ケミカルモンスター『ガラブレシア』3
森の中を順調に進んでいく。
俺はと言うと楽しそうに話しかけまくってるルーフィとそれをのらりくらりと笑顔で傾聴するテレサを後ろから睨み付けていた。
別に仲良くしているのがうらやましいとかじゃない。ただ、妖精ってのはもっとお淑やか……じゃなくてもっとかわいらしいものなんじゃないかと想像していた。
別にかわいくないわけじゃないよ。そりゃあ小っちゃくて、それこそ妖精然とした姿をしてるよ。羽も生やしてるし。
だけどね。口調がかわいくない。
○○ッスってどこの運動部の後輩だよ。俺が所属してた部活の後輩だよ。もっと妖精らしい口調になれよ。
妖精らしい口調がどんなのかはわかんないけどもっと妖精らしい行動しろよお転婆過ぎんだろ。いや、ティンカーベルもお転婆だったな。
「ん? なんスかお子様。自分のことジロジロ見て。やらしいッスな」
「お前はしゃべらんといてくらはい。夢がぶち壊れるんスですオス」
「何の夢かは知らんスけど、夢は現実じゃないんスよ」
チクショー。当たり前のことを当たり前に言いやがって。
あぁ。俺も違う異世界を選んでいたらこんな妖精をバディに冒険に出ていたかもしれないな。もちろん○○ッスなんて口調じゃない奴と。
「にしても姉御ォ。こーんなやつをヴァルハライズの一員に迎え入れたとか? 狂気の沙汰っスよ!」
「言ってくれるわねルーフィ。私は今とっても充実してるのよ。この子が毎日私の作る料理やポーションを美味しい美味しいって食べてくれるのよ。もう感動感激雨霰。可愛いしね」
「やめて。当たり前のように抱きつかないで。頭に胸があたってるから……ほら! ルーフィが! ルーフィがすごい形相で俺のこと睨み付けてるよ! ちょっと、テレサ! テレズース!」
「ぐぎぎ……姉御に寵愛されて……! 許すまじ許すまじっス」
本当に嫌われてるな。ここは愛想笑いだ。当たり障りのないようにだ。
「えっと、テレサ。俺たちは今どこに向かってるんだ?」
「リーファスソーンよ。この子たちの家でもある巨大な大樹の茨木。見たらびっくりするわよ。楽しみにしときなさい」
茨城、茨木? 地名か? 日本的な地名。まあ言葉の通り茨の木なんだろうけど。
「ちょっと待って姉御! 姉御はともかく、そいつをリーファスソーンに連れて行くのはダメっスよ! ティターニティが黙ってないって!」
「だったら好きに存分にしゃべらせたらいい。私を誰だと思ってるのルーフィ。私はテレズス・テスタロッサよ。黙ってないって言うなら有無なくしゃべらせて全部口の中に突っ込んで噛み砕いて飲み込んでやる。私が妖精王程度を相手に屈すると思ってるの?」
言い放った。有無を言わなないのでなく、有無なくしゃべらせるなんて言葉は初めて聞いた。
ティターニティって、ティタニアルみたいな物か? 大物じゃないか!
それにしても大丈夫なのか?
いや、何を心配しているんだ。俺はブンブンと首を横に振る。
不安がってどうする。何でテレサを信用できない。今まで何を見てきた。
俺の知っているテレサは人の木も知らないでベタベタしてきて、ロリショタをこじらせた変態で、無駄に優しくて、頼りになって……良い部分と悪い部分がごっちゃだな。
「姉御……なんて堂に入ったセリフを……! カッコイイッス」
「まあ、テレサならきっと何とかするよな。うん。俺は信じてるよ」
「レン。他人事みたいに言ってるけど君の問題なんだからね」
「俺?」
「言ったでしょ。リーファは侵入者、特に人間を森に近づけないために結界を張ってるって。私は特別に許可をもらってるけど、本当は君を連れてきちゃいけないのよ」
じゃあ、つまり俺は招かれざる客ってことか。それを先に言って欲しかった……けどそれっぽいことは確かに言っていたな。
「その……リーファスソーンってところに行った瞬間に石投げられるとかそんなことされないよな」
「それは大丈夫でしょ。蛇蝎のように嫌われるかもだけど」
「……」
しかしリーファスソーン。妖精の家。蛇蝎のように嫌われるとは言え妖精たちの集落だろ? 楽しみだなぁ。こう、泉のほとりをチロチロと跳び回りながら羽休めで葉っぱに腰掛けてキラキラとまばゆい笑顔でお話をしている情景。
「妖精……妖精……ウフフ」
「うっわきっもい顔してッスなこの人」
「男の子にはこういう所は往々にしてあるのよ。ちなみにあなたもこういう顔してる時あるわよ」
「まじッスか」
そのあとも森を順調に進んでいく。
無敵感のあるテレサと森の住人であるルーフィが一緒である以上特に困難に阻まれるとかアクシデントに見舞われるとかもなく本当に面白みもなく進んでいく。
何かあったとしたら途中でおいしい木の実と言っていくつか食べたくらいか。野生でなっている木の実をその場で食べるなんて経験は意外と無いもんだ。
「さぁて到着っス。リーファスソーン。我らが宿木に」
森を抜けた先。中央に巨大な木が立ち聳えるちょっとした空間に出た。一目見て巨大な木に絡まった茨が目につく。
「茨木ってのはあれか。まるであの大樹に寄生してるみたいだな」
「みたいじゃなくてしてるんスよ」
「カーテンフィグツリーと似た性質でリーファがあの大樹に寄生させて大樹の栄養を吸い取ってるのよ。栄養を吸った茨に穴を開けて中で妖精は生活する。いわば共生関係ね」
つまり……あの大樹は妖精と茨に寄生されて骨の髄までしゃぶらされてるってことね。生きるためとはいえ恐ろしいなぁ。
「皆ー! 姉御が来たっスよー!」
リーファが大声で叫びながら大樹へと飛んでいった。
「行っちゃった。どうすんだ今から」
「もちろんティターニティに君のことを話しに行くんだけど。あ、来た」
テレサの差した方向を見てみると大樹に絡みついた茨からまるで漏れ出す水のようにズアーっと羽音を立てて無数の影がこちらに飛んできた。
なんだ!? 俺は目を疑った。あれ全部……妖精だ。リーファの群れだ。
そして瞬く間にテレサはリーファたちに囲まれた。
「久しぶりテレサさん!」
「来ていただいて光栄感激!」
「テレサー。新作のポーションはー」
皆が皆テレサを歓迎し、まるで音の波のように、これでもかという程に話しかけられていた。
「うん。皆久しぶりね。お土産にエリクサルポーション持ってきたから皆で分けてね」
ウエストバッグからいつもの様にフラスコを取り出す。
妖精に慕われているのはすごいとは思ったけど、この大軍を目にするとまるでミツバチ。妖精のありがたみも失せるな。
「テレサ。一緒に来たこの人は誰?」
「その子は私の店の新人よ。ほらレン。自己紹介自己紹介」
「ど、ども。屑桐レ」
「ギャー人間だー!」
「テレサ以外の人間だー!」
自己紹介の最中、リーファたちはまるでゴキブリを見たかのごとく散り散りになりルーフィ以外茨へと戻っていった。
「……」
「蛇蝎のように嫌われたわね」
「まあ仕方ないッスけどね」
「ち、チクショー!」
悔しさを声にして叫びながら、俺は妖精の家にたどり着いた。




