表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔女は村人の少女に転生する  作者: チョコカレー
3部:王都魔法学園
24/49

24話:エンシェントゴーレム



シャティアは地面を蹴り、向かって来るゴーレム達の隙間を浮遊魔法で通り抜けると天井へと移動した。そしてゴーレム達の攻撃が届かないくらいまでの距離を取ると腕を翳し、そこから無数の魔力球が雨のごとく降り注がれた。


「お前達の相手をしている暇は無い。散れ」


次々とゴーレム達は魔力球で貫かれ、機能を停止して床へと崩れ落ちた。確実に倒した事を確認してからシャティアはその場を後にしてリィカ達を探しに走り出す。

魔法学園の生徒達は自由時間という事でそれぞれ好きなフロアを見て回っていた。恐らくゴーレムが暴走した時も全員同じ場所には居なかったであろう。ならばリィカ達もレイギスと合流出来ていない可能性がある。それを不安に思いながらシャティアは人混みを抜け、レオが言っていた説明会が行われているというフロアへと向かった。


「きゃぁぁあああ!!」


フロアに辿り着くと頭上からリィカの叫び声が聞こえた。見ると二階に続く階段の途中でゴーレムに追いつめられているリィカの姿があった。いち早くシャティアは反応し、魔力の矢を放つ。ゴーレムの腕に命中した矢はそのまま弾け、魔力の網へと変化するとゴーレムを拘束した。動けなくなったゴーレムを魔力波で吹き飛ばし、シャティアはリィカの隣へと降り立つ。


「平気か?リィカ」

「シャティアちゃん……!」


リィカの姿を見て安堵した様子を見せながらシャティアは彼女が怪我をしてないか確かめた。多少制服が乱れているがその程度。大きな損傷は無いらしい。リィカもシャティアが来てくれた事に安心したように頬を緩ませ、目に軽く涙を浮かべていた。


「他の生徒はどうした?レイギス先生は何をしている?」

「レイギス先生はゴーレムの暴走が起きた時にすぐに皆を連れて避難してくれたの……でも私だけ途中ではぐれちゃって……」


状況を確認しようとそう尋ねるとリィカは肩を小刻みに振るわせながら起きた事を説明した。どうやら既に他の生徒達の避難は終わっているらしく、リィカだけ途中でゴーレムに襲われて離ればなれになってしまったらしい。シャティアはとりあえずリィカが無事だった事を喜び、次の行動をどうするべきかと考えた。


「では我と来い。安全な所まで連れてってやる」


ひとまずはリィカの安全の確保が最優先。既に他の見学者達も避難した為、リィカさえ外に連れ出せば問題無いだろう。口元に手を当てながらシャティアはそう判断し、リィカに背を向けながらそう言った。リィカも力強く頷き、シャティアの側にピッタリと寄る。そのまま二人は出口を目指して走り出した。


だがフロアを抜けようとする途中で複数のゴーレムに阻まれた。赤く輝く目でシャティアの達の事を凝視しながら、まるで脱出経路を塞ぐように立っている。シャティアは舌打ちして余計な戦闘を避ける為に別の出口へ向かおうとした。するとそこにも複数のゴーレムが立っており、気がつけばそのフロア一帯はゴーレム達によって囲まれていた。


「こいつ等……まさか我々を閉じ込めたつもりか?」


シャティアは首を傾げながらそう尋ねる。もちろん答えなど返って来るはずが無い。代わりにゴーレムに囲まれた事によってリィカは酷く怯えたようにシャティアの背に隠れた。

そもそも一定の行動パターンでしか動く事が出来ないゴーレムがこのような器用な事が出来る訳が無い。何かしらの目的があるはずなのだ。自分達を閉じ込める事によって利があるような何かが。そう考えているとシャティアは二階から強い魔力を感じ取った。


