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プロローグ4

「でもどうして花南は彼氏を作らないの? 告白、全部断ってるんだよね? 何か理由でもあるの?」

「梓。割と本気で言うのですがいっぺん死んでください」

「はは、幼馴染にガチトーンで『死ね』とお願いされる日が来るとは思わなかった」

「というより、本当に……分かりませんか?」


 若干顔を赤くしながら花南はモジモジとする。

 これ以上は言えないから察しろ、って事なんだろうけど……正直さっぱりだ。

 小、中、高と続いてモテモテで、告白をされ続けているのに花南が誰とも付き合わない理由か。

 確か、花南のファンの間でも色々な推測が飛び交ってるんだよな……。

 曰く勉強や生徒会の仕事で恋愛にかまけている暇はないからだとか、曰く自分より頭の悪い者と付き合う気がないからだとか……曰く子供の頃から恋い慕っている人物がいるからだとか。

 花南が告白してきた男子をブン殴って盛大に振ったという話、それと生徒会では女の子と常に一緒に働いているという情報から──花南は同性愛者そっちなんじゃないかと推測もあったけど……流石に皆信じようとはしなかった。信じたくない、がファンからすれば適切なのかもしれないけど。

 ……まさか本当に同性愛者そっちなんて事はないよね……?

 あの花南に限ってないとは思うけど、念のために聞いておこう。『花南って同性愛者?』なんて聞くわけにもいかないから、あくまでさり気無く、遠回しに、言葉を選んで……。


「花南」

「? 何ですか梓?」

「花南って同性に性的興奮を覚えたりはしないよね?」

「死ね」


 あれ? 言葉を選んで訊ねたっていうのにどうして僕は幼馴染から命の危険を感じるほどの殺意を向けられているんだろうか。


「まったく梓は……鈍過ぎますよ。少し考えれば分かる事でしょうに」

「え、そうなの?」

「……未だ面と向かって言えない私も悪いですが」

「??」


 面と向かってって……同性愛の事じゃないよね。

 うーん、花南が何を言いたいのかよく分からない。

 まぁ、その辺はたいやきでも食べながらゆっくり聞けばいいか。

 今回は何味にしようか思い悩みながら下駄箱を開けると、何かがポトリと落ちた。

 何だろうと視線を下へ向けると、僕へのラブレターのような手紙がそこにはあった。


「……ん?」


 目を丸くし、僕は恐る恐るラブレターのようなソレを拾い上げた。

 ピンクの、それも可愛らしい封筒にハート型のシールが貼られている。

 どこからどう見ても、判りやすいほどのラブレターだ。決して、僕に決闘を申し込むための果し状でも僕の秘密を握って送られてきた脅迫文でもないだろう。呪いの手紙だったら質が悪過ぎるイタズラだけど、そんな暇な人間は現代にいないと思いたい。


「これって……ラブレターだよね花南。……花南?」


 何故か花南は目を開けたまま固まってしまっていた。

 目の前で手を振っても全く反応しないし、太ももを撫で回しても無反応だ。急にどうしたんだろうか。

 ……仕方ない。とりあえず手紙の中身を確認するか。

 ハートのシールを簡単に外すと、中からはこれまた水色の女の子が使うような便箋が折られた状態で入っていた。

 僕はそれをドキドキしながら手に取った。

 流れる手汗を握り、逸る鼓動を抑えつける。落ち着け……落ち着け……。

 生まれて初めてもらうラブレターに心臓がバクバクと波打っているのが分かる。

 ゆっくり、ゆっくり、折られた便箋を開く。

 真っ先に目に飛び込んできたのは『雛樫 梓さんへ』と書かれた宛て名だった。

 入れ間違えなんかじゃない。これは、この手紙は間違いなく僕に宛てて書かれた恋文だ。

 入学して早四ヶ月。早々に問題を起こし一部の生徒以外には腫れ物扱いされ、先生達には睨まれヘイトを集めまくっているこの僕に、だ。

 だから正直、嬉しいと思う気持ちよりも驚きの方が優っていた。

 どうして僕なんかに? 一体誰か? 噂を知らないのか? 

 混乱状態に近いまま僕は本文を見た。

 見て、しまった。



『あなたの事が好きです。』


 

「……へ?」


 自分でも間の抜けた声が出たな、と思った。

 でも、出さざる得なかった。

 手書きですらない、ワープロで打ったであろうその坦々とした一文。

 その一文は周りに穴が空いてしまっているかのように空白で、これ以上ないほど嫌というほどに目立っていた。

 宛て名と、一文。それ以外は何も書かれていない。裏があるかと裏返しても何も書かれてない。

 つまり、自らの気持ちを伝えるためのこの告白文はたった一文で、差出人の名前すらない状態で完結してしまっていた。


「え? え?」


 そんな馬鹿な。そんなわけがない。それだけであってたまるか。

 便箋がもう一枚ないか封筒を覗き見た。けど、ない。何度見ても手に持った封筒の中身はこの一枚だけだ。

 じゃあ、僕がどこか読み逃したのか。便箋の内容を再び確認する。

 そこには宛て名、『あなたの事が好きです』の一文があった。



「え? え?」



 それだけ、だった。

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