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元魔女は村人の少女に転生する  作者: チョコカレー
5部:英雄の贖罪
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38話:対話



 作戦を伝えた後、シャティアはリリに使命を与えて一度別れる事となった。その間シャティアと勇者は一緒にリザードマンの後を追う事となっている。

 やはりと言うべきか、疾風のリザードマンを受けたらしいリザードマン達の群れは足を速めていた。このまま山を越えて次の山まで移動するつもりなのだろう。シャティアとしてはその山を越えられる前に決着を付けたかった。


「本当に大丈夫なのか?リリを一人で行かせて……」

「……ミミはちゃん付けで、リリは呼び捨てか。何故だ?」

「え。いや……別に深い意味は……」


 移動中、リリの事を気に掛けている勇者はそう尋ねたが、シャティアはその質問には答えず、むしろ勇者の呼び方に対して質問した。思わぬ質問に勇者はきょとんとした顔をし、困ったように言い訳をした。


「問題は無いさ。一人と言っても偵察程度だし、リリとてそんなヘマはしないだろう……多分」


 シャティアは正面を向いて歩きながらそう答えた。けれど最後の言葉が引っ掛かり、勇者は思わずシャティアの事を二度見した。シャティアは清々しい程綺麗な瞳をしている。その顔を見た途端勇者はそれ以上質問する気が無くなってしまった。


「気になるのは作戦が上手く行くかどうかだ。我の見立てでは不備は無いと思うが……万が一という事があるからな」

「……その万が一を、俺が補うのか?」

「その通りだ」


 くるりと振り返ってシャティアはそう言い切る。勇者に指を突き付け、まるで逃れる事は出来ない事を思い知らせるかのように鋭い視線を向ける。勇者は一瞬たじろぎ、歩みを止めた。同様にシャティアも歩みを止め、変わらず勇者の事を見つめる。


「……俺にそんな大役が務まるとは思えない」


 言いにくそうに目線を下に向けながら勇者はそう答えた。自信の無さそうに胸に手を当て、弱々しい雰囲気を出す。それを見てシャティアは呆れたようにため息を吐いた。


「確かに、今のお前は以前会った時より大分弱くなっている。だがだからと言って逃げる事は出来ん。果たすんだろう?勇者としての務めを」

「…………」


 シャティアの言い分に勇者は何も答える事が出来なかった。ただ寂しげに瞳を揺らし、シャティアの事を見る。その視線をシャティアも静かに受け止めた。


「心配するな。いざと言う時は我が何とかするさ」


 最後のトンと自分の胸を叩いてシャティアはそう言った。安心させるつもりで言ったのだが、勇者からすれば自分よりもかなり小さく、幼い女の子が胸を張っているのは何とも言えぬ光景にしか見えなかった。思わず笑いそうになり、勇者は口元に手を当てる。それを見てシャティアは目を細めた。


「少しだけ教えて欲しい」


 それから二人はしばらく歩き続け、目的の草むらが密集した場所に辿り着いた。後は此処で合流の約束をしているリリが来るのを待つだけの為、シャティアは岩の上に腰を下ろし、勇者は気になっていた事を尋ねた。


「ん、何だ?」

「……君達魔女が一体どのような存在なのか、教えて欲しいんだ」


 勇者は緊張しながら最後まで言葉を言い切った。所々声が震えており、拳を強く握りしめている為相当勇気を振り絞ったのだろう。シャティアはすぐには答えようとはせず、自身の髪を指で弄りながら何かを考えるように小首を傾げた。


「……ふむ」


 しばらくの間二人の間には沈黙が流れ、どちらも何も言葉を発しなかった。シャティアは髪を弄ったまま、目線を下に向けて考え込んでいる。それを見つめながら勇者はただ黙って返事を待った。

 やがてシャティアは指を下ろし、勇者の事を見上げた。その瞳は相変わらず綺麗に澄んでおり、益々勇者を緊張させた。


「その疑問に対しての解答は非常に難しいな。人間が何故生まれ来たのかを答えられないように、我々もただ存在しているから生きているだけだ、としか言えん」


 ぱっと手を開きながらシャティアは軽くそう言った。確かに存在についての意味など問われた所で回答の仕様が無い。だが勇者は納得の行かなそうな顔をしていた。


「第一、お前は長い間リリとミミと一緒に旅をしていたんだろう?その間二人に尋ねなかったのか?」

「ミミちゃんは少し教えてくれたけど……リリはあの通りだから」


 シャティアがふと気になったのでそう聞いてみると勇者は両手を上げて答えた。案の定と言うべきかやはりリリからはまともな情報を得られなかったらしく、ミミもミミで引っ込み思案な所があるからあまり話せなかったらしい。

