ガガガ☆マンガール『選択』
「とにかく! 煉瓦。私は30年この異世界で過ごしてきて、おそらく今いる転生者の中で最古参だと思ってる」
「そりゃあ30年もいたら最古参にもなるかもしれないけど」
「まだ来た頃は転生者はいっぱいいた。けど戦争で死んだ人も多かったし、何より平和協定が結ばれたせいで転生者のほとんどは魔王を倒すために国から離反したの。その多くは捕まって、処刑されたやつもいる。私が捕まえた奴もいたかな」
ごくりと唾をのむ。
そうだ。俺たち転生者はあくまで魔王を倒すことを目的として異世界に来たんだ。当初は異世界の人間と利害が一致して魔族と戦っていたからこそ成り立っていた関係。しかし世代が変わって人間と魔族が平和協定を結んだせいで転生者は大っぴらに魔王討伐を掲げた活動ができなくなったんだ。
だけど、魔王を攻撃することは平和協定にひびが入る可能性がある。だから国は転生者を生け捕り、殺害したら賞金を出し、駆除を行っている。
「でもアンタは離反せずに国に着いたってわけ?」
「そうだ。お前だって転生者なら、魔王を倒して自分の転生先の設定をしたいって願いがあってきたはずだろ?」
「そんなもん。30年も異世界で生きていたらどうでもよくなるわい。むしろ、赤子に戻って一から全部やり直すより、異世界での生活に楽しさを見出したから転生したくない。つまり魔王を倒す気が削がれたってわけよ」
30年も異世界にいたら、情も移るのは当然か。
「でもね。私も転生者の全部を取り締まってるわけじゃない。それこそ、本当は放っておきたいんだけど。魔王を討伐されると大変なことが起きるのは目に見えてる。だから転生者を取り締まるの。でもね。君はまだ幼い。他の転生者と違って、本当に子ども。だから」
マンガールはスッと手を差し出してくる。
「私と来て。そしたら君は国の保護下に入って安全を確保できる。同じ転生者として、私はお前が他のやつらに狙われるのは忍びない」
手を取ったら、俺は彼女を選んだということになるのだろうか。
選ぶ、と言うからには別の選択肢が存在する。俺は最初から彼女の手を取るつもりはなかった。
「行かないよ。俺はテレサと居る」
俺は答えた。
唐突に護ってあげるから一緒に来いと言われ、自分勝手すぎるだろとも思うし、何より俺にはここに残る理由がある。
「……その答えは知ってた。最初から。最後の最後で考えが変わってくれるって思って誘ったんだけど。やっぱり唐突過ぎたよね」
「そうだな。チェーンソー突き付けられたし、強引だし。だけど何より。俺はテレサに弟子入りしたんだ。マンガール。お前の言う異世界での楽しみができたんだ」
たったの二ヶ月。たったの二ヶ月だが俺はテレサと過ごしてきた日々の密度に胸やけがするほど充実していた。
「レン……」
「マンガール。護ってくれるって言ってくれたのはうれしかったよ。確かに危険かもしれない。それでも、テレサと一緒にいることを選ぶよ」
「それも、わかってた」
マンガールは優しい顔でほほ笑む。
わかっていた。きっとマンガールの持つステータスアイで俺の考えは見通されているのだろう。だったら全部言ってやるさ。
「ちなみに魔王討伐もあきらめたわけじゃない。力をつけて、必ず魔王を倒す」
「……無理だと思うけどね。だったら、その時は捕まえてやるわよ」
マンガールはポンと肩を叩いて俺の横を通ってテレサと横並びになる。
「今回は引いてあげる。けど、この先必ず異世界人って理由で狙ってくる奴が出てくる。お前は、この子を護れる?」
マンガールの問いかけにテレサは表情を変えないまま応えた。
「愚問」
そう一言だけ言い放つ。
マンガールはどこかしら満足げな表情で笑い、俺に視線を向けてくる。
「私の名前は何だ! 流れに流れて流離うストーリーテラーガガガ☆マンガール! この街での公演は今日で仕舞い! 次の機会があれば回転バットの続きを読ませてやろう! さらばだ屑桐煉瓦! どうか、お前の純粋さがそのままであるように」
そう言うとマンガールが崖から飛び降りる。
俺は体がびくっと跳ね、崖から見下ろす。
まさか飛び降り自殺? なんて思っていたらマンガールが飛び上がる。
何で飛び上がったのかと思えばマンガールは箒にまたがって空を飛んでいた。
宙を浮いているマンガールと目が合い、にっこりと微笑みながら手を振って、そのまま飛んで行った。
「言っちゃったな」
「本当にはた迷惑なやつだったわね。にしても私も嬉しかったぞ。私と一緒にいることを選んでくれて。やっと私にデレを見せてくれたの?」
テレサは俺の頭に肘を置いてウリウリと頬を突いてくる。
「勘違いすんなよ。テレサと一緒にいるってだけでテレサと一緒にいたいって言ったわけじゃない。お前には借金もしてるし、別のやつの所に行くわけにいかなかっただけだ」
「ムフフ~。そう。仕方なく一緒にいるのね」
「そうだよ。ええい鬱陶しい! 離れろ!」
「ハイハイ。離れてあげるわよ。じゃあ、帰ろ。私たちの家に」
「……ああ」
異世界に来てまだまだ日は浅い。辛いこともあれば苦しいこと、痛いことだってある。
けど、俺はここにいる。だってここには笑いながら食卓を囲める家があるから。
完




