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                   ‐5‐

 星界学園は、学園特区の中でも最大規模の敷地と最高レベルの設備が揃う国立の中高一貫校だ。

生徒数は、中高合わせて六百人。最大規模の敷地とは言えど、日本本土の学校に比べると狭いくらいだ。そのため、中等部と高等部で共有する施設が多く、食堂と体育館、特別棟の一部が共有施設となっている。

 そして、高等部一年四組の教室に、ひとりの男子生徒の姿があった。

「なあ、聞いたか?」

 その黒髪の少年は、教室に響く声で訊いた。

 ワックスで尖らせた髪、純白のワイシャツは、ボタンがふたつ外され校則を違反していた。一目見て、チャラ男と分かる見た目だ。

「何を?」

 茶髪の女子生徒が、少年の言葉に反応する。

 長く艶のある髪に澄んだ碧眼。誰もが美少女と言うであるはずの容姿だ。その少女が腰をねじり、教卓で叫ぶ男子生徒の方を向く。

「今日、転校生が来るっていう話だよ」

「転校生?」

 信用の全く無い声で、訊き返す少女。

「ああ。さっき小耳に挟んだんだけどよ。谷村が言ってたんだよ」

「本当に谷村が?」

 谷村とは、彼らの担任教師の名前だ。若い女性教師だが、結婚できない事に腹を立てている裏を持っている面もある。

「ああ、間違いない。あの声は谷村だった。あの結婚に飢えている声は間違いなく……――」

「誰が結婚に飢えているって? 山之(やまゆき)?」

 山之と呼ばれた教卓で話す山之 才基(さいき)の顔が、急速に青ざめていく。山之の瞳に映る二五歳程の女性の姿。

 紺色のジャージに身を包む体育教師、谷村 莉子が鬼の形相で仁王立ちしていた。

「い、いえ……決して、決して谷村先生の事を言っているわけじゃ……」

「問答無用だ。歯、食いしばっておけよ……山之……」

 声にならない叫びを挙げる山之、谷村は手の平を海のように青い顔をする男子生徒へと向ける。

「はぁっ!」

「――先生!」

 何らかの一撃を放とうとした谷村を、高い女子生徒の声が止めた。

「なんだ? 美々島?」

 谷村を止めた声の主は、その場に立ちあがっていた茶髪の美少女だ。その足元には、立ち上がった勢いで椅子が倒れていた。

「早く……ホームルームを始めませんか?」

 美海島 優姫(ゆうき)は、怯えた声で提案する。谷村は、はっとした顔になり、手を引く。

「わ、悪い。私は、体罰をするつもりはなかったんだ!」

 頭を下げる谷村。

「……じゃあ、俺の言う事をなんでも聞いてぬぁ――」

 谷村は、調子に乗った山之の胸ぐらを勢いよく掴んだ。

「おい……調子に乗るなよ……」

「す、しゅいません……」

 息苦しい状態で謝罪する山之。

「先生っ!」

 美々島は、教室に響き渡る声で叫んだ。さすがに、教室もざわつき始める。

「……よし、全員席に着けー」

 気を取り直した谷村は、山之の胸ぐらから手を離す。その言葉に、散らばっていた生徒が席に着き始め、数秒で全員が着席した。

 山之も、ゆっくりと首を押さえながら席に着いた。

 谷村は、一度咳こみ、

「今日は、最初に転校生を紹介する。入れ」

 呼びかけに応じ、ドアを開けて入って来たのは、平凡な少年だ。綺麗な紺のスラックスに純白のワイシャツに身を包む、葛河改め、南沢 朱音がそこには居た。

 朱音は、教卓のすぐそばまでゆっくりと歩いて行く。

「――南沢 朱音です。今日から、よろしくお願いします」

 訓練期間中に練習した挨拶の成果を発揮する。しかし、それだけでも朱音にとっては極度に緊張する事だ。

 朱音の挨拶と同時に、制服を纏った高倉姉妹が、教室に入って来る。

「とりあえず、みんな仲良くしてくれ。南沢の席は……あそこだな」

 谷村の指さす先は、最後列の窓際から二番目の席だった。その両隣りには、図ったかのように高倉姉妹が座っていたのだ。

 ゆっくりと席へ歩いて行く朱音。その姿を、クラスの全員が見ていたが、すぐに自然は違う方向に集まる。

 ドアの開く音が教室に響き、そこには赤いパーカーのフードを被った少年が立っていた。

「今日は遅刻しなかったな。木宮」

 木宮 仁は、谷村の呼びかけに反応せず、朱音の目の前の席に着いた。

「……知らない顔が居るな。なあ君、名前は?」

 木宮は、座ったまま振り返り、朱音に訊く。戻したフードの中から綺麗な金髪が顔を出し、窓から差し込む日光を反射させる。

「南沢……朱音です」

 驚いた顔で答える朱音。

「朱音か……転校してきたのか?」

「……はい」

「俺も一ヶ月前に転校してきたんだ。よろしくな……」

 木宮は、体を前へ戻す。

「そう言えばこのクラス、転校生が多いよな。今日は朱音君で、一週間前は高倉姉妹、一ヶ月前は木宮って、他のクラスに分散させたりしないのか?」

 血色の良くなった山之が、おもむろに呟く。

「……よし、それじゃあ、ホームルーム始めるぞ」

谷村は、山之の呟きに反応することなく、ホームルームを開始した。


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