ガガガ☆マンガール『流浪のストーリーテラー』
「マンガール! 奇遇だなマンガール!」
声をかけるとそいつは後ろを向きながら手を突き出してきた。
まるで静止しろとでも言ってるかのようなその腕。俺は一応足を止める。
「マンガール? 誰かなそれは?」
「誰って、お前だろマンガール。そんな奇抜な恰好お前以外ねーよ」
「そう、奇抜な恰好をしているからこそ。この恰好だからこそマンガールと認識するなら、ほかならぬ赤の他人がマンガールの真似をし、風評被害を振りまこうとしている。そういう考えには至らないかな」
うわぁめんどくせぇ。そういやこいつ話を面白おかしくこじらせるタイプの人間だった。
しょうがない。悪乗りしてやろう。
「じゃあ、お前は誰なんだ? まさか本当にマンガールじゃないのか?」
「フゥフ。逆に問おう。こんな奇抜な恰好したやつがマンガール以外にあり得るかな?」
「うっわめんどくせぇ! マンガールならとっととこっち向けよ!」
「なんだよ煉瓦面白くないなぁ。もうちょっといい感じにアドリブかましてくれなきゃ。物語はね。いい感じにアレンジを加えるといい時と悪いときがあるかな」
こいつは本当に何を言ってやがる。そう、こいつの考えは本当に読めない。
「仕方ないかな名乗っておこう! そうだ私はマンガール。街を歩きて言葉を紡ぐ。口を開けば物語を吐いて、ペンを持てば物語を書き記す。マンガール。私の名前はガガガ☆マンガール!」
ガガガ☆マンガール。それがこの奇抜なピエロの名前。幼い顔立ちのくせに妙にきりっとした眉毛のせいで大人っぽく見える、そんな女性だ。ちなみに名乗っている名前は芸名だそうだ。
彼女とはテレサと一緒にあいさつ回りをしている時に出会ったんだけど、彼女の職業はストーリーテラー。それもいろんな街を転々とする流浪のストーリーテラーらしい。
実際に俺も読み聞かせの場にいたし、思った以上に独創的な物語だった。
そして何より驚いたのが、読み聞かせだけではなく小説のような本を書いて配布しているだけでなく、絵と吹き出しを使った読み物。つまり漫画まで描いており、この世界における吹き出しの物語のパイオニアとも言われているらしい。
小説も興味があったが何より漫画に興味があった俺は近所の子供から漫画を借りて三巻まで読んでいる。内容もこれまた異世界の物とは思えない出来で仮面をかぶった義賊が夜の街を駆けまわり悪い奴らを成敗するという勧善懲悪の物語。シンプルな内容ながら絵で読ませて来る物語は読んでいて胸が躍った。
「マンガールは知ってる。それよりお前、暇してんの?」
「んーそうだねぇ。ほら、あれ見てみ」
「ん?」
指さした方向を見てみる。
んー? 痴話げんかをしているカップルか? 往来の道中で随分といきり立っている女性と随分とバツの悪そうな男。
「あそこにさぁ。私が割って入ったらどうなるか……気になってしょうがないかな」
「割ってって、やめとけよ。余計こじらせそうだぞお前だと」
「そうかな。大丈夫。誰よその女! って言って声をかけるだけだから」
「それこそ……勝手にしていいよ。俺はここで見てるから」
「うむ。では行ってこよう」
意気揚々と二人組に向かっていった。
なんか、見ていて面白いかもしれないけど行かせたことに罪悪感があるのも否めない。
止めときゃよかった。
あぁ、二人組に話しかけた……ん? 二人がマンガールの話を聞いている……何故か二人がいきなり抱き合ったぞ。
「ただいま~」
「何あれ?」
「場を和ませる即興の小話をしたんだけど。どうにも感動したらしくて関係修復しちゃった♪ いや~我ながら自分の才能が怖いわー」
即興の小話で喧嘩してた二人を仲直りさせるって、格好も含めて本当に漫画みたいなやつだな。
「で、結局暇なの?」
「どうかな~。ストリーテラーは暇でも仕事してるし仕事してても暇だしな~」
「じゃあさ、回転バットの続きない? 知り合いから三巻まで借りて読んだんだけど四巻以降が無くてさ。あるの?」
「あぁあれ。あれはなぁ。そんなに描かないしなぁ。三巻自体描いたのがだいぶ前かな。正直量産するの面倒だし」
確かに、俺が本を借りた本人もほとんど出回っていないというか刊行が遅いとかは言っていた。
「じゃあさ。なんか。今後の展開とかは考えてないの? 俺にだけ教えてよ。暇なんだろ? いいだろ~」
「うーん……そうだねぇ……あ!」
「何? 教えてくれるのって、おい。どこ行くんだよ」
マンガールは唐突に走り出し、一つの露店に向かった。店員さんにあれこれ言って何かを受け取り、戻ってくる。
「いやぁから揚げはおいしいねぇ。唐突に食べたくなっちゃったよ」
「話の途中でから揚げって」
「話の続きを教えてほしいって? いいよ。ほら、ちょっと休めるところでゆっくりしながら話してあげる」
ちょいちょいと手招きをしながらマンガールは歩きだす。
この年齢不詳のど派手なピエロと並んで歩くのはかなりの注目を浴びるだろう。
だけどそれ以上に、漫画の続きが気になる。その続きを教えてくれると言ったので俺は喜々として並んで一緒に歩いた。




