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元魔女は村人の少女に転生する  作者: チョコカレー
4部:混沌の魔国
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27話:魔女クローク



 シャティアはローブを身に纏いながら山の中を歩いていた。浮遊魔法で大陸を超えたのは良いものの、魔国への道のりはまだまだ遠い。少なくとも後山を三つ程超える必要がある。彼女は小さくため息を吐いた。


「ふぅ……うむ、流石に浮遊魔法を使っての移動でも疲れるものは疲れるな」


 一度地面に降り立ちながらシャティアはバッグから水筒を取り出し、水を口に含みながらそう呟いた。

 例え無尽蔵の魔力を誇ると言っても移動中は神経も削られる。ましてやシャティアのような子供が一人で旅をしている所を通行人が見れば不審がるのは当然。注意深く進む必要があった。

 自身の銀色の髪を乱れないように紐で結わき、シャティアは小さく深呼吸をした。辺りは霧が掛かっており、数歩先すらどうなっているかが分からない。もしもうっかり進んでしまえば木に激突する危険性もある。


「……食料が尽きたか」


 ふとバッグの中を探って手応えが無い事に気が付き、シャティアは怪訝そうな顔をした。予想していた以上食料の消耗が早い。何より自身の好きな甘味が無いのが痛い。シャティアは口元に手を当ててどうしたものかと頭を悩ませた。


 その時シャティアの耳に叫び声が聞こえて来た。同時に魔力の反応がし、シャティアは近くに人間が居る事に気がつく。それも複数。別段不思議な事は無い。魔国にだって村はあるし、魔族の一般人が通る事がある。特にこの辺りは街も多い為、行商人が通り掛かる事がよくある。だが問題は叫び声が上がったという事だ。

 シャティアは面倒臭く思いながらも聞かなかったフリをする訳にも行かない為、駆け足で悲鳴が上がった所へと向かった。そこでは案の定盗賊に馬車を襲われている商人達の姿があった。


「だ、誰か助けてくれぇぇ!!」

「へへ、命が惜しけりゃ金目の物を置いて行きな!」


 商人は大人の男とその娘らしき少女の魔族二人。馬の手綱を握ったまま、恐怖で顔を引き攣らせている。対して魔族の盗賊の数は十程。それぞれ赤いローブを纏ってフードを被り、盗賊団の象徴らしき刺青が彫られている。

 こういうのは人間も魔族も差して変わらないな、と感想を抱きながらシャティアは盗賊達を注意深く観察した。リーダーらしき男は屈強な身体付きをし、髭を蓄えて熊のような顔をしている。そこそこ年齢は行っているのであろう、盗賊としての稼業は長いのか、部下達もしっかりとリーダーの指示に従っている。シャティアはそれらを確認した後、小さく頷くと自身のローブのフードを深く被った。


「わざわざ変装する必要も無いな……」


 子供の姿のままの方がむしろ油断してくれる。その場合商人達の方が疑問に思うだろうが、どうせ深く関わる事も無いだろうと思い、シャティアはフードを被った姿のまま姿を現した。

 突然草むらの中から現れた子供の存在に盗賊達は驚いた素振りを見せるが、すぐにそれがか弱い存在だと知ると対した脅威とは感じず、余裕の笑みを浮かべた。


「ああ?何だ餓鬼んちょ。この商人共の仲間か?」

「だったらお前も金目の物を出しな。小遣いくらい持ってんだろ?」


 何の警戒もせず盗賊達はシャティアへと近づく。ナイフを手の中で振り回しながら脅すように命令し、シャティアに迫った。だがシャティアはそれに応える事無く、静かに腕を下へと振るった。その瞬間盗賊達は地面へと崩れ落ち、押しつぶされるような痛みを感じた。


「ぐがッぁぁあああ……!!」

「な、何だ?急に身体が重く……ぐふッ!!」


 大した抵抗も出来ずまま盗賊達は全員地面へと崩れ落ち、あまりの圧迫感に泡を吹いて気絶してしまった。

 シャティアは全員が気絶した事を確認し、他の敵が潜んでいないかを魔力で探ってからようやく肩を落とす。そして倒れている盗賊達へと近寄り、彼らのポーチや懐を漁り始めた。


「う〜む……やはり干し肉と芋か……甘味は持ってないだろうな。普通……」


 予想していた通りシャティアは盗賊達が自分の欲しい物を持っていなかった為、あからさまに落ち込んだ姿を見せた。その横では状況が理解出来ていない商人の親子が目をぱちくりとさせながらシャティアの事を見つめていた。

