ケミカルモンスター『ガラブレシア』5
「ポーションの素材を取りに来ただけなら私に会いにくる必要もないでしょう。私に何か話があるんですか?」
「何よ? 立ち寄ったのに挨拶もしないで森を物色する程不躾には育ってないわよ」
「以前はルーフィ伝いで来ていたと聞かされただけで挨拶もありませんでしたけどね」
「そうだったかしら。忘れたわね」
なんか。歯に布着せぬ物言いと言うか、ずいぶん尖った言葉の応酬だ。
仲が悪い……と言うのではないだろうけど。いつものテレサとは比べ物にならないほど攻撃的だ。
「まあアンタに頼みごとがあるのは事実なんだけどね。聞いてくれるかしら」
「……聞きましょう」
「率直に言うわ。この子に森に入る許可が欲しいの」
ポンと肩を叩かれ、テレサは言い放った。
何か、おかしくない?
「すでにファストフォレストの最上階まで足を踏み入れているのに今更森に入る許可が欲しい、ですか。順序がめちゃくちゃですね」
「ですよね。僕って元来ここにいちゃいけない人間なんですよね」
「ここまで連れてきたのは大目に見て。この子がヴァルハライズの従業員である以上、今後一人でレプシャロ・フォーレに素材を取りに行ってもらうことも考えてるの」
「俺を……ここに一人で来させるのか?」
「そうよ。店番だけやらせるのは店の損害と割に合わないからね。大丈夫。何回かは一緒に行くし全部一から教えるし、ルーフィもお供につけるから心配することはないわよ」
「え? 自分がッスか!?」
そりゃあ500万の借金を背負っているんだ。のほほんと室内仕事をしているだけじゃ言葉通り割に合わないのだろう。
お使いにしろ、調達にしろ、色々と仕事をこなしてやっと返済できるというのもわかる。
「だけど、リーファは人間のことが嫌いなんだろう。許可をもらえるとは思えないけど」
「それはティターニティの御心次第よ。ティターニティ。私のお願いを聞いてくれる?」
テレサのお願いにティターニティは黙っていた。
だってリーファは人間のことを嫌っているのだろう? テレサは超例外的に皆から好かれているようだけど。そんなテレサのお願いとは言え妖精の長がそうやすやすと許可を出すわけにもいかないだろう。
「残念ながらアナタのお願いとは言えおいそれと聞き入れるわけにはいきません」
やっぱり。溝ってのは簡単には埋まらないもんだよ。
「そうッスよ! 姉御は皆の恩人ッスがこいつはただ紹介されただけで皆の信用も何も無いッス! 第一ティターニティの目の前まで来させること自体おこがましいッス! ティターニティ。許可を出すならこいつを魔法で追っ払っても、」
「ルーフィ」
「なんスか姉御。自分は今から」
「レンを傷付けたら……痛いよ」
さらりとごく自然に脅迫をかますテレサ。周りのリーファたちもざわついて構えているじゃないか。
もちろん言われたルーフィは歯をカタカタ言わせて羽をしょんぼりとしていた。
「や、やだなぁ姉御ォ。冗談ッスよ」
「でもルーフィの言うことも一理あるだろ。俺は今日初めてここに来たんだ。信用も信頼もないのに妖精たちの住処を歩くのは俺も気が引けるぞ」
「確かに、ルーフィの言う通り信用がないのは事実。じゃあこの子が信用に足りる行動を示したら親愛の証をくれるかしら」
「……何をしてくれるというのかしら」
「さっき言ったわよね。平和ってのは何をもって平和とするかって。何か困ってることがあるんじゃない? それをこの子が解決してみせるわ」
ま、待て。何を言っているんだ。
困っていることを俺が解決する。そんな無責任な。いきなり妖精の問題を解決しろだなんて、第一そう都合よく困りごとがあるなんて。
「テレサは、本当に来てほしい時に来てくれて助かります。少々困ったことがあるのは事実です」
あったよ。
「内容は?」
「ご存知だと思いますが、森の北に生息するガラブレシアにアブラムシの群れが纏わりついていまして、私たちじゃあどうすることもできないんです」
「ガラブレシアって、取りに来たポーションの素材だよな」
「どうやら面白いタイミングで来ちゃったみたいね。確かにアブラムシ相手じゃリーファには荷が重いわね。うん。ティターニティ。そのアブラムシ。私とこの子で取り除いてあげるわ。代わりにと言っちゃなんだけど、成功の暁にはレンに親愛の証、リーファスシンボルをあげてほしいの」
「随分と、一方的な物いいですね。こっちが依頼をするのではなくその内容で依頼しろと言うのですか」
向こうは何も言っていないのに勝手に話をするめているのは確かだ。大丈夫なのかテレサのやつ。
「ガラブレシアの問題の解決法はこれ以上に無いものだと思わない? あなたたちリーファはアブラムシのせいでガラブレシアの恩恵を受けられずにいる。私はリーファたちにレンを認めてもらいたい。レンと私はそのためにアブラムシの討伐をする。Win-Winだと思うんだけど。逆に私の申し出を断ったらガラブレシアのアブラムシは取り除けない。ティターニティはリーファたちの長としてどんな判断を下すかしら」
すらすらと饒舌に、テレサはティターニティを煽るように言った。
テレサの言う通り、リーファたちがそのアブラムシとやらに困っているなら放っておくというのは良心の呵責を感じる。
それにテレサは俺のために無理をお願いしているんだ。そりゃあ別に俺が駄々をこねているとかどうしてもお近づきになりたいなんて言ってないけど、テレサのお願いする姿を……傲慢なお願いだな。
「えっと、困っていることがあるんなら俺にできることがあるなら手伝います。怖いけど。だからテレサ。あんまり上からの物言いはやめといた方がいいぞ」
「そう。いつものことだから。で、答えを聞かせてティターニティ」
「……いいでしょう。もしあなた方二人がアブラムシを駆除してくれるのならレンにリーファスシンボルを授けましょう」
ティターニティがテレサの要求を飲むと同時に周りのリーファたちがティターニティに詰め寄る。
そんなことを簡単に決めていいのか。テレズス様のことだって例外中の例外。もっと熟考すべきではと言った意見が飛び交った。
「ほかならぬテレサの頼みです。何より、ここで無下に突っ張ったところでレンを一人で森に遣わせなくなるかわりにテレサは彼を引き連れて森に来るのが目に見えます」
「その通り。どっちにしろ今後この子と一緒に素材を取りに来るつもりでいるからね」
こいつ……むちゃくちゃだ。
完全なる不平等な取引。こっちにそんなことが一つもないじゃないか。俺はテレサ側だけど、リーファ側はもうちょっとこいつの横柄に声を荒げてもいいんじゃないか。
「テレサ。向こう困ってるみたいなんだけど」
「大丈夫。確かにリーファたちは君を信用していない。だけどそれは勝ち取ればいい。きっちり働きなさいよ。期待してるわよ」
とんと背中を叩かれる。
兎に角一方的な押し付けだったけど、異世界に来て初めてのクエストの受注だった。