そこには他のゴーレムとは見るからに大きさの違う巨大なゴーレムが立っていた。王宮護衛用のゴーレムとは違って錆び付いた刺々しい鎧を着ており、幾つかの部分が引き千切られた鎖がぶら下がっている。そしてその太い腕にはゴーレム自身よりも巨大な剣が握られていた。


「エンシェントゴーレム……人間達め、こんな物を封印していたのか」


シャティアはその異質なゴーレムがエンシェントゴーレムだと見抜き、呆れた様にため息を吐いた。

エンシェントゴーレムは五百年程前に自然界に生息していた天然の魔法生物。大きさもさる事ながらその破壊力も計り知れない。ある時を境にその数は大きく減少したが、まさかまだ生存しているゴーレムが居るとは思いもしなかった。恐らく人間達が封印の鎖を使って保管していたのだろう。シャティアはそう推測し、人間達の強欲さに肩を落とした。


「不味いな。こいつが街まで行ったら王都が破壊し尽くされるぞ」

「ええ!? じゃぁ何とかして止めないと……!!」


エンシェントゴーレムは現在何者かの手によって操られている。殆どが暴走状態の為、見境無く破壊活動を行うであろう。その規模は王宮に留まらず、街まで破壊しつくす。シャティアがそう言うとリィカは驚いたように声を上げてエンシェントゴーレムを止めるべきだと口にした。それを聞いてシャティアはクスリと笑みを零す。


「おいおい、子供の我らがどうやってあんなのを止めると言うのだ?」

「だ、だって……王宮の兵士さん達は他のゴーレムの事で手一杯だし、私達が少しでも食い止めれば……」

「言っておくがアレの戦闘力は並の魔物の数百倍だ……それでもやるのか?」


リィカの言い分にシャティアはただの事実を伝えた。それを聞いてリィカの表情に僅かに曇りが見える。

普通に考えれば分かる事だ。いくら魔法学園の生徒だからと言ってゴーレムならまだしもエンシェントゴーレムなどに敵う訳が無い。足止めでも難しいくらいだ。逃げるのが普通の考えた。シャティアでも面倒だと思って逃走を選択する。だがどういう訳か、シャティアよりも大きく力が下回るはずのリィカはシャティアとは別の選択肢を選んだ。


「やるよ。だってそうしないと街が大変な事になっちゃうでしょ?だったら少しでも足止め出来るように私は最善を尽くす」


真っ直ぐな瞳を向けながらリィカはそう答えた。その喋り方に迷いは無い。以前のリィカだったら怯えてすぐに逃げようと言っていただろう。だが彼女は変わった。例え無謀と分かっていても今自分にやれる事を精一杯やろうと言う前向きな性格になった。


その変化を喜ばしく思いながらもシャティアはふむ、と声を漏らして首を傾げた。全く馬鹿な選択である。挑んだ所で自分に利など一つもないのに。何故人間はそんな無駄な労力を割くのか?理解が出来ない。ただまぁそこが人間んの面白い所でもある。シャティアはニヤリと笑みを浮かべた。リィカが無謀な事をしているのには変わりない。だが自分ならば、彼女のその馬鹿な行動を少しは勇気ある行動に変える事が出来るだろう。


「良いだろう。ならば我も出来る限りの事はやってやろうでは無いか」

「シャティアちゃん……!」


まぁ元々止める気ではいたんだが、と小さく呟きながらシャティアはそう言った。その返事を聞いてリィカは心強い味方が出来たように嬉しそうな顔をする。

そしてそんな二人のタイミングを見計らってかエンシェントゴーレムが動き出した。地面を蹴り、シャティア達が居る一階へと飛んで来る。シャティア達はすぐに身構えた。そしてエンシェントゴーレムが着地すると同時に重々しい音が響き渡り、衝撃波が舞った。