 やがてシャティアは自分のバッグに盗賊達から奪った食料を詰め、起きあがると小さくため息を吐いた。そのまま立ち去ろうとするシャティアを慌てて商人の娘が止める。


「あ、あのッ! 貴方は一体……何者なんですか?」

「……ん?む、我の事か?」


 商人の娘の呼びかける言葉を聞いてシャティアは歩みを止め、フードを深く被ったまま自分の事を指差して尋ねた。商人の娘は控えめそうに頷き、それを肯定する。


「我はただの旅人さ。銀の旅人でも呼んでくれ……銀髪だから」


 流石に名を明かすのは不味いと思い、シャティアは適当にそう自身の呼び方を伝えた。商人の親子も詮索するようなつもりは無いのか、頷くと分かりましたと答えた。

 商人の父親の方もようやく安堵したのか、先程まで強張っていた頬を緩ませるとずっと握りっぱなしだった手綱を放し、鼻息を荒くしていた馬を落ち着かせた。


「銀の旅人さん……助けてくれて本当に有り難う御座います。是非何かお礼を……」

「いや、もうお礼なら貰った。盗賊達からな……我の事は嵐か何かだったと思ってさっさと忘れてくれ」


 そう言うと手を振ってシャティア再び歩き始めた。商人の娘は助けてもらった身として何かしら恩を返したかったが、それ以上シャティアに付いて行こうとする事が出来なかった。何故か脚が金縛りにあったかのように動かいのだ。そのままシャティアは振り返る事なく商人達の前から姿を消した。


 盗賊達から食料を確保した後、シャティアは空も薄暗くなって来た為に今夜はこの山で野宿をしようと準備を始めた。火魔法で焚き火を用意し、気配遮断魔法で魔物達に襲われないようにする。そして木に寄り掛かりながらシャティアは自身の銀色の髪を櫛でといていた。


「後数日で到着するかね……いやはや、魔王城に訪れるのは数十年振りか?全く久しぶりだ」


 櫛をバッグに戻しながらシャティアはそう呟き、再び髪を後ろで結わいた。

 実はシャティアは大昔にも魔国を訪れた事がある。協力関係とかでは無く、単純にシャティアが魔族から一方的に迫られていただけ。訪れたのも大分昔であり、ほんの数回程度であった。今頃は魔王も代わっているだろうし、昔とは大分街並みも変わっているだろうと思いながらシャティアは小さく肩を落とした。自身の動かないままの左腕を見つめ、もどしかしそうに唇を噛む。


 何の理由があってかは分からないが王宮の魔法書を盗んだのは探究の魔女クロークで間違い無い。恐らくは研究か何かで利用するつもりなのだろう。おまけに向こうはこちらに存在に気付いている様子がある。魔国に所属しているという噂から、良からぬ事を考えているのは間違いないだろう。彼女は美しい容姿とは裏腹に口調は汚く、常に悪知恵を働かせている。そういう魔女なのだ。シャティアはクロークの事を思い浮かべながら焚き火に手を当てた。

 その時、シャティアは近くから巨大な魔力の反応を感じ取った。灯っている炎が大きく揺れ動き、心無しか風も吹き始めた。シャティアは目を細め、警戒心を高めながら口を開いた。


「……久しぶりの再会だと言うのに、顔も見せてくれないのか?クローク」

「……フフ、流石はシャティファール。結構頑張って隠したのに、バレちゃうか」


 シャティアが木々の隙間の何も無い所に向かってそう声を掛けると、その隙間にあった闇が揺れ動き、そこから肩辺りで結わいた青髪を垂らし、黒いコートを羽織った美しい女性が現れた。その瞳は血のように赤く光っており、シャティアの事を見るなり彼女、【探究の魔女】クロークは大声で笑い始めた。


「フフッ、ハハハハハ! シャティファール、なんだその姿! 近くで見たら本当笑えるなっ……おまっ……魔女だった頃はあんなナイスバディだったのに……何そのぺたんこな胸!……プハハッ!」


 綺麗な顔を歪ませながらクロークは腹を抱えて盛大に笑った。シャティアの胸辺りを指で指し、バンバンと自分の膝を叩いて笑い続ける。せっかく美しい容姿をしているのにその反応は酔った男性そのものであった。いつもは冷静なシャティアも口元を歪ませ、複雑そうな表情を浮かべている。実際彼女も転生してからこの身体の成長には思う所があった。だが、その不安をクロークには気付かれないように何とか平静な素振りを見せる。


