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元魔女は村人の少女に転生する  作者: チョコカレー
3部:王都魔法学園
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26話:孤独の旅立ち


※設定変更により定期試験を大幅にカットしました。

 勝手ながら大変申し訳ありません。




「あー、くそったれ。ゴーレムやられやがった……攻撃する暇を与えない高機動型なら攻略出来ると思ったのに……やっぱ上手く行かないな」


崩壊した王宮の上空で一人の女性が佇んでいた。浮いたまま、機能停止したエンシェントゴーレムとその側に居る二人の子供を見下ろしながら、彼女は酷く嫌悪感を抱く表情をする。手には数冊の魔法書が。それを大切そうに抱えながら彼女はふぅとため息を吐く。


「魔王サマから貰った部下も兵士共に捕まっちまったし。引き時かなぁ……仕方ねぇ。まぁ魔法書は手に入ったんだし、それで良しとするか」


女性はそう言って王宮の外の様子を伺う。そこでは兵士達が集まり、隊を作っていた。これ以上王宮に留まるのは危険であろう。そう判断すると女性は今回連れて来た部下達を救出する事は諦め、見捨てる事にした。

いずれにせよ目的は既に果たしている。今回自分がわざわざエンシェントゴーレムの封印を解いたのはちょっとしたついで。例え倒された所で然程支障がある訳では無い。倒した張本人である少女の事を見下ろしながら、女性は嘲笑するように口元を引き攣らせて言葉を発する。


「では次は我が国、魔国でお待ちしています……我らが魔女の長、シャティファールよ」


腰を曲げて丁寧にお辞儀しながら“探究の魔女”クロークはそう呟く。紅の瞳を静かに燃やし、彼女は次こそはシャティアを超えてみせると決意する。

そして次の瞬間、クロークはその場から煙のように消えてしまった。後に残るのは崩壊した塔と王宮だけ。風がもの静かに吹いていた。





ゴーレム暴走事件が起きた翌日、王都ではこんな噂が流れていた。

魔法学園の生徒が一人でゴーレムを退けてくれた。最初その噂は誰も信じなかったが、現に討伐したゴーレムの死体がある事と、それを目撃した兵士達が居る事からそれは真実だと判明した。いくら魔法学園の生徒だからと言って子供がゴーレムに勝てる訳が無い。そう思って民衆達はその子供の力に疑念を抱いたが、同時に感謝した。その子供のおかげで街は救われたのだ。人々は感謝の気持ちを伝える為、子供が住んでいる屋敷に訪れたり、手紙を送ったり等をした。


またその一方でその子供が今回の事件に関わっているのでは無いか?と異論を発する者も居た。だが王宮での事件は魔族が起こした物だと兵士達は説明し、実際に犯人を拘束していると公表した。

何故最前線で戦っているはずの魔族がいきなり王宮に侵入する事が出来たのかなど疑問があるが、それはこれからおいおい詮索して行くと発表された。


いずれにせよ事件には魔族が関わっていたのだ。今回で魔法書の幾つかを奪われ、長年秘密兵器として封印していたエンシェントゴーレムまで暴走で失ってしまった。人間側からすれば大きな痛手である。既にこれは宣戦布告だと見なし、再び魔族と戦争を行おうと考える者達も居た。


「奴らは此度、我らの国に侵入して大きな損害を齎して行った……これは明らかに宣戦布告だ! 我らは再び剣を取らねばならない!」

「だがどうやって奴らは王宮に侵入したのだ?北の砦の時もそうだ……奴らは突然現れる。一体どういう手を使っているんだ?」


王宮の会議室では激しい論争が行われていた。魔族との戦争を望む者、魔族の侵攻を不審がる者、時には魔族に降伏しようと言う者も居た。皆不安に思っているのだ。今回の魔族の襲撃によって戦争の切っ掛けが出来てしまった。せっかく魔女が居なくなったと言うのにこれで世界は再び混乱の渦に巻き込まれる。それだけはどうしても避けたい事だった。


