プロローグ1
友人「ラブレターって古いけど王道だし、いいよな」
自分「じゃあ、ちょっと書いてみますか」
友人「や め ろ」
でも書きました。すまんな友人よ。
頭の中で彼女達の言葉がずっと繰り返される。
彼女達の言葉は本当かもしれない。けど、嘘かもしれない。
いいや、嘘なんだ。彼女達の中の一人だけの言葉を信じるなら。
どうして他の二人はそんな嘘をついたのか、そもそもどうしてあんな手紙を書いたのか。
疑問に思う事は色々あるけど、今はどうでもいい。
重要なのは彼女達の中に一人だけ本当に、本当に僕を──。
※※
「……終わった」
電灯のついてないオレンジ色の教室で、僕は手に持ったペンを放り投げる。
両手を上に伸ばして大きく背伸びすると、窓から沈みかけた日が目に入った。
どれだけ時間がかかったのだろうかと教室の壁に掛かった時計を見上げると、短い針は五時と六時の間を指していた。
……それなりに時間がかかっちゃったなぁ。どうして放課後になっても僕は教室に残って残業のような事をしなきゃならないんだろう。HR日誌を書き上げるのは兎も角、プリントの仕分け作業はどう考えても僕がやる仕事じゃないんだけど……そんな事を愚痴っても仕方ない。
「それに……終わったからいいか」
僕は今書き上げたHR日誌をパタリと閉じた。ついでに仕分けされたプリントの束を机を使って整え上げる。後はこれらを職員室に持って行くだけだ。
椅子から立ち上がると共に、教室の閉じていたドアが横にスライドされる。
「梓。まだ教室に残っていたのですね」
平坦な声。
前髪だけアーチ状に切り揃えられたショートカットに、雪のように真っ白な肌。
小柄だけど、身に纏う雰囲気が大人の女性のものなのは彼女のカリスマによるものか、それともかけられた眼鏡によるものか。
彼女の名前は国見 花南。同級生にして、僕の幼馴染でもある。
花南は僕の手にあるHR日誌を一瞥すると尋ねた。
「今までHR仕事をやっていたのですか?」
「たった今終わったところだよ。花南こそどうしてこんな時間に?」
そう言うと、花南はジト目で僕を睨みつけてきた。
「……私の話を聞いてなかったのですね。登校の時にちゃんと伝えておいたはずですが?」
「……そうだったっけ」
「ええ、そうです。ちゃんと朝の事を思い出してみてください」
花南に言われ朝の事を思い返してみる。
ふむ。朝の事か……。
1.家を出る。
2.花南に会う。
3.突然強風が吹いて花南のスカートが捲れる。
4.パンツが見える。
5.脳の全神経を巡らせ花南のパンツを脳内メモリーに保存する。
6.何か花南から言われる。
7.登校終わる。
「……」
「どうです、思い出せました?」
「うん。ばっちり脳内に刻んでいたよ」
「待ってください。どうして梓は鼻から血を垂れ流しているのですか。それはどう考えても朝の会話を思い出した時の反応ではありませんよ」
おっと。思い出したらつい鼻血が出てしまったみたいだ。
花南から言われた事を一向に思い出せないのはおそらくパンツをメモリーに刻む事に脳をフルスロットルさせていて話を聞き流してしまっていたからだろう。
つまり花南のパンツが悪い。もっと言えば花南のピンク色の少しエロめのパンツが悪い。
……なんて口が裂けても言えないんだけど。
「ごめん。その時はぼーっとしてたのか思い出せなくて……」
「まったく……梓は仕方ないですね」
呆れたように花南が息をつき、僕はあははと頭を掻いた。
もしも『パンツを脳内に刻みつけてて話を聞いてなかった』と正直に言っていたら花南の呆れは怒りへと変わっていた事だろう。
そしてその後、首を三百六十度くらい回転させられるようなびっくり人間に僕は改造されていたかもしれない。