ケミカルモンスター『ガラブレシア』2
「レプシャロ・フォーレはダンジョンの中でもかなり難しいダンジョンって言われているのよ」
「うえぇ!? 難しいダンジョンって、俺まだスライムの洞窟とシミズクの源泉しか行ったことないけど、いきなり難しいダンジョンに行っても大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。ここの難しい理由って兎に角入るのが難しいことだから」
入るのが難しい? どういうことだ?
俺たちは今森の入り口に向かって歩いている。だけどテレサの言う難しいなんて要素は一切なく、別段困ったことは起きていないのだけど。
「この森にはね。妖精が住んでいるのよ」
「妖精? 妖精ってちっさくて、羽が生えてて、カワイらしい感じの?」
「そう。妖精は強い魔力を持っているけど、小さくて肉体的には弱い存在だから、自分たちを護るための番人を配置した」
「番人? ん?」
森の入り口に足を踏み入れようとした直後、周りの木々がアーチを作り、行く手を阻むように壁を作った。
流動しながら絡み合う木々はまるで動物、蛇のごとくゴリゴリとうねりながら動き、堅牢な城壁ともいえる巨大なオブジェへと変化する。
それはやがて手を作り足を作り、巨大な木の番人として形を成した。
「これが、番人か」
「妖精は森に結界を張って、侵入者を撃退するんじゃなくて侵入自体をできないようにした。あの子たちは社会性がないからねぇ」
いや、妖精に人間の求める社会を望むなよ。
にしても番人か。この木の番人のデザイン。強面でいかにも近寄るなと言わんばかりだ。
妖精たちにはきっと色々あったんだろうな。なんか、誘拐されて悪用されたとか。見世物小屋に突っ込まれたとか。きっとに心の汚い人間たちを遠ざけるためにこんな壁を作っているんだろうなぁ。
じゃないとこんなにも人を遠ざけたりはしないもんな。
「妖精には会ってみたい。あからさまにファンタジーだし。ちょっとロマンチックな感じがするし」
「中に入ったらいやでも見れるよ」
「でもこんな壁作られちゃ中に入れないぞ。一本一本伐採するわけじゃないんだろう?」
「そりゃアもちのろん。私は何回もここに来てるのよ。許可はもらってる」
そう言ってテレサは木の壁に歩いていく。
許可はもらっていると言ったんだ。あいつが誰に許可をもらっているかは知らないけど、テレサがそう言うなら心配することもないだろう。
壁の前で立ち止まったテレサはおもむろに四次元空間と化しているウエストバッグから何やら取り出した。位置的に何を取り出したかはわからないけど、それをおもむろに壁へと押し当てる。
すると木の壁がざざーっと音を立てて、ビデオの巻き戻しを見ているように取り除かれた。
木が避けて、まるで道を作るように。
「許可……もらってるんだな」
許可を持っているテレサの後について、俺たちは足を踏み入れる。妖精の森へ。
-レプシャロ・フォーレ-
とりあえず今のところ順調に森の中を進んでいた。
でも言えるのはとにかく足がかゆい、というより森に来るのに何で俺は半ズボンでいるんだ。機能性最悪だ。
「なあテレサ。許可もらってるって、誰からもらってるんだよ。ていうかさっきの木の道。あれ完全に何かしただろ。カバンから何か取り出してたし、何したんだ」
「これよ」
テレサに見せられたそれは、輪っかにはめられた小さな石のようなアクセサリーだった。
「へー。無骨に見えてかわいらしいな。テレサがこんなの持ってるなんてな」
「これは贈り物よ。レプシャロ・フォーレに入るための許可証でもある。私は妖精と友達なのよ」
「妖精と友達って、この森に住んでる妖精か。侵入者を遠ざけるためにあんな大掛かりな仕掛けをしてるやつらと友達……一体いつそんなの」
変な音が聞こえた。
風邪を切る音。耳にチクっと刺さる音。
俺はちらりと周りを確認する。何もない……木が生い茂っているだけだ。と言うより、ただの風切り音なんて大したことないじゃないか。
ここはジャングル。耳を澄まさずともギャーギャーと変な音は聞こえている。
どうせ気になった音もそこら辺の雑音……。
「あー……」
「ん?」
「ねごー!!!!!!」
「どぶぁっはぁ!?」
右頬に鈍痛! 何か、石か何かでもぶつけられたような痛烈な痛みに俺は顔を思いっきり横に薙いではよろよろと身体を横へとスライドさせる。
なんだ? 何が起きたんだ。と言うより姉御とか言う言葉。誰だ? いや、姉御と呼ぶからにはおそらくテレサのこと。
俺はテレサを見る。
するとさっきまで景色に無かったものが増えていた。
「姉御ー久しぶりッスね! 会いたかったッス!」
「久しぶりねルーフィ。相変わらずお転婆ね」
「いやぁ姉御には敵わないッスなー」
テレサの目の前に浮かぶ物体。手程の小さな体躯。チロチロと小さな羽をはばたかせているそれはまさしく想像していた通りの妖精の姿だった。
長い髪に細い体。草木で編まれた緑の服。見た感じ女の子の妖精のようだ。
これが俺たちの世界でもファンタジー世界の代名詞とも言える妖精。まさに想像通りじゃないか。
「スッゲェ。妖精だ。ちょっと、感激だなぁ」
何となく妖精に触れようと手を伸ばすと、妖精は鬼のような形相で口をあんぐり開いては俺の人差し指に噛みついた。
「イッタァ! 何だこいつ!? 噛みやがったぞ!」
「姉御! なんスかこのちんちくりんは! 何で姉御と一緒に歩いていたんスか!?」
「この子はウチの新しい従業員よ。ほら、あいさつしなさいレン」
「何なんだよこいつは! 俺の指を噛みやがったんだぞ! 危険じゃないのか?」
「危険って、だったらまずルーフィから挨拶して」
「こんなちんちくりんにッスか?」
何だこの妖精。愛想悪いな。
それとお前の方がちんちくりんだろうと言ってやりたい。
「仕方ないッスね。姉御の頼みとあらば自己紹介をいたしまッス。自分はルーフィ。レプシャロ・フォーレに住むリーファッス。覚えなくていいッスよ」
「リーファ? それが妖精の名前か」
「そう。リーファはこの森を住処として様々な恩恵を授かっては与えている森の精。この子も将来はレプシャロ・フォーレを支える一人になるんだけど」
「嫌ッスよ! 自分、テレサの姉御に着いて行くッス! 何で連れて行ってくれないんスか!」
「アナタはこの森を守るって使命があるのよ。おいそれと外に出すわけにはいかないでしょ」
「そんなの知らないッス! 自分は姉御と世界を旅するんス!」
「別に世界を旅してはいないんだけどね」
どうにもこのルーフィと言う妖精、テレサにいたく懐いているようだ。
自分は外の世界を旅したいと言っている辺り、田舎の学生が上京したいと言っている遊び盛りの子供って感じだ。
生意気ながらも自己紹介をしたんだ。俺も自己紹介をすべきだな」
「えっと、俺は屑桐煉瓦。テレサにはレンって、」
「ベー!」
こいつ……舌を思いっきり出してあっかんベーしてきたぞ。俺に対してものすっごい拒否反応起こしてんぞこの妖精。
「こらルーフィ」
「こいつは自分と姉御が一緒にいるのを邪魔するお邪魔蟲ッス! 名前なんか聞きたくないッス!」
夢にまで見た妖精。それを目の当たりにして少々浮かれていたけど、どうやら目の敵にされてしまったようだ。
妖精への幻想を打ち砕かれた気分だ




