ケミカルモンスター『ガラブレシア』4
「まあま、信頼なんてもんは最初からある物じゃないから。これからよこれから」
「と言っても自分たちリーファがそうやすやすと人間を受け入れることなんて無いッスから高望みはしない事ッスね。姉御は別ッスけどね! 姉御~。こっそり自分をさらって連れだしてほしいッス~」
「アハハ。だめ」
俺のいない会話で慰めたりきついこと言ったりしやがって。
ファストフォレスト。リーファたちが住まう大樹の名前だそうだ。
たった一本で一つの森を形成するかのような壮大さからそう名付けられたらしく、圧倒的な存在感で佇むそれはもはや一つの建造物とも言えた。
俺たちはその中を歩いている。
本当にこの大樹はデカい。中を適度にくり抜かれてリーファたちの住み易い住居と化している。
扉もあればリフトもあって、自然と人工が同居したむき出しのログハウスだ。
「にしてもこの大樹に入ってからなんか妙な違和感があるんだよなぁ。何でかなぁ」
「それは何ででスかねちんちくりん」
「ちんちくりんって、お前の方がちんちく……」
さっきから俺より小さいナリでちんちくりんちんちくりんと連呼しまくるルーフィに堪忍袋の限界と詰め寄ろうとしたら、どうにもサイズがおかしい気がする。さっきまで手のひらサイズだったのにいつの間にか倍ぐらいデカくなっている。
俺はぐしぐしと目をこする。おかしいな。遠近法が狂ったのか。
だけど景色は変わらず。
「……成長期?」
「言っとくッスけどサイズが変わったのはアンタッスからね」
「サイズが変わった? ん? よく見てみると入った扉がデカくなってる!」
「ファストフォレストに人間が入るとティターニティと同じサイズになる魔法が掛けられてるのよ。実質私専用の仕掛けだけど」
ということは俺のサイズが元の半分ぐらいになっているってことか。
気付かないうちにサイズが小さくなっている。不思議の国に迷い込んだアリスの気分だ。
しかし小さくなる魔法か。ここに人間がほとんど来ない以上テレサの言う通りこの仕掛けはテレサのために作られたものなのだろう。
「テレサはデカいからなぁ。リーファのサイズに合わせてたら階段も登れないもんな」
「ちなみにリーファは基本飛んで移動するからこの階段も私のために用意されたのよ。飛ぼうと思えば私も飛べるんだけど、リーファの皆がせっかく用意してくれたから使ってるの」
こいつどこまで優遇されているんだ。
妖精の住居にテレサ専用の足場。テレサをリーファのサイズに合わせるための仕掛け。リーファたちに対してどれほどの恩を売ったらここまでの好待遇を受けることができるのか。
「ほらほら、どんどん階段を上った上った。そんなんじゃ最上階に着くまでに日が暮れちゃうわよ」
「うるしぇー……ちぇめーのペースが速いんだよ」
とりあえず階段をのぼり上の階層へと向かう。
外から見てもビル並みに高かったのに身長が半分になったってことは高さも倍になってるってことだ。ただでさえ壁に取り付けてある手すりのないむき出しの階段で精神的にまいっているのにこの高さを上りきるとなると相当な労力だ。
「山登りと変わらんやんけほんとに」
「アンタ本当に文句ばっかッスね。そんなに疲れるなら体力付けるべきッスよ」
「体力には自信がある方だ。それに飛べるお前には言われたくないわ! だいたいなんだその後輩口調は! 俺の後輩になりやがれ!」
「ちょ、捕まえようとしないでほしいッス!」
飛び回るルーフィを捕まえようと手を伸ばしては引っ込めてまた伸ばす。
「レン。あんまり暴れまわってる足元滑って落ちちゃうわよ。支えもないんだから気を付けなきゃ」
「はん。圧倒的バランス感覚を持つ俺がそう簡単に足を滑らすわけないだろぉ! ッチ。捕まらないな。今回はこれくらいにしといてやる」
「まあ地を這う人間なんぞに捕まってたまるもんですかってね」
階段を上っていき、日が暮れる前に昇りきった。と言うより日が入らないのでくれたかどうかもわからないが。
階段を上った先。そこはここが木の中であることを忘れる程の開かれた空間。足場は木の断面をそのままに。年輪が渦を巻いている。
この造りはファンタジー。お城の中の王様が据わる謁見の間を思わせる。
そして何より広間の最奥に一人の女性が座していた。
綺麗な召し物と煌びやかな宝石を身に付けた、俺より幾分か小さい体躯。長くて薄い赤色の美しい直刃を思わせる髪の毛。まるですべてを受け入れてくれそうなようなその優しい物腰。
座っているその位置と一目の雰囲気からわかる。あの人がリーファたちの長と言える人。テレサとルーフィがたびたび口にしていたティターニティって人だ。
今まで見た妖精とは違う雰囲気に俺は少し見惚れてしまった。
「にしてもここは本当に天井が低いわね」
ずかずかとテレサが前に進んでいく。いいのか? 他の従者っぽいリーファたちが睨んでるけどこんなざっくばらんな態度で。
俺は低姿勢でテレサに着いて行く。
「久しぶりですねテレサ。唐突な来訪はアナタらしいと言いますか。貴方がこの森に来るということはポーションの素材集めに来たのですか」
「その通りよ。そっちこそ、私がいない間に変なことは起きてないの? 平和だった? ティターニティ」
「平和と言うには何をもって平和とするかですよ。そちらの方がヴァルハライズに新しく迎え入れたと聞く少年ですか?」
声をかけられた。無駄に緊張してきた。だけどこっちを気にしているということは挨拶ぐらいした方がいいだろうな。うん。
「初めまして! 屑桐煉瓦です! えっと……テレサの店で奴隷してます!」
パカンと小気味のいい音が響く。
「うぉお……! あ、頭が……!」
「君は初対面の人にあらぬ誤解を招くことを言ってるのかな!? ティターニティ。冗談だからね」
「フフフ。テレサは年少者への愛が深いとは存じていましたが、そこまでこじらせていたとは知りませんでした」
「奴隷は違うから! この子はカワイイ弟だから! 頬っぺたプニプニで目に入れてもいたくないカワイイ私の弟。ねーレン」
いつものように頭を抱きしめてくる。
どっちにしろ自分から全面的に性癖を露呈してるじゃないか。
心なしか、ティターニティの笑みが優しい気がしてならなかった。




