけた。


「わ、私はもう子供じゃありません。守ってもらわなくても大丈夫です」

「クク、意地っ張りだな……そうか、そうだな。もう子供では無いか」


 言い返して来るエメラルドを可愛らしく思い、自分からすれば子供はいつまで経っても子供だな、とシャティアは改めて思った。ふと自身とエメラルドの姿を見比べる。子供の姿の自分に、元の姿より少し身長が縮んだエメラルド。今のこの二人は親子と言うよりどちらかと言えば姉妹であった。複雑な気持ちを抱きながらもシャティアは歩みを進め、玄関を出て扉を開く。


「……とりあえず、情報収集だ。怪物の事について、聖騎士団について、色々聞き込むぞ」


 外に出たシャティアは早速目標を提示する。学園の事などは全て終わらせた。これでようやく気になっている事に取り掛かる事が出来る。リィカの事やまだ気になる事もあるが、まずはこの街で噂になっている怪物について調べる事にしよう。そう決意したシャティアは力強く歩き出した。その後にエメラルドも静かに続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