一日の終わり
本日の勤務も終えて俺は店じまいの手伝いをしていた。
「ちくしょう。汚された。もう俺の自尊心はボロボロだ。これだから年上は怖い。怖いなぁ」
「涙は美しいかもしれないけど、泣き顔は悲しくなるから駄目だよ~。君、昨日今日で結構評判いいじゃん。お客さん皆に気に入られてさ」
「うるしゃい! 完全にみんなのおもちゃじゃないか! みんな頭撫でるんだもん! お菓子一杯もらったよ! おいしかったよ!」
「いっぱい食べる君が好き。だけど育ちすぎるとプレミア感がなぁ」
人を希少品か何かと思ってんじゃないだろうなこのクソ店長。
あの後も来る客来る客に紹介されては撫で繰り回されて、俺は15歳だぞ。身長だって160はあるんだ。
俺の頭はビリケンさんの足の裏じゃねえっつの。
ブチブチと文句を垂れながら俺は鎖と南京錠で扉を雁字搦めにする。
「これ本当にやる意味あんのかよ。ちょっと過剰すぎないか」
「その鎖と南京錠には特殊な人法が施してあってね。扉にかけると特殊な結界みたいなものが張られるから外からの侵入は不可能になるのよ」
テレサは今日の売り上げの精算をしながら答えてくる。
「はえ~。人法が何かわかんないけどすごいんだー。でも見た目がごつ過ぎ」
扉の端から端に鎖をかけて、そのうえで南京錠でロックをかける。どっからどう見たって危険な何かを封印している扉にしか見えないよこれ。
「もっとスマートにしてもいいんだけど、ごつくすればするだけ結界は強固になって侵入出来なくなるのよ。過剰なのは事実だけど。だからあんなガバガバな棚でもよかったのよ。買い物中に盗み働く奴がいたら誰であろうと縊り倒すけどね」
この人今縊るとかおっそろしい単語使ったぞ。
裏の店とか表立った客層じゃないとか言ってたからどこまで嘘かわかんないぞ。
「過剰なら少しくらい緩めてもいいんじゃないか」
「そう思ってたけど、レンが来てから考え方が変わった。私の結界を通り抜けるスタン・ト。今は廃れた逃走術がここまで強力だとは思わなかったよ。もっと頑強にしないとね。ウフフフ」
それは悪いことをしたなぁ。
俺だっていきなり壁をすり抜けるとは思わなかったし、初日以降そのスタン・トとか言うのは全く使えなくなったし、色々と情報が少なすぎてこちらとしても困っている。
とりあえず、今日も今日とて終わり、カウンターの隣の扉から奥の部屋へ行く。
三日間過ごしたポーションショップだが建物が意外にデカい。
ポーション在庫を置いてある部屋はもとより、季節的に今は使われていないが煉瓦暖炉の置いてあるリビングに本棚が所狭しと並ぶ書斎。清潔感の溢れるキッチン。
ベッドルームは二階とのことだが俺は二階には脚は踏み入れておらず、どうにもレシピや経営の本など普段よく目にする書類が置いてある部屋があるらしい。
そしてポーションを地下にはポーションを作るための部屋がある。何で保管庫の近くに置かないのかはわからないけど、とりあえず地下にある。
そして何より一番驚いている且つ俺のお気に入りの場所として部屋の隅に四畳半の畳の空間がある。
何で異世界に畳と思ったけど、ずいぶん昔に異世界人が畳の技法を教えて、意外にも多くに広まっているとかどうとか。
ファンタジー世界もクソもないな! だけど畳に寝そべるのは故郷、日本を思い立たせるので俺は仕事終わりに寝転がるようにしていた。
「あぁ~。やっぱ日本人は畳だよねぇ。趣がある。わびさびを感じるゥ」
「寝るのはいいけど、すぐに夕飯にするからテーブル拭いてくれる」
「あ、はーい」
寝そべってすぐに起き上がり、キッチンで食事の準備をするテレサから台拭きを受けとり丁寧にテーブルの上を拭く。
テレサの元で暮らし始めて今日で三日目なのだが、食事の準備や風呂の用意、外に出ない家事を色々と手伝っている。
働かざる物食うべからず。テレサの言葉通り借金を背負っていながらもご飯を提供してくれることに感謝しているので手伝えることは手伝うようにしている。
「テレサは何のポーションにする?」
「センクロチャのポーションで。レンも好きなの取って来なさい」
食事の際の飲み物はポーションショップなのでポーション。
俺は廊下を渡り、地下に通じる階段の横にあるポーション保管庫の扉を開ける。
ひんやりとした室内は木箱や棚が置かれ、並べられている。
その一角から俺は二つフラスコを取り出し、リビングへと戻る。
どうやらいい具合に食事の用意ができているようだ。
「テレサ。グラス。注いでやるよ」
「まあまあ、そんな急かなくてもいいから」
たしなめられ、手を洗って来いと諭されて、そして食事をするために席に着く。
並べられた料理。と言ってもそんなに種類はない。昨日は木の実のタルトと野菜に肉を詰めたものだったが今日は魚介、何かの貝の蒸し焼きと言ったところだろう。
「今日もお疲れ様。頑張った自分を労っていただきましょう」
「ああ、いただきます。あ、ポーション注いでやるよ」
「ありがとう」
トクトクとグラスに注がれた茶色いポーション。テレサが一口つけたのをきっかけに俺は食事にかぶりつく。
「うん。よくわかんないけど、なんか昨日のも一昨日のも今日の料理も全部今まで味わったことないって味でうまいな! わかんないけど」
「そう言ってもらえると作った甲斐があったってものよ。私に気にせずどんどん食べてね」
「……いや、昨日も一昨日もさ。すぐに食べようとはしなかったよな。何となく察しは付いてるんだけど、俺が食べるところを見てるの?」
「そうよ。一杯頬張るところが見たいの。食べてるレンを見ていたいってのもあるけど、自分が作った料理を誰かに食べてもらってるのを見ていたいから」
「そ、そうか。やっぱテレサはそうなんだな」
食べられているところを見られていると意識すると恥ずかしいものだけど、頬杖をついて優しいまなざしを送るテレサにやめてとは言えず、俺は黙々と食べた。




