ガガガ☆マンガール『メリーゴーラウンド』
案内された場所は人通りの多い場所から離れたちょっとした高台にある広場。ここは第四区域じゃないな。
「ここって人があんまり来ないから一人でボーっとするにはいいところなんだよね」
「確かに人はいないし、いちいちこんな遠くまで足を運ぶ必要ないしな」
「だからこそ一人でくつろげる! ヌフフ。さあさあ煉瓦。私の隣に座るんだ。話を聞かせてあげよう」
備え付けのベンチに腰掛けて来い来いと催促され、俺はドカッと隣に座った。
「じゃあ教えてくれよ。話の続きを」
「そうだねぇ……んー。雲が流れてるねぇ。小話をしよう」
「え? 話の続きは?」
「せっかちは損、短気は損気だよ。くもの即興の小話。ご堪能あれ」
当初の目的から脱線、と言うより乗る電車を間違えたレベルで別の話に移行した。
くもの小話ってなんだよ。雲を見てたら思いついたとかそんなのか? それより回転バットの続きを聞かせてほしいもんだ。
俺はマンガールの小話を傾聴する。早く終わって回転バットの続きを聞かせてほしいもんだと思っていたけど。の小話、意外とよくできている。
雲を見てくもの話をするとか言っていたからまんま雲の話かと思ったけど、妙に違和感を感じる。途中で気付いたけど、雲と蜘蛛を上手く絡めてどっちを話しの主題にしているかわからない、ちょっとしたトリックの小話だった。
いつの間にかマンガールの話を真剣に聞き入っていた。そして話も終わる。
「うーん。即興にしては雑だったかな」
「よかったよ。面白かった! マジで即興なのかってくらいよくできてたよ! くもは自由を手にするって辺り空に浮かんでる自由な雲か生き物の自由を奪う蜘蛛かどっちだろうって思った」
「まあ意図してぼかしてたからねぇ。じゃあ次お前の番」
「え? 何の話だよ」
「煉瓦の話だよ。私だけしゃべってちゃ割に合わないかな。創作ってのは事実をもってして誕生することもある。煉瓦の生きてきた足跡を物語として聞かせてほしいかな」
「いや、俺の話って」
俺の生きてきた足跡って、一回死んでるもん。実際異世界に生き返ってまだ二ヶ月だもん。そりゃその二ヶ月で話しにできるようなことも起きたよ。
命狙われて、ポーションショップで働くようになって、いくつかのダンジョンにも行った。
だけど! それ以前の話は無理だ。異世界に転生される以前。つまり日本でのことなんて話せない。この世界は転生した俺にとってそのことを口にするのは自殺行為だ。
「まあ、そのスライムの洞窟ってところに行ったんだけど」
俺はマンガールに話し始める。もちろんここ最近のことだけだ。適当に誇張も入れ、面白おかしくダンジョンでの活躍を話す。
「へぇー色んなところをくるくると回る。まるでメリーゴーラウンド! 煉瓦も思った以上に面白い人生を送ってるんだね」
「今となっては笑える話だよ」
「じゃあダンジョンに行く以前は? それって最近のことでしょ? もっと昔のことを聞かせてよ」
踏み込んできやがった。俺の過去を掘り起こそうとしてきやがった。
「えっと……昔のことは話したくない」
「えーなーんで? つれないなぁ。私と煉瓦の仲だよ。話せよ」
命令口調だ。だけど話さない。
「勘弁してくれ。昔のことは本当に話したくないんだ」
「話したくない、じゃなくて話せないんじゃないの? 話したらマズい過去でもあるんでしょ? なんたってこの街は始まりと終わりの街。むやみやたらと過去を話したら、異世界人だって思われちゃうかもよ」
俺は言葉を吐き出せなかった。
何でそんなことを言うんだ。唐突に、何の前触れもなく、まるで過去を秘匿しているやつは全員異世界人みたいな言い方。
と言うより今俺にそんなことを言うんだ。
「ねぇ煉瓦ぁ。一つ聞きたいんだけど」
「な、何だよ」
「私さっきさ。まるでメリーゴーラウンドって言ったよね。お前は何気なく聞き流したけど、まるでメリーゴーラウンドって言うと皆が皆こう口をするんだ。メリーゴーラウンドって何って。何で煉瓦は聞かなかったの?」
「え、それは……別に理由なんてないし。聞かなかったからダメってわけでもないだろう?」
「もしかして、知ってたから聞かなかったんじゃないの? 知ってるからこそ聞く必要がなかった。そうじゃないの?」
何で俺は冷や汗をかいているんだ。
何でマンガールに追い詰められるように問われているんだ。
何でマンガールは異世界人をあぶりだすようなことを言っているんだ。
何で俺が異世界人だと疑いをかけられているんだ。
ごくりと唾が喉を通る。マズい。この場にいるのはマズいと本能が訴えてくる。
俺は勢いよく立ち上がる。
「ごめんマンガール! 俺ってばお使いの途中だったのすっかり忘れてたよ! 急いで帰らないといけないから続きはまた今度! じゃあな!」
マンガールに背中を向けて俺は早足で歩きだす。振り返らず、急いでこの場から離れようと必死だった。
「『チェーンソー=マサカー』」
ゴキンと嫌な金属音が聞こえた。
マズいマズいマズい! 俺は早歩きから走り出そうとした瞬間、肩に何かが置かれて体の向きを無理やり反転させられる。
そして目に飛び込んだのがあまりにも異世界ファンタジーの世界観をぶち壊すアイテム。普通の工具のはずなのに禍々しい狂気的な恐怖を与えてくる、チェーンソーが空中で振り上げられていた。
「う、うわわっ!」
俺はあまりに突飛過ぎる光景に足を引っかけてその場に尻もちを着いてしまった。
チェーンソーは振り下ろされ石畳の地面に突き刺さる。歯をカタカタ言わせる俺の下にマンガールがゆっくりと歩み寄ってきた。
「大丈夫だよ煉瓦。私は全部知っているから。だけど君の口から本心を言ってくれるだけでいい。そうしたら楽にしてあげる」
「な、何だよ。俺が何だってんだよ」
「言ったでしょ。知ってるって。屑桐煉瓦。お前は異世界人だ」




