ケミカルモンスター『おっぱいスライム』2
かなり深層まで進んだな。
俺にとって初めてのダンジョンなのだが、言っちゃなんだが拍子抜けだな!
光のないダンジョンと言ってもテレサのサポートでばっちり見えるから足を取られて転ぶようなへまはしない。
ただこの洞窟やけに湿気が高いというか瑞々しいというか。洞窟ってより鍾乳洞に近いんじゃないかここは。
ピチョンピチョンと水滴が落ちる音がして、躓いて転ぶことはなかったけど滑って転びそうになったのは何回かあった。あったってだけで転んではいないし、他には特に危険はなかった。
洞窟に居そうな巨大ネズミや大蝙蝠も隠れているみたいだし、危険な虫とかも出てこなかった。
ダンジョン、ちょろいな!
所詮テレサが何にも準備しないで来たダンジョン。簡単すぎてあくびが出る。
「次はもっとやりがいのあるダンジョンに行きたいもんだな」
「天狗になってると足元掬われちゃうわよ」
「異世界に天狗なんて概念あるんだ」
「あるわよ。ほら、ついた。ここが目的の場所よ」
奥にも奥に歩いてたどり着いたのはぽっかり穴が開いたような空間。
小さい子供を連れてきて秘密基地だぞと紹介したら心底喜ばれそうな広さ。
弧を描く壁にはそこらかしこにデコボコと穴が開いている。
「スライム……いねーじゃん。寝てんじゃねーの。洞窟内は真っ暗だから昼夜逆転起こしてるとか」
「何頭の悪いこと言ってるのよ。そりゃいないわよ。よく来てる私はともかく見知らぬレンが来てから警戒してるみたいね」
「じゃあ俺来ない方がよかったじゃないか。初ダンジョン来たのに途中帰宅なんて嫌だぞ」
「大丈夫よ。さっきのピュールみたいに仲良く、って言うより呼び出す方法があるから」
テレサはウエストバックから石みたいなものを二つ取り出す。
それを火打石のようにカチンカチンと打ち付けて音を鳴らす。
おいおいまさか犬笛みたいに音でおびき寄せるとかじゃないだろうな。
どっからどう見てもスライムに耳なんてないだろ。
とか思っていたら壁のデコボコからひょこりと丸い餅みたいなものが顔を出す。次々にまるでモグラたたきのようにぴょこぴょこと顔を出し始める。
あれがスライムか? 色はまばらだけど、想像していた通りプニプニしていて、拳大から顔くらいあるのまであるけど、皆が皆水滴の様だ。
顔を出したスライムが一匹壁から降りてくる。それに続くように赤、青、黄、様々な色のスライムたちが一斉に弾むスーパーボールのようにテレサに集まっていく。
これは、思った以上にすごい光景だ。スライムたちが群がるように集まってきているのだから、小さいといえど圧巻だ。
「元気にしてたかスライムどもー。ほら、お土産のシミズクの住む清流の水よ」
テレサはウエストバックから取り出したフラスコに入った水を景気よく振りまく。
スライムたちは恵みの雨と言わんばかりに振りまかれた水を浴びてはゴムボールのように跳ねまわる。
なんかこう、豆まきのイベントみたいだな。
「スライムって音で集まるんだ」
「集まる音を作ってるってだけ。どんな生物も音には敏感よ。スライムなんて体そのものが液体だし、音自体は拾うの。そんでたまたまこの石ならしたら近づいてきてくれるって気付いたってわけ」
「ほえー。とってつけたような設定だけど、まあ水は音を伝うからね。にしてもこれがスライムかー。小っちゃくてかわいいな! 触っていいかな?」
「いいと思うよ。でも乱暴すると思わぬ反撃を喰らうかもよ」
「アッハッハ。そんなヘマしないって。じゃあまずは」
俺は緑色のスライムに手を伸ばす。いかにもスライムって色でいいじゃないか。
伸ばした指先がスライムに触れた瞬間、スライムはその身から鋭い棘を突き出した。
驚いた俺は反射的に手を引く。
「びっくりした! え? このスライム、棘出してきたよ! 温厚なんじゃないの?」
「それはベルツスライム。触れられると体から棘を出して威嚇するの。でも所詮スライムだからその棘も見掛け倒しで柔らかいわよ」
「ほんとだ。先端に触ると引っ込むな」
かわいいじゃないか。家に持ち帰って水槽か何かに入れて愛玩したいな。
「じゃあ次はこいつ……」
青いスライム。これまたスライムらしいスライムだ。
指先でぷにゅりと突き刺す。触感がいい。最高!
「今回のやつは青から赤に変色したぞ。心なしか少し熱くも感じる」
「そいつはボーボスライム。レンの言う通り赤に変色して暖色系の色になって体感的に少し熱を発して威嚇するの」
「発熱かぁ。カイロにはならないな。ヌメヌメしてるし。ん?」
スライムたちの群れの中に一匹。やけに好戦的に見えるというかオラついて見えるというか、スライムの分際で赤い鉢巻をしている黒いスライムがいた。
一頭身の軟体生物のくせにいっちょ前にオシャレか。生意気な。
俺はハチマキスライムに手を伸ばす。そのハチマキも体の一部なのか? 解けるのかなと興味本位で手を伸ばしたら避けやがった。横にスライドして避けやがった。
マジで生意気だ。
「この野郎。人間様を馬鹿にしようなんて生物学的に早い、」
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スタン・トサーチ
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反射的に頭を傾ける。
久しぶりに来たスタン・ト!
頭を傾けることにより先ほどまであった頭の位置の部分にビュオンと風切り音とともに黒い棒が通過する。目をやるとそれは腕であり、拳だった。
突き出されたそれを辿って大本を見てみるとハチマキスライムの体から突き出したものだった。
「ちょ、何だこのスライム!? 俺を殴ろうとしたぞ!」
「それはライバスライム。スライムの洞窟の中じゃかなり武闘派で好戦的なスライムよ。初めて見る奴に兎に角喧嘩を売っては殴り倒そうとしてくるやつ」
「そんなスライム聞いたことねぇよ!」
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スタン・トサーチ
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またしても体が反応して自然とライバスライムの拳を避ける。
こいつ意外に手数が多い!
「テレサ、こいつを落ち着かせるにはどうしたらいいんだ」
「相手にしてればいい。そいつは戦った相手の力を認めると」
説明されながらライバスライムの攻撃を全て避けていると唐突に攻撃を止めた。そしてライバスライムが俺の前に先ほどまで殴ってばかりいた拳を差し出してきた。
「そうやって友好の証を求めてくるのよ」
「友好の証って握手!? なんて人間臭いスライムなんだ」
しかし、握手を求めてきたということは俺の力が認められたってことか。スライムが相手とはいえ、自分のことを認められたとなると、照れくさいな。
「今回はイーブンだな」
俺はライバスライムと握手を交わす。握った瞬間生魚を触ったかのようにぐちゃあッとした感触が伝わってきたけど、ライバスライムが離してくれようとしてくれなかった。




