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元魔女は村人の少女に転生する  作者: チョコカレー
3部:王都魔法学園
21/49

21話:密林でのサバイバル


試験が始まって三十分経過した頃、リィカは依然として岩陰に隠れながら密林を移動していた。

出来るだけ生徒と遭遇しないよう、ブレスレットの取得は考えずにただただゴールを目指していた。だが途中で高得点を狙う生徒同士の戦闘に遭遇したり、不意打ちを狙っていた生徒に見つかりそうになったりと中々思う様に進まず、遂には疲れ果てて岩陰に座り込んでしまった。


「はぁ……はぁ……もう駄目、疲れた……」


息を切らしながら自身のクリーム色の髪に付いた土を払い、リィカは小さくため息を吐いた。気弱な表情が何時に増しても弱々しく、彼女は細い腕を伸ばして自身の手の平を天に掲げた。何とも小さく、頼りにならない手。リィカは心細さを感じた。


思い返せば自身はシャティアに教わった事をちっとも活かせていなかった。女子生徒に襲われた時も反射的に魔力波を出しただけで、あの時ちゃんとした魔法を放っておけば勝利出来たのだ。だがリィカにはそれを実行する勇気が無かった。小さな唇を噛み締め、脚を引っ込めて彼女は顔を俯かせた。

その時、横方向から足音が聞こえて来た。何やら走っている様で、リィカが隠れる前に木々の合間から男子生徒が現れた。その子もまたリィカの事を虐める生徒の一人だった。


「おっ! リィカか。まだブレスレットはあるな。ラッキー」

「……ひっ!」


反射的にリィカは肩を振るわせて驚いたように声を上げる。男子生徒はまだリィカがブレスレットを所持している事に気がつくと驚いたように目を見開いたが、自身が幸運だったと考えて口笛を吹いた。

男子生徒はジリジリと近づいて来る。リィカはまた腰が抜けてしまい、脚をヨタヨタと動かしながら後ろに引いた。


「おら、痛い思いしたく無かったら早くブレスレットを渡せ。僕は一番にゴールしたいんだよ」


どうやらリィカを痛めつけるつもりは無いのか、男子生徒は手を差し出すとブレスレットを要求した。敵意が無いと知るとリィカは少しだけ安堵したように肩を下ろした。


ここでブレスレットさえ渡してしまえば痛い思いはしないで済む。男子生徒は一番に執着しているようなので、自分の事は見逃してくれるだろう。そう考えてリィカはブレスレットを渡そうと思ったが、手をブレスレットに伸ばした所で思い留まった。


「私は……私、は……ッ」


リィカはまるで何か別の意思に操られるかの要に腕を引っ込ませた。だが対照的にブレスレットを付けている腕は早く外してくれと願うように腕を上げた。

何故自分は思いとどまったのだろうか?こんな事せずさっさと渡してしまえば危険は去る。これは自分が痛い思いをしない為の安全な手段なのだ。リィカはそう考えるが、本能はそれを否定した。このままブレスレットを渡してしまえば自身は本当に敗者となってしまう。シャティアに教わった事を全て無駄にし、本当の堕落者となってしまうのだ。


「何してんだよ、おい。早く渡せって」


男子生徒はいつまで経ってもブレスレットを外さないリィカに苛立ち、歩み寄って無理矢理ブレスレットを奪おうとした。だが男子生徒の伸ばした腕を払い、リィカはそれに反発する。男子生徒は増々腹を立てて乱暴にリィカに拳を振るった。だが突如、横から別の乱入者が現れた。


「ぐぇッ!!?」


突然現れた乱入者によって男子生徒は吹き飛ばされ、木々にぶつかりながら盛大にすっ転んだ。リィカは痛そうに腕を抑えながら顔を上げてその乱入者の事を見る。それはボサボサの紺色の髪をしたレオだった。尖った歯を見せながら息を切らし、彼はリィカの事を見下ろす。


「大丈夫か!? リィカ!」

「……レオ、君!」


レオは本当にリィカの事を心配したようにそう声を掛けた。リィカも最初はレオが現れた事によってまた虐められるのでは無いかと不安を抱いたが、状況から助けてくれたようなので一応安堵の息を吐いた。レオはリィカに近寄り、彼女に怪我が無いかを確認する。


