ポーションショップ『ヴァルハライズ』3
なんて思っているとドアがガチャリと開く。どうやらお客が来たようだ。
二つ並んでいる扉の一つ。もう片方は裏の店専用の扉とのことで表の営業時には締めている。
扉が隣り合っているのに違う店に繋がっているというのもよくわからない話だけど、テレサ曰く色々と込み入っているらしい。
「久しぶりテレサ~。いいポーション入ってる?」
ハロハローと手を振りながら入ってくる。
このなれなれしい態度、常連客と見たね。
「入ってるよ~。女性向けって言ったらこれ。飲んだだけでお肌の張り艶がもう見間違えるよう。スキンアップポーション。まとめ買いしてくれるならおまけ付けちゃうわよ~」
「どうせ飴でしょ。要らない。ん?」
お客さんがこっちを見てくる。
テレサと同じくらいの年頃だろうか。俺は無言でお辞儀をする。
「え? テレサ。この子従業員? うっそー! 随分かわいい子ね!」
「そうでしょかわいいでしょー。私の秘蔵っ子」
「秘蔵っ子って、テレサまだ20歳でしょ。そんな大きな子供なんているわけないじゃん」
テレサって20歳なんだ。もっと歳行ってるかと思った。
というより秘蔵っ子ってそういう意味じゃないだろ。
「驚かないでよ。この子ね。男の子なの。こんなにプニプニしてるのに」
「やめい! 頬を突くな!」
「ほんとだ男の子の声! うっそぉ! 女の子だと思った!」
「あぁん!? 俺が女だ、」
声を荒げ、張り上げようとした瞬間にテレサの手が口を覆う。
何しやがると口を塞がれながら言っているとテレサが耳元でささやいて来た。
『お客さんの前で怒っちゃ、やーよ』
優しい物言いだけど、どこかしら恐怖を感じられるセリフ。
ごくりと生唾を飲むと、塞がれていた口が解放される。
「ど、ども。屑桐煉瓦です」
少々……不愛想な自己紹介だけど、正直言うとテンションの高い年上二人という時点でおもちゃにされる気がしてならなかった。
そんなのはごめんだ。
俺はそそくさとはたきをかける作業に戻ろうとするとガシィッと肩を掴まれる。
あぁ、嫌な予感とは的中して当然か。
「まぁまぁレン。お客さんとのスキンシップやコミュニケーションは大事よ大事。お姉さんたちとお話してもてなしなさい」
「いやだなぁ。僕も自分の立場があるんですよ。仕事しないと店長にどやされるんですから。だから離してください」
「アイ・アム・テンチョー。お話しなさい」
これもうパワハラだろう。
客となんて話したくない。別に接客が苦手とかコミュニケーションに難があるとかじゃないんだ。
俺は異世界に転生されてまだ三日目だ。この世界での常識やルールを知らない、ペーペーの異世界ビギナーだ。
テレサに業務用のエプロンを支給されて服で異世界人と判断されることはなくなったけど、それでもたどたどしい態度や雰囲気で異世界人と判断される可能性も否めない。
「ふーん。レン君かぁ。私はリュルリ・ボウガネート。よろしく! にしてもこんな年下どこで捕まえてきたのよテレサ~。もしかして若いうちから育てて理想のお婿さんしようって魂胆? やだ~こじらせすぎ!」
「それもいいかもね~。実際目に入れてもいたくないしそれもいいんだけどー。もう15歳だから英才教育は遅いかなー」
「光源氏計画かよ」
「光源氏?」
ヤバッ。俺は急いで口にふたをする。
光源氏なんてこの世界にあるはずないじゃん。はずみの一言で異世界人だと悟られる可能性があるのに何不用意に言ってしまったんだ。
首をかしげてこちらを見てくるリュルリさんから目を逸らす。悟られたか?
「レン君……君」
「え、うっふ! な、何でしょうか?」
「ここらへんじゃ見ない顔だよね。遠くから来たって感じ」
ゴクリと生唾を飲む。感づき始めているわけではないだろうけど、その質問は心臓に悪い。なんせこの世界にとって異世界人は悪でありテロリスト扱いだ。
本当に言葉を選ぶべきだった。
そんな俺を見かねたのか、テレサが俺の頭に肘を置いてフォローに入った。
「どうにも異国の地から来た訳アリ家出少年みたいなのよ」
「訳アリ家出少年?」
「数日前に路頭に迷ってるところに声かけたらさ。行く当てがないって言ってさ。私もちょうど従業員が欲しいところだったから住み込みのバイトとして雇ったのよ」
「異国の地から家出? 随分と込み入ってそうね。どこから来たの?」
「それが全然教えてくれないのよ。ね、レン」
テレサが聞いてくる。目を合わせるとパチンパチンとウインクをされる。
話を合わせと言うことか。
「あんまり、昔のことは話したくないんです。ごめんなさい」
「君も壮絶な人生を歩んできたんだねー」
憐れむように同情してくるが、異世界から来たんだ。どう考えたって同じ情なんで沸いてないだろう。
でも助かった。テレサの機転で少し綻んだ危機もやり過ごすことができた。
けど、それだけでは終わらなかった。
「昔のことは話たくないーって言うんだけど『こんな僕に仕事と家をくれたテレサには感謝し切れません! 大好きです!』って晩御飯毎に行ってくるのよ。可愛い奴よねー!」
「ちょ、そんなこと言ってぐみぇ」
頬を突かれて言葉が遮られる。
「こーんなかわいくて私を慕ってくれる子がいるなんてほんと毎日が一変したって言うか、充実度が半端なく上がったのよ! 羨ましいでしょリュルリー」
「私はアンタみたいにそんなに子供好きっていう訳じゃないんだけど、確かにこんなかわいい子に大好きって言われたら嬉しいかも」
かわいいかわいいって、俺は男だぞ。そんなこと言われてうれしくなんかない。どうせならダンディと言ってくれ。
「だったら言ってあげなよ。『リュルリお姉ちゃん大好きー』って」
「い、嫌だよ! そんなこと……りゅ、リュルリお姉ちゃん……大好き」
「大好きって! そんなお姉さん困っちゃうなー。言われるの結構いいかも」
「でしょー。ホントにくぁあいいのなんのって!」
テレサに頭を抱かれ為すがまま。
年上のお姉さんのきゃいきゃいしたガールズトークに挟まれて、俺はどうしようもない気持ちになっていた。
じ、地獄。
そんな時またしても扉が開いた。しめた! 新しい客だ。これでこの二人から解放される。
「テレサお久ー。お、リュルリもいるじゃん」
「お、リリリ! いいところに来た!」
「紹介するねわね。この子が新しく私のお店で働くことになった、」
来店したお客はまたテレサと同じくらいのお姉さんであり、地獄のようなガールズトークが継続されたのが言うまでもなかった。




