ケミカルモンスター『おっぱいスライム』
翌日。俺たちは街の正門前にいた。
「それじゃあ、スライムの洞窟に向けてしゅっぱーつ!」
「おー! でもテレサ。向かうったって、歩いていくのか?」
ダンジョンに潜るというならそれなりの荷物が必要……なんてこともないのかテレサは至極身軽な恰好だ。そんな俺も特に荷物はなかった。
俺は律儀に昨日買った貴族服を着ている。半ズボンなのは遺憾だけど、全身真っ黒で意外にカッコイイとも思い始めている俺がいるのも否めない。
「そんなわけないでしょ。歩いてたら何日かかるかわかったものじゃないわよ。ちゃんと移動手段は用意してあるわよ」
「車か何かか? 異世界に車はないか。馬車か何かか? ん?」
門から続く道と草原。その先に猛烈なスピードで近づいてくる。
次第にその姿が見えてくると同時に、それがこちらに向かって走ってきているのがわかった。
ぶつかる……ぶつかる勢いでこっちに近づいてきている!
しかしそれは大きくて前で迂回し、弧を描いて俺たちの前に止まる。
鳥の頭に羽、四肢にも似た体躯。知っているぞ。これはグリフォン。伝説上の生き物じゃないか。
「よしよしピュール。いい子ね」
テレサはグリフォンの頭を撫で、グリフォンもそれに応えるようにテレサに頭を擦り付ける。
「す、スゲー。テレサ、グリフォンを呼び出せるのか?」
「グリフォンを知ってるの? でもこの子はグリフォンと違って飛べないアンダーグリフォン。空路じゃなくて陸路を飛び回る地上の鷹よ。高速移動手段としてレンタルがあるんだけど、この子は私専用としてグリフォンハウスに置いてるのよ。久しぶりね元気にしてた」
テレサはわさわさとダイナミックにグリフォンを撫でた。
グリフォン、ピュールと言っていたな。
なるほど。なかなか凛々しい顔つきをしているじゃないか。
「つまりこいつに乗ってスライムの洞窟に行くのか?」
「そう。この子に乗ったら休憩入れても数時間で着くからね」
「デカくて怖いなぁ。噛まないの? とりあえず失礼しますー」
「ピューゥイ!」
「ギャあああああああああ!!!」
ピュールの背に手を置いた瞬間に思いっきり威嚇され俺は跳び退く。
こんなデカい化け物があんな目で睨み付けてきて羽を広げて大口開いて威嚇してきたら怖いに決まってる。
「て、テレサ! こいつ俺を背中に乗せてくんねーぞ!」
「うーん。いきなり知らない人に触られるのは流石に嫌がるか」
「どーすんだよ。乗れねーなら留守番か?」
「この卵をあげたら友達になれるわよ」
テレサがウエストバックから手のひらサイズの卵を取り出し、手渡される。
何だ? つまらない物ですけどと食べさせて仲よくしようってか? 飛んだ賄賂だ。
ともかく俺は手のひらに卵を置いてピュールの目の前に持っていく。
ピュールはゆっくりと首を突き出してきて、卵をその嘴で抓んで食べた。
これで仲良くなれるのか?
ちらりとテレサを見ると手振りで触ってみなと言っているようにピュールを指さす。
俺は恐る恐るその顔に手を伸ばし、優しく撫ぜる。ピュールはそれに応えるように俺の手に頬を摺り寄せてきた。
「……カワイイなこいつ」
「これで乗っても平気よ。さあ、乗って乗って」
俺はピュールの背中にはめられている座席に座るが、後追いしてきたテレサにその席を奪われる。
「座るところは一つなんだから。君は私にもたれてね」
「テレサにもたれるって……! どうせ嫌だって言ってもそれしかないんだろ」
「私の言うことがわかるなんて。信頼関係が築けてきた証拠ね」
むしろそれが目的だろうと思うのだけど。
俺は抵抗しても意味ないと悟っているので座るテレサの前に腰を下ろす。
テレサは腕で俺を挟むようにして、ピュールの手綱を握る。
「グリフォンの背に乗って大地を駆ける。死ななきゃこんな体験できなかったんだよな」
「死んだのがよかったみたいな言い方はやめなさい。じゃあ今からスライムの洞窟に向かうけど、振り落とされないように気を付けなさい」
「振り落とされ、」
テレサが手綱をぱちんと叩くと同時に視界が高速で動いた。
体にかかる急激なGに体がテレサの体を押す。
俺は思い出していた。かつて友達と旅行で遊びに行った遊園地にあるジェットコースター『スチールドラゴン』の怖さを。
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内蔵の位置が変わるかもと思えるほどの高速移動に疲弊しながらもなんとか目的地に無事到着した。
森の中にある洞窟の前。なんかじめじめ湿気っていて気持ち悪いところだった。
「うえぇ。吐きそう」
「ありがとうピュール。私たちが帰ってくるまで待っててね。ほらレン。行くわよー」
「ま、待ってよー」
先行するテレサに着いて行き洞窟へと足を踏み入れる。
-スライムの洞窟-
スライムの洞窟。その名の通りスライムが生息する洞窟だ。
スライムとは元来人を襲うモンスターではなく、そのほとんどが大人しく穏やかなモンスターとのことだ。
スライムは別に湿気の多いところに多く生息しているというわけでもなく、ここまで来る道のりの森や平原にも多く生息するがこの洞窟には特に多くの種類のスライムが住みかとして生息しているらしい。
テレサの話によればここで一種のコミュニティを形成し社会を築いているのではないかとも言われているとのこと。
スライムの分際で社会を形成してるのか? 考える頭もないってのに。
洞窟に足を踏み入れたのはいいが、とにかく暗い。洞窟だから日も入らないし暗いのは当然なのだろうが、松明の一つぐらい用意すべきじゃなかったのか。
俺もテレサも手荷物は一切ないし、暗い洞窟を明かり無しで進むのは自殺行為だぞ。
「何か明かりないの?」
「いつもは一人で来るから可視力を上げる人法を自分にかけてるんだけど……『ライラ』」
ぱちんと突然洞窟内が明るくなった。
まるで昼間のような明るさ。先ほどまで見えていなかった洞窟内の細かい構造までも見えるようになった。
「明かりを付けたわけじゃないよなこの明るさは」
「可視力を上げる人法をかけただけで別に明るくなってはないわよ。見えるようになったんならどんどん進んでくわよ」
なるほど。やはりテレサが何かしたのか。
「人法って、結構それ耳にするけど何なんだ?」
「そのうち教えてあげるから。ほら、ついて来て」
「人法って何なんだよー」
俺はテレサに着いて行きながら奥へと進む。