「ったく、お前はやっぱり一人じゃ何も出来ないな。だからいつも虐められるんだよ」

「ッ……ご、ごめんなさい」


軽く舌打ちをしてレオは髪を掻きながらそう言った。苛立っている訳では無さそうだが、それでもリィカの力の無さに何かしら感情を抱いている様子だった。それが何なのかは分からなかったがリィカはとりあえず謝り、頭を下げた。


「ほれ、さっさと立て。ブレスレットはまだ持ってるんだろ?だったらこのままゴールまで突っ走るぞ」


レオはそう言ってリィカに手を差し伸べた。リィカは戸惑いながらその手を掴もうとしたが、レオは突然顔を赤くして手を引っ込めてしまった。何かに気付いたかの要に彼は途端に慌てる。そして自身の行為に後悔するように髪を掻きむしった。その一連の動作にリィカは首を傾げながら、とりあえず自身の力だけで立ち上がった。


ひとまずレオは自分の事を狙うような事は無いらしい。そう判断するとリィカはレオと共に行動する事にした。ゴールまで一緒に居てくれるようだし、彼の側に居れば安全。リィカはようやく安心したように頬を緩ませた。だがその幸福を嘲笑うかのように、レオの背後に倒れていた男子生徒が起きあがった。


「レオォォォ……お前何落ちこぼれの味方してんだよぉ!!」


低い声でレオの名を呼びながら男子生徒は狂ったように首を曲げ、腕を振るって魔法を放った。水で構築された槍が魔法陣から浮かび上がり、勢い良く飛び出す。寸での所でレオは魔法の盾を出現させたが、近距離からの攻撃だったが為に盾は突き破られ、レオは反動で吹き飛ばされた。それに釣られてリィカも後ろに飛ばされる。


「ぐっ……くそ! 一撃が甘かったか。リィカ、お前は岩の後ろに隠れてろ!!」

「わ、分かった……!」


飛んで来る水の槍を避けながらレオはリィカの手を引っ張り、岩の陰へと連れ込んだ。そしてその場で動かないように指示をし、レオは制服の裾を捲ると勢い良く岩から飛び出した。それと同時に炎の球を形成し、それをボールのように掴んで男子生徒へと投げつける。


「水に炎が効くかよ!!」


飛んで来た炎の球に臆する事無く男子生徒は周囲に水の膜を張り、それを無効化した。レオは舌打ちしてすぐに二球目の炎の球を用意する。だが今度は投げる前に水の槍が飛んで来てその炎の球を消し飛ばしてしまった。


「ッ……くそったれ!」

「お前は火魔法なら成績はトップだが僕の得意魔法は水魔法。残念だけど敵わないんだよねぇ!」


ケタケタと気味の悪い笑いを上げながら男子生徒はそう言い、再び腕を振るった。今度は地面から水の槍が出現し、次々とその槍がレオへと向かって行く。レオは一度地面を蹴ると岩の上に飛び乗ってそれをやり過ごしたが、水の槍は岩を粉砕し、レオは吹き飛ばされて地面を転がった。


「ぐ、がッ……!」


致命傷は負っていないがそれでも岩の破片を喰らってかすり傷を負っていた。レオは苦しそうに咳き込み、男子生徒の事を睨みつけながらすぐに起きあがった。

岩が破壊された事によって隠れていたリィカも見えてしまい、レオは彼女を庇うように前に立つ。それを見て男子生徒は下品な笑みを浮かべた。


「アハハハ、お前が落ちこぼれを助けるなんてどんな気まぐれだよ」

「うるせーな……こっちにも色々あるんだよ」


男子生徒の言葉にレオはバツの悪そうに表情を歪めながら答え、チラリとリィカの事を見た。リィカも何故レオが助けてくれるのか分からない為、不思議そうに首を傾げている。

まさかシャティアに意地を張ってリィカを助けると言った事を言える訳も無く、レオは髪を掻いて苛立ちを落ち着かせた。


「ふーん……でも大変だよねぇ、レオはリィカを守りながら戦わないといけないけど、僕はリィカさえ狙っていれば簡単にお前が自滅してくれる。これで二個ブレスレットが手に入るなんて、本当ラッキーだなぁ!」