 そもそも勇者自身も思う所があってあまり聞けなかったのだろう。シャティアはそう考え、どう話すべきかと首に手を当てた。


「ふむ……そうだな、少しだけ説明するとしたら……」


 全てを教える訳にもいかないのでシャティアは少し悩み、考えを纏めると首を触りながらおもむろに話し始めた。


「魔女と言うのはお前達が付けた俗称に過ぎない。我々は【ある種族】と言うだけで、決して魔女と言う特別な存在では無いのだ」


 目を瞑りながらシャティアはポツリポツリと語って行く。その姿はまるで母親が子供に子守歌を聞かせるように優しく、暖かい雰囲気を出していた。


「ある種族……?」

「古い種族でな、もう殆ど生き残っていないだろう。今頃は何人生きているか……」


 そこまで言い掛けてシャティアは口を止めた。勇者の表情が途端に暗くなる。何を意味しているか分かったのだ。

 七人の魔女はただのある種族の集まりに過ぎない。勇者はそれらを狩ってしまった。封印した者や復活した者、生き残った者は居るが、それでも全員が無事とは限らない。ひょっとしたら何人かは本当に死んでいる可能性があるのだ。それに気が付き、勇者は自身の唇を強く噛みしめた。


「まぁ、どうせ滅びる運命だったの変わりない。古い種族が消えるのは当然の回帰だ」


 ぽんと膝を叩いてシャティアはそう言うと岩から起き上がった。話は終わりだと言わんばかりに服を払い、作戦の準備を始める。勇者は呆然と立ったまま地面を見つめていた。


「……ミミちゃん達は、その事を知っているのか?」

「…………何故、そんな事を聞く?」


 ふと勇者はそう尋ね、思わずシャティアは振り返って尋ね返した。勇者は静かにシャティアの事を見据え、一歩近づく。まるで何かを探るようにその視線はシャティアを逃がさず捉えていた。


「二人は物心付いた時から君に育てられたと言っていた。君は魔女の中でも長生きで、皆から母親のように慕われているんだろう?……何故彼女達に自分達の素性を教えない?」


 勇者の言葉を聞き、シャティアはしばらくの間黙って正面を向いていた。だがやがて小さなため息を吐き、諦めたように首を振った。

 勇者の考えはそこまで的を外れていなかった。確かにシャティアは魔女の中でも他の魔女達とは違う。一番長く時を過ごし、他の魔女達を育てた存在である。故にシャティアが他の魔女が知らぬ事を知っていてもおかしくは無かった。だが、だからと言ってシャティアが直に答える義理は無い。


「……世の中には知らなくても良い事がある。勇者よ」


 シャティアは答えない。真実を闇で隠し惑わしてしまう。結局勇者は知りたかった事を知る事は出来ず、シャティアとの会話はそれで打ち切られてしまった。シャティアもそれ以上何かを告げようとはせず、むしろ悲しそうな表情を浮かべていた。


 それから数分もしない内にリリが合流した。偵察した限りではシャティアの予想した通りリザードマン達は予定されたコースを進んでいるらしく、後数分もしない内にこの付近まで来るらしい。丁度山と山の境目。ここで止めなければ彼らの目的を阻止する事は益々難しくなってしまう。シャティアは気を引き締め直して自身の頬をそっと叩いた。


「で、どうやってリザードマン達を出し抜くの?シャティファール」


 リリは髪を掻きながらそう尋ねた。シャティアの事だからきっと凄い作戦があるのだろう、とその瞳はキラキラと輝いており、シャティアはそれを眩しく思った。一度咳ばらいし、彼女は指を一本立てる。


「別に我々の目的はリザードマンを全て倒す事では無い。儀式が出来なように人質を救出すれば良いだけだ」


 リリの前を横切り、勇者の近くを回りながらシャティアはそう説明した。

 そもそもシャティア達がリザードマン達と全面戦争をする必要は無い。彼らが儀式で必要としている人質さえ奪い返してしまえばそれで済むのだ。


「我が奴らの注意を引く。その間にリリと勇者はミミ達を助けてやってくれ」


 もちろんだからと言って全ての戦闘を回避出来る訳では無い。対峙する以上そこで争いが起こるのは必然だし、奴らが大人しく人質を奪い返されるのを見ているはずが無い。だからこそシャティアは必要最低限の戦闘で済むように自分が囮になると言い、その間にリリ達に人質に救出を頼んだ。


「分かった……て、シャティファール。その魔法陣は?」

「ん?ああ、これか」


 ふとシャティアが腕を掲げて魔法を発動させる準備をしている事にリリは気が付き、指を指して指摘した。魔法陣を展開していたシャティアは思い出したかのように腕を振るい、魔法陣を自分の前へ動かす。


「ちょっと、山を消そうかと思ってな」


 カラカラと笑いながらシャティアはそう言って見せた。思わずリリは頬を引き攣らせ、隣に居た勇者も複雑そうな表情を浮かべる。シャティアは面白がるように口元を歪ませ、そっと指を動かした。



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