「我は今は子供だから当たり前だろう。お前は本当に相変わらずだな……それよりもっと上品に笑え」

「プハハハハハ!! む、無理ぃぃぃぃ!!」


 クロークの笑いは収まる所か更に酷くなって行き、段々とむせ始め彼女は咳き込んで倒れ込んでしまった。それから少し経ってようやくクロークの笑いが収まり、彼女は息を荒くし、髪を乱れさせながらゆっくりと起きあがった。


「はぁ……はぁ……あー、笑った。いやぁ、本当に面白い姿になったな、シャティファール……いや、今はシャティアって名乗ってるんだったけか?」


 目に浮かんだ涙を拭きながらクロークはおぼろげにそう尋ねた。その言葉に否定も肯定もせず、シャティアは静かに目を細める。

 シャティアが今気になっている事はクロークがどこまで知っているのか、という点だった。王都での事件は間違いなくクロークの仕業である。だが彼女がいつからシャティアの存在、正体に気付いていたかのかが分からない。もしももっと前から知られており、計画を持ってしてこのような状況が作られたのだとしたらシャティアは警戒しなければならない。クロークの最も恐ろしい所は策で対象を自分のペースに持ち込む時なのである。


「……単刀直入に言おう。クローク、お前が王都で魔法書を盗んだのは知っている。それの一部を見せて欲しい」


 腹の探り合いをするのも良いが、その場合はクロークの方が部がある。ならばさっさと本題に入ってしまった方が得策だろうと考えたシャティアはいきなり要件を伝える事にした。

 そもそもクロークの方から魔国へ来るように仕向けたのである。ならば向こうだってこちらに要件がある事は分かっているはず。シャティアはそう考えた。

クロークは未だにクスクスと笑みを零し、長い指を動かしながら自身の頬を撫でる。


「あー……人体生成の魔法書か……大方その腰に付けてる真面目ちゃんを復活させる為に必要なんだろ?」

「分かってるなら……!」

「でも悪いな、お断りするわ。アレは私の物だ」


 驚いた事にクロークはエメラルドの事も知っていた。という事は村で事件が遭った時からクロークは自分の存在に気付いていたという事になる。いや、逆か、その時に自分の存在に気付いたのか、とシャティアは解釈する。いずれにせよクロークもエメラルドの事情を知っているなら断る理由は無いはず。だと言うのに断ったクロークにシャティアは信じられんと言わんばかりに目を見開いた。


「クローク……ふざけるのも大概に……!」


 いくら同じ魔女と言えどその仲間を見捨てようとするならシャティアも躊躇はしない。すぐさま眠り歌を発動させようと彼女は呪文を唱えるが、その前にクロークは腕を振るうと闇の中から二匹の黒蛇が現れた。


「咎の幻影」


 クロークはそう言って呪文を唱える。二匹の黒蛇はシャティアへと襲い掛かり、彼女は一度呪文の詠唱を中止してその場から飛び跳ねた。黒蛇は後ろにあった木へと激突するが、途端に煙となり、モクモクとシャティアの居る上空へと浮かび上がると再び黒蛇へと姿を変えた。シャティアは舌打ちをして腕を払い、魔力波で黒蛇達を吹き飛ばす。そして地面に降り立つと、今度はクロークが宙へと浮かび上がっていた。


「やれるもんならやってみろよ。あんたはアタシ等に魔法を教えてくれたが、その魔法を極めたのはアタシ等だ……数と質、どっちが勝るかねぇ?」

「…………」


 クロークはそう言うと両腕を振るって辺りの闇から無数の黒蛇を出現させた。蛇達は目を赤く光らせ、舌をシュルシュルと動かしてシャティアの事を見下ろしている。シャティアは目つきを険しくしながらそのまま動かず、じっとクロークの事を見つめた。


「……フフ、まぁ今回はご挨拶さ。本番は我が魔国で。ご馳走を用意して待っているよ……母上殿」

「……クロークッ」


 そう言うとクロークはその綺麗な顔をニコリと笑みで包み、華麗にお辞儀をすると黒蛇達に飲み込まれて行った。黒蛇達が姿を消すと、もうそこにはクロークの姿は無かった。残されたシャティアは小さく灯っている焚き火に立ち、ただ悲しそうに夜空を見上げた。



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