ニヤリと濁った笑みを浮かべながら男子生徒はそう言い、腕を振り下ろした。今度は宙に魔法陣が浮かび上がり、そこから水の槍が出現する。いち早く気がついたレオは火魔法は使わず、魔法の盾でそれを防ごうとした。魔素がぶつかる音が響き、槍と盾がぶつかって轟音が鳴る。レオは半ば自棄糞に腕を振るい、盾ごと槍を打ち払った。


「はぁ……はぁ……」

「レオ君……!」


攻撃を防いだのは良いものの、レオは疲れたように肩を落としながら息を荒くした。どうやら今ので魔力を大分消費してしまったらしく、リィカは不安そうな顔をして彼に近寄ろうとした。だが自分が行った所で何も出来ない事に気が付き、踏み出そうとしていた脚をすぐに引っ込めてしまった。


「そら、これでとどめだぁ!!」


男子生徒は勝利を確信して笑みを深めるとそう宣言し、両腕を前に突き出した。そこから凝縮された水の波動が飛び出す。レオは今度は魔法の盾は使わず、得意の火魔法でそれに応戦した。当然水と炎では相性が悪く、レオが放った炎はどんどん押されて行く。今は勢いだけで保っているが、すぐにそれも崩れてしまうだろう。


「ぐッ! うぅぅ……!!」


それでもレオは脚に力を入れて必死に踏ん張った。相性の壁を気合いだけで何とか押し込み、ギリギリの所で均衡を保っている。だがいずれは魔力が尽きて押されてしまうだろう。その時が来ればリィカもレオも敗北し、両方のブレスレットを奪われてしまうのだ。


リィカは二人がぶつかる光景を何処か達観して眺めていた。自分はどうして眺めているだけなのだろうか?何故レオの支援をしないのだろうか?そんな事を考え、リィカはパチリと目を開いた。


「レオ君……!!」


衝撃波が辺りに響いている中、リィカは立ち上がってそう力強く呟いた。守っているだけでは駄目だ。助けなくてはならない。自分の手で何かを成さなくてはならない。リィカは半分無意識で腕を上げていた。そこに魔力を込め、一つの魔法を作り出す。そして拳を地面に振り下ろすと、詠唱と共に魔法を発動した。


「ッ!? な、何だコレはぁぁあ……!!?」


突如、レオと男子生徒の間の地面が隆起し、土の壁が飛び出した。その土の壁は炎と水を遮り、更には方向を変えて男子生徒へと襲い掛かると彼を飲み込んで木々にぶつかった。土に拘束され、木に打ち付けられた男子生徒はうめき声を上げると首をビクビクと振るわせ、事切れたように項垂れると気絶してしまった。


「はぁ……はぁ……」

「……リ、リィカ……この土の壁、お前がやったのか?」

「……う、うん。一応」


目の前で起きた事が信じられず、レオは額から大量の汗を流しながら息を切らしてそう質問した。リィカ自身もここまでやれた事に実感が持てず、震える手を見つめながら力無く頷いて答えた。するとレオはゆっくりと立ち上がり、膝を付いているリィカの肩に手を置くと口を開いた。


「す、凄ぇじゃねか! お前こんな器用に魔法使えたのか!? お前ッ……何でそんな……いや、とにかく助かったから良いけどよ……!」


興奮したようにレオはそう言った。一瞬怒られるのかと身構えたリィカだったが、レオの言葉を聞くと目をぱちくりとさせ、途端に照れた様に頬を赤くさせた。


「良し……とにかくさっさとあいつのブレスレット奪ってゴールに行くぞ。俺もう魔力切れだ」

「そ、そうだね……うん」


突然レオは自身がリィカに近づいていた事に気が付き、バッと手を離して恥ずかしそうにそっぽを向いた。そしてはぐらかすようにそう言って土に拘束されている男子生徒に近づくと彼の腕からブレスレットを外した。そしてそれを一度手でしっかりと握ると、リィカの方へと投げ渡した。リィカは突然投げ渡された事に驚き、慌ててそれを両手で受け止めた。