「グゴゴォォォァアアアアアアアアッ!!!」


エンシェントゴーレムの兜の部分が裂け、そこが口のような形になって咆哮が鳴り響いた。錆び付いたようにガラガラ声。だがそれはシャティア達を威嚇するには十分な物だった。シャティアも気を引き締め直し、これは簡単には行かないな、と静かに悟る。幸い周りゴーレム達は通路を塞いでいるだけで攻撃を仕掛けて来ようとはしない。それならまだ何とかなるだろうと目を細めて考えた。


「うるさいぞ、人形。生憎我は人形遊びが苦手なんだ。つい壊してしまうんでな」


グラリと大きな音を立てて剣を振り上げるエンシェントゴーレムにそんな軽口を叩きながらシャティアは魔法の準備をする。

通常の魔力波では意味が無い。ゴーレムは頑丈さが売りであり、加えて敵はエンシェントゴーレム。鎧が錆びているからと言ってその防御力は衰えていない。シャティアはまずその鎧自体にダメージを与える必要があると判断した。そして彼女は巨大な魔力の槍を生成した。


「……貫けッ!」

「ゴォオオオオオオオオ!!」


シャティアが放った槍とエンシェントゴーレムが振り下ろした大剣が激突する。火花を散らし、凄まじい衝撃波が響き渡る。そして鈍い音を立てて魔力の槍に亀裂が入り、そのまま床へと叩き落された。エンシェントゴーレムは剣先を床に当て、低い唸り声を上げる。


「恐ろしい腕力だな……リィカ、お前は土壁を張れ」

「わ、分かった」


エンシェントゴーレムの力を冷静に分析しながらシャティアは隣に居るリィカにそう指示を出す。そして走り出すとエンシェントゴーレムに近づき、今度は魔力砲を放った。一点集中に眩い光が放たれる。しかしエンシェントゴーレムは大剣を翳すとそれで魔力砲の軌道をズラしてしまった。


シャティアは浮遊魔法で宙に浮き、今度は上空からの攻撃を試みる。無数の魔力の槍を形成し、それを縦横無尽に放つ。エンシェントゴーレムは流石に捌き切れないと判断したのか、その場から回避しようと動き出した。しかし直後のエンシェントゴーレムの足下に土の壁が現れた。


「良い判断だ。リィカ」


ニヤリと笑みを浮かべてシャティアはリィカの事を見下ろす。彼女は地面に手を当て、遠距離からの土壁の生成を行っていた。そのおかげでエンシェントゴーレムは足を土の壁にぶつけ、僅かに反応が遅れる。直後の奴の鎧には無数の魔力の槍が突き刺さった。鉄同士を擦り合わせたような鈍い悲鳴が響き渡る。


「ゴガァァアアアアアアアッ!!」

「これも耐えるか。全く、恐ろしい頑丈さだな。ゴーレムと言うのは」


ダメージは通っているようである。だがエンシェントゴーレムはあれだけの槍に突き刺さりながらも倒れる事は無く、槍の雨が止むと静かに体勢を立て直した。シャティアも一旦リィカの所まで下降し、床に降り立つ。


「どうしようシャティアちゃん。全然攻撃が効いてないよ!」

「うむ、まぁ大体は予想していたさ。さてはて、どのような手を用いようか……」


リィカは不安そうに言うがシャティアはむしろ予想通り、と何処か達観した様子だった。呑気に腕組みをし、エンシェントゴーレムの事を見上げている。

貫通力を上げた槍でも鎧を破壊するのは不可能。魔力砲も捌かれ、大剣を退く手段も無い。ならばやはり内部的な破壊を試みるしか無いだろう。眠り歌……では無い。それは最終手段。もっと物理的で、シンプルな手段が理想的である。


「鎧の関節部分を攻撃するぞ。奴の動きを封じるんだ」

「えっ……それって具体的にどう……あ、シャティアちゃん!!」


目的だけ簡潔に伝えてシャティアは再び飛び立つ。訳が分からないリィカは戸惑ったように声を上げて手を伸ばすが、既にシャティアはエンシェントゴーレムの頭上まで迫っていた。