「いずれにせよ、今回は奇跡的にも犠牲者は出なかった。民衆達に不安を抱かせないよう、我々は事を荒げるべきでは無い」


一人の老人がそう言うと、他の者達は黙って席に座り込んだ。

今回これだけ大きな事件が起きたのにも関わらず驚くべき事に犠牲者は出なかった。もちろん怪我人は居たが、命を落とさなかっただけで幸運である。そしてその要因は一重に言うとエンシェントゴーレムを討伐してくれた少女による物だろう。


信じられない事だが、魔法学園の生徒の少女はたった一人でエンシェントゴーレムを倒してしまった。もしもエンシェントゴーレムが街まで降り立っていれば力を持たない民衆達は一網打尽にされ、悲劇が待っていただろう。老人は少女の力に異質さを覚えるが、それでも彼女の活躍を無下にする訳には行かない。静かに咳払いし、口を開いた。


「我々は少女に感謝しなければならない。彼女のおかげで王都は救われたのだ……壊れた王宮は修理すれば良い。今はとにかく、傷口を抉るような事はしない方が良いだろう」


わざわざ事を荒げ、不安を抱いている民衆達にこれから戦争を行うなど宣言する必要は無い。今は魔族の侵入をより警戒し、防御を固くする事が重要である。今はまだ動くべきでは無い。じっくりと体勢を立て直し、地盤を固めなくてはならない。戦争を行うと言うのならそれからである。そう結を出し、荒々しかった会議は終了した。





「え?シャティアちゃん。しばらく学校に来ないの?」


ゴーレム暴走事件の時に怪我をしたシャティアの事を心配をし、リィカは屋敷にお見舞いに来ていた。彼女自身も瓦礫で怪我をしたのだが、そこまで酷い怪我では無く、手足に少しだけ包帯が巻かれているくらいだった。だがシャティアの方は意外にも重傷だったらしく、左腕にギプスをしていた。


「うむ。左腕をやられた時にちょっと魔素に当てられたらしいんでな……傷がどうも回復しないのだよ」


ギプスをしている左腕を撫でながらシャティアはそう説明する。

どうやらエンシェントゴーレムは融合化した事によって害悪な魔素を生成する体質になったらしく、負傷した際にシャティアはその魔素を取り込んでしまったらしい。そのせいで傷は治癒魔法でも回復せず、シャティアは片腕を動かせない状況となってしまった。


「しばらく療養の旅に出掛ける。妖精の泉に浸かれば治ると先生に言われたんでな」

「そっか……じゃぁシャティアちゃんとはしばらく会えないんだね」


シャティアがしばらく学校には登校しなくなると知ると、リィカは酷く落ち込んだ表情をした。またいつもの癖の指を弄るような仕草を取り、暗い雰囲気になってしまう。それを見てシャティアはクスリと笑い、動かせる腕を伸ばして彼女の頭を撫でた。


「心配するな。リィカはもう我が居なくても大丈夫さ。お前は強い精神力を手に入れた……今後学校で虐められても挫けはしないさ」


シャティアはそう言ってリィカを安心させる。リィカも尊敬しているシャティアからそう言われると少しだけ自身を持つ事が出来たのか、瞳を揺らしながら力強く頷いた。けれど何処か寂しげな表情をし、顔を俯かせる。


「でもやっぱり、ちょっとだけ寂しいな……」

「クク、我もだ」


そういう所は子供らしい、と思いながらもシャティアもそれに同意した。

ほんの二ヶ月の間ではあったがリィカと過ごした時間は本当に楽しかった。自分が魔女だった頃に戻ったような感覚だった。もう戻る事は出来ない過去の事を思い出しながらシャティアは静かに瞳を瞑った。