「えッ……良いの?」

「当たり前だろ。やったのは殆どお前だし。それを付ける権利はお前にある」


まさか渡されると思っていなかったリィカはレオにそう尋ねた。レオは鼻の下を指で擦りながら照れたようにそう言い、リィカに権利を譲った。だがリィカ自身はあまりそうは思わなかった。自身がやった事は最後に不意打ちをしただけだし、もしもレオが来てなかったら今頃自分は確実にブレスレットを奪われていた。だからすぐにリィカはブレスレットを返そうと思ったが、その前にレオがリィカの肩をぽんと叩いた。


「ま、とにかく……意外とやるじゃねーか。リィカ」


ニコリと明るい笑みを浮かべてレオはリィカにそう言った。それは褒め言葉だったのか、それとも単純に意外だったから感想を述べただけなのか、けれどリィカにはその言葉がそよ風のように自身を通り抜け、何かがストンと落ちたような心地がした。

そしてリィカは何も言わず、ただ黙って頷くとブレスレットを自身の腕に付けた。





「まぁ、こんな物かね……」


今しがた倒した男子生徒のブレスレットを手にしながらシャティアはそう呟く。

これでブレスレットは合計七個。後一個で限界となるが、正直シャティアはもうゴールしても良いかと思っていた。いかんせん元魔女だった自分には戦闘が主流であるこのゲームは有利過ぎる。これ以上生徒達を掻き回さない方が良いと判断した。


それからシャティアはゴールへと向かってゆっくりと進んで行った。途中ブレスレットを狙う生徒達とも遭遇したが、シャティアの前ではそれらは紙くず同然だった。そのまま無双してシャティアはゴールへ到着し、晴れて一位でゴールとなった。


「シャティア、貴様は一位だ。ブレスレットは七個か……中々の成績だな」

「有り難う、レイギス先生殿」


ゲート付近ではレイギス先生が待ち構えており、相変わらず厳つい顔をしており、シャティアが一番にゴールした事に気がつくとその顔のまま褒めた立てた。ちっとも褒められてる気分では無いが、とりあえず礼は言っておこうと思い、頭を下げてお礼をし、シャティアはブレスレットを外した。


それからシャティアはもう教室に戻っても良いと言われたが、試験が最後まで気になるのでそこで待つ事にした。出口付近の柱で寄り掛かりながら、次に誰がゲートを通るかをレイギスと共に待った。そして次にやって来たのはまさかのリィカとレオだった。


「はぁ……はぁ……ようやくゴール! どうだ?流石に一位だろ?」

「レオ、リィカ、貴様達は同着で二位だ。ブレスレットは一個と二個か……及第点だな」

「ええーーーッ!!?」


レオは両腕を振り上げながら雄叫びを上げてゴールしたが、自身が一位では無いという事を知ると疲れきったようにその場に膝を付いた。そしてその隣でリィカが慌てたように手を動かしていたが、柱の所にシャティアが居る事に気がつくとレオを放ったらかしてそちらへ向かった。


「シャティアちゃん!」

「うむ、リィカ。同着だが二位でゴールとはやるじゃ無いか。それにブレスレットも二個か……頑張ったな」


リィカがブレスレットを二個している事に気が付き、シャティアは本当に嬉しそうに笑い、彼女の頭を撫でた。リィカも嬉しそうに頬を緩ましている。

実際シャティアはかなり驚いていた。レオが助けに向かったとなったら何とかリィカもゴール出来るだろうと思っていたが、ブレスレットを取得する事までは予測して居なかったのだ。良い意味で予想を裏切ってくれた事を喜び、シャティアはリィカの実力を認めた。


それから数分後、ようやく全ての生徒がゴールしたが、何人もの生徒がブレスレットを喪失していた。やはりシャティアがずば抜けていたようで、その分犠牲になる生徒も居たようだ。シャティアは別にどうとも思わなかったが、一個ブレスレットを取得したリィカは複雑そうな顔をしていた。


「では、今回はこれで試験終了だ! ブレスレットを一個も所持していなかった者は後日追試験を行う。覚悟しておけ!!」


最後にパンと手を叩くとレイギスは会場に展開していた密林を消し、ブレスレットを所持していなかった生徒達にそう言い放った。生徒達は正に絶望の底に落とされたかの要に顔を青くし、大きく肩を落とした。

シャティアはそれをケタケタと面白がるように笑いながら見つめ、リィカ達と共に会場を後にした。



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