ケミカルモンスター『ガラブレシア』9
「さっきよりでけぇ!」
「ヤバいッスよ! 何とかしないと!」
「何とかって言われても、トングは弾かれて向こうにあるし。来るな、こっちに来るなー!」
巨大なアブラムシが顎を開けて襲い掛かってきた瞬間真っ二つになる。そして爆発と共に空間に飲み込まれていった。
アブラムシが消滅したその奥。グリムリーパーを肩に据えて余裕な様子のテレサが立っていた。
「テレサ! た、助かったァ……」
緊張が一気に解け、俺は膝に手を置いて力を抜いた。
「姉御ォ! 来てくれたんスか!」
「何よルーフィ。レンの胸ポケットに入っちゃって。仲良しになったの?」
「違うッスよ! こいつがふがいないから助けてあげたら飛べなくなっただけッス!」
「助けた? レンはどうしてたの?」
「どうして他も何も、アブラムシに襲われて大変だったんだぞ! 一匹倒すだけでものすごい疲れるし、何だよあのトング! 取り扱いぐらい教えよや!」
「一匹倒したんだ。そうなのルーフィ」
「まあ、一応倒したッスね」
「そう」
テレサが優しい表情になりこっちに歩いてくる。そしていつものように俺の頭を撫でてきた。
「頑張ったねレン。えらいぞ。お姉ちゃんは誇らしい」
「いや、別にテレサに褒められたくて倒したわけじゃないし。ただ、やるときはやるってことを証明したかっただけで。危ないテレサ!」
俺はテレサに飛びかかって思いっきり地面に倒れ込む。
テレサが笑顔で俺の頭を撫でていた、その油断した瞬間。森の奥からアブラムシが飛び出してきた。
咄嗟にテレサを抱えて避け、また向かってくるアブラムシをどうにかしようとするけど、トングは向うだし。
「テレサ。グリムリーパーを借りるって重っ! 何じゃこりゃ! おんもぉお!」
この鎌重すぎる! 運動部に所属してた俺が両手で持っても少ししか持ち上がらない。こんな物をテレサはうちわみたいに振り回してたなんて!
「ちょっとレン! 来たッスよ! アブラムシー!」
「わかってるよ。わかってるけど! わ゛ーッ!」
グリムリーパーを持ち上げられないまま叫び声をあげ、咄嗟に目を閉じる。
でも、アブラムシが襲ってこない? ちらりと目を開けるとテレサが俺の前に立って、アブラムシの頭を鷲掴んで。
掴まれたアブラムシは逃げようと必死に暴れているがテレサがジャングル・バッグから大振りのナイフを取り出し丁度首の部分に斬り付け頭と胴体の二つに割いた。
ボトンと地面に落ちた体にナイフを突き立て、手に持ったアブラムシの頭をナイフの傍に投げ捨てる。
フェイタリティ。今までのテレサのイメージを覆すような光景に俺は言葉を失った。
そんな俺にテレサはまた頭を撫でてくる。
「助けようとしてくれたんだね。ありがとう」
「あ、いや。別にテレサが危ないとかじゃなくて」
「うんうん。でもうれしかったよ。じゃあ行こうか」
「行くって、どこに?」
「ガラブレシアの所によ。アブラムシの親玉のでっかいのは退治したし、他のやつらは四散するはずよ。それに私たちがレプシャロ・フォーレに来た理由は覚えてるでしょ」
テレサと共にまたしても森の奥へと進み、先ほどまでたむろしていたアブラムシたちがきれいさっぱりいなくなっていて巨大な植物が取り残されている。
「あの、ガラブレシアだよなアレ。元気なさそうだけど」
「そうね。さっきまでアブラムシに養分吸われてたし。ルーフィ。起こしてきて」
「わかったッス。リリフィー。起きる時間ッスよー」
飛んで行ったルーフィの呼びかけに応えるようにガラブレシアの閉じていた花弁が開かれくっさ! 何だこの匂い!? たまらず鼻を塞いでしまった。
花弁を広げて姿を露わにしたガラブレシアだけどあのデザイン、植物じゃない。完全に怪獣だあれ!
「首の先にワニみたいな口があるし、手みたいな幹は生えてるし怖いなあいつ。しかも臭い。ん? テレサ! 待っていかないで!」
テレサがガラブレシアに向かって歩いていくので俺も付いていく。
ここまで来て危険とか危ないとかは言わないけど、ガラブレシアの近くに行くのは正直気が引けるぞ。
「よかったッスねぇリリフィー。アブラムシがいなくなって」
「久しぶりリリフィー。ちょっと、くすぐったいわよ」
このガラブレシア、リリフィーと名付けられているらしく妙に二人になついている。植物と言う割には蔓を伸ばしてテレサにすり寄ってやがる。
「レンもほら。来なさいよ。リリフィー。この子もアブラムシを退治してくれたのよ」
「でも、俺が行っても大丈夫? テレサやルーフィだからこそ大丈夫とじゃないよな?」
「大丈夫よ。リリフィーだって恩人には優しくするわよ。ほらほら。こっちこっち」
「手を引っ張んないでって。行くから行くから! もう……どうもリリフィー。屑桐煉瓦だよー」
意味があるかわからない挨拶をしてガラブレシアの蔦の所に行く。
蔓はまるで俺を吟味するように周りをフヨフヨする。
ゴクリ。俺は生唾を飲むと蔓が俺の手に絡みついて来た。締め付けるわけでもなく、優しくすり寄るように蔓を俺の手に絡ませて、まるでじゃれているかのようだった。
「どうやらリリフィーはアンタと仲良くしたい見たいッスね」
「あ、ハハハ。案外、カワイイんだな」
不思議と匂いも気にならなくなってきた。慣れたのかな?
びくびくしながらも俺も蔓を触り返すと一斉に蔓たちが重なり合って一本の丸太になった。
何だ? 寵愛行動か? すると重なり合った蔓の先っぽからからホロリと雫が落ちそうになる。
「レン。これ、これ使ってそれを取って!」
「フラスコ? もしかしてポーションの素材か?」
「それが私たちが求めた素材『ガラブレシアの蜜』よ」
これがガラブレシアの蜜。透明感のある、重厚な液体。ガラブレシアの匂いを臭いと思ってたけどその匂いが一瞬のうちにかき消されるような甘い香りが鼻を通る。
俺は手渡されたフラスコに蜜をいれる。既に入っていた液体と蜜が混ざり合い、淡いオレンジ色に変色した。
「完成。それがストレグランスポーション! フレグランスポーションなんか足元にも及ばない香り。香りを楽しむポーションの最高峰よ! さあレン。グイッと飲んじゃいなさい」
「じゃあ、イタダキマス!」
俺はフラスコに口を当て一気に飲み干す。
ストレグランスポーション。のどを通るたびに強い刺激が鼻を駆け抜ける。刺激的だけど、一瞬で楽園へといざなわれる気分になる香りを一口ごとに感じ、俺は飲み干した。
「かはっ! 凄い。凄いよテレサ! こんなの、味わったことがない!」
「最高級の香りだからね。よし、リリフィー。このまま蜜を一杯頂戴ね」
アブラムシの討伐を終え、俺はテレサとルーフィと共にガラブレシアから取れる最高の蜜を集める。
クエスト『アブラムシの討伐』完了。