リィカと別れた後、シャティアは自室で旅に出掛ける準備をした。療養の旅の為、学校への出席は免除されている。何でも自分は今回の事件鎮圧化の功労者らしいので、特別措置との事だった。シャティアは自身の動かなくなった左腕を見つめながらふと首を傾げた。


「意外にも……受け入れられるものなのだな」


魔女だった頃とは違う、大いなる力を受け入れるという体験。シャティアは今回の事は少し驚いていた。

てっきり自分は異質な存在として拘束、拉致されるのかと思ったが、その逆で事件を解決した英雄として祭り上げられた。屋敷で怪我の治療をしていた時も次々と訪問者が現れ、感謝の言葉を述べに来た。その時シャティアはどう反応すれば良いのか分からず、珍しくキョトンと呆けた顔をしていた。


腰に付けてある人形を撫でながらシャティアは小さく息を吐く。もしもこれがエメラルドも見ていたら、彼女はどれだけ喜んだだろうか?人間との共存を望んでいた彼女にとって、この結末は最も望んでいた事だろう。本当なら今回彼女を復活させる事も出来たかも知れない。だが兵士達の情報によると魔法書は魔族達に奪われてしまったらしい。今回の事件の犯人、魔族。彼らはどういう方法を使ったのか、突然王宮に侵入し、ゴーレムを暴走させた。


「……奴らには黒幕が居る」


シャティアは目を細めながらそう呟いた。

確かに今回の事件は魔族も関わっていた。だがそれだけでは無い。魔族が魔女を保持しているという情報。大陸の端で戦っていたのにも関わらず突然王都に近い北の砦を攻め落とした事。そして今回の突然の王宮侵入。シャティアにはそれらを可能にする人物に心当たりがあった。


“探究の魔女”クローク。その麗しい見た目とは裏腹に人間を忌み嫌い、魔女こそが生物としての頂点と本気で信じている女性。魔法の研究に熱心で、昔はシャティアによく勝負を挑む事もあった。

魔法書に残されていた文字と言い、今回の魔族の突然の侵入から考えるに彼女しか黒幕は考えられない。シャティアはそう確信していた。


「シャティアちゃん、準備は出来たかい?」

「ああ、うむ。後少しで終わるよ。先生」


必要な物だけバッグに詰めた後、扉をノックしてロレイドが入って来た。彼も手に鞄を持っており、旅に出る支度をしている。当然のごとく今回の療養の旅はロレイドも同伴する予定だった。彼は一応シャティアの保護者となっている為、付いて行く義務がある。シャティアはロレイドの方に顔を向けると、急に真剣な顔つきになって口を開いた。


「先生には本当に感謝している。王都に連れて来てくれ、学園にも通わせてくれた。心から礼を言う」

「えっ、急にどうしたんだい?シャティアちゃん」


突然シャティアが真面目な話をし始めたのでロレイドは困った顔をする。そしてシャティアはゆっくりと彼に近づくと、右手を翳して呪文を唱えた。魔法陣がロレイドの顔の前に現れ、眩い光を放つ。


「だがすまない。我の行く先は妖精の泉では無い……魔国だ」


そう宣言すると共にシャティアは指を走らせ、ロレイドの記憶を操作した。

記憶操作魔法によってロレイドはシャティアが一人で療養の旅に出掛けたと思い、自分は王都に残って研究する予定があるのだと思い込む。元々表には出れない存在の為、民衆もロレイドが王都に残っているとは思わない。リィカ達はシャティアが療養の旅に出掛けていると思い、魔国に向かっているだなんて微塵も思わない。


シャティアは放心しているロレイドに小さくお辞儀して謝り、研究費にもと思って今回の事件の恩賞として受け取った大量の金貨を机の上に置いて行った。そしてベッドの上に置いてあったバッグを持つと寂しげに部屋を後にした。二ヶ月間世話になった屋敷を尻目に、彼女は気配遮断魔法を使って人混みの中へと消えて行く。

シャティアの次なる目的地は魔国。波乱と悲劇が待ち受ける。




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