今度は魔力の槍では無く、細い魔力の刀を形成する。それを手の平に乗せ、衝撃と共に放った。するとその刀は鎧の隙間へと突き刺さり、エンシェントゴーレムは野太い声を上げた。


「グゴゴゴッ!!!」

「効いている、か?ならばもっとプレゼントしてやろう」


エンシェントゴーレムの反応を見て効果があると判断し、シャティアは更に無数の魔力の刀を形成する。そしてそれを一斉に放ち、エンシェントゴーレムの鎧の隙間全てに突き刺した。足の関節部分に突き刺さった刀はそのまま刃が伸び、床へと突き刺さる。完全に固定されたエンシェントゴーレムは大剣を落とし、苦しむように身体を動かした。だが動けば動く程刃で身体が切り裂かれ、遂には抵抗する事を止めてしまった。


「だめ押しでもう一発だ」


最後にシャティアは念には念を入れて一本の巨大な刃を形成する。それはエンシェントゴーレムの兜の隙間へと突き刺さり、カクンと頭部を揺らしてエンシェントゴーレムは項垂れてしまった。

機能を停止した訳では無いが、ここまで串刺しにすれば動く事も出来ないだろう。そう判断してシャティアは小さく息を吐く。


「止まった……?やった……やったよシャティアちゃん! 凄いよ!!」

「うむ、意外と上手く行ったな……さて、今の内に脱出経路を……」


エンシェントゴーレムが動かなくなったのを見てリィカは勝利したのだと思ったらしく、周りにゴーレムが居るにも関わらず飛び跳ねて喜んだ。シャティアもリィカの隣へと降り立ち、すぐに脱出しようと彼女を連れようとする。だがその時、辺りの様子がおかしい事に気がついた。先程まで通路を塞いでいたはずのゴーレム達がエンシェントゴーレムの周りに集まり始めていたのだ。


最初シャティアはゴーレム達が拘束している刀を外そうとしているのだと思った。すぐさま槍を形成するがそうでは無いという事に気が付く。どういう訳がゴーレム達はエンシェントゴーレムにくっ付く様に重なり合っていた。ある者はよじ登って背中や肩に引っ付いたりしている。そしてエンシェントゴーレムが顔を起こすと、近寄って来ていたゴーレムの事を噛み砕いた。


「共食い……!?」


鎧ごと噛み砕き、丸々一体のゴーレムを飲み込む。それは明らかに異常な光景であった。リィカは怯えた様に腕を握って後ろへ下がる。シャティアもその気味悪さに警戒心を高めた。そして次の瞬間、エンシェントゴーレムの錆びた鎧が剥がれ始め、くっ付いているゴーレム達が一体化し始めた。グニャリと揺れ動くようにゴーレム達が一つの鎧となって行き、エンシェントゴーレムは輝く黄金の鎧を纏う。


「これは……まさか融合化か?」


眩しく輝きまるで天使のような姿と化したエンシェントゴーレムを見てシャティアはそう呟く。

恐らくゴーレム達が持っている機能の一つ融合化。一体化する事によって個が強力な力を得る分かり易い手段。要するにパワーアップである。厄介な事になった、とシャティアは唇を噛み締める。


「ゴォォォァアアアアアアアアアアアアッ!!!」


直後、エンシェントゴーレムは咆哮を上げると突き刺さっていた刀を全て吹き飛ばした。更に腕を天井に向けるとそこから魔力弾を放ち、王宮を無差別に破壊し始めた。

エンシェントゴーレムに注意が行っていたシャティアは反応が遅れる。崩れて来た天井の破片に気付けず、彼女の真上には瓦礫が迫って来ていた。


「危ない、シャティアちゃん!!」


それに気付いたリィカが声を荒げ、地面を叩くと土の壁を形成した。シャティアの頭上が土の壁で覆われ、瓦礫を防ぎ切る。だがその代わり、リィカの姿は瓦礫の雪崩によって掻き消されてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