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                   ‐3‐

 新東京島の中心部は、『セントラルエリア』と呼ばれ、この島の中枢機関が多数存在する。

 ビルが立ち並び、メインストリートには、ファッションブランドの支店などが多く出店し、島一番の賑わいを見せる。

更に、ハイテク技術を総結集した街でもあり、清掃ロボットや警備ロボットが彼方此方を駆け回り、頭上には、電子看板が浮かんでいる。

 休日なら若者が多い歩道だが、平日は同じ方向へと歩いていくサラリーマンで溢れていた。彼らが向かうのは、島のほぼ中央にある『第二都心管理庁』だ。高層ビルが並ぶ中心部でも頭一つ高いガラス張りのビル。それが、管理庁の庁舎だ。

 ビルの足元のロータリーに黒い高級車一台が停車し、ドアが開く。中から出てくるのは、朱音と紅葉のみだった。

「じゃあ、私は車を止めてきますので、紅葉に案内してもらってください」

運転席から朱音の顔を見上げながら楓が言った。

「わかりました……」

 弱々しい返事だ。無言の車内は、朱音にとって居心地の悪いものに変わりなかった。

「……それじゃ、行くぞ」

 紅葉の声は、不機嫌を前面に押し出していた。紅葉は、朱音が荷物を整理するのを待たずに、玄関へと歩き始める。

自動ドアを通ると、そこには広いエントランスが広がっていた。冷房の効いた庁内は、快適そのもので、二人の汗はすぐさまひいた。庁舎内は多数の職員が忙しく移動していた。

「こっちだ」

 紅葉は、一直線にエレベーターへと歩いていく。

 余計な会話はひとつも無い。無言がひたすら続く。

 エレベーターに乗り込むと、紅葉は『46』のボタンを押す。あれだけ居た社員は誰一人として乗ってこない。ポーンという音が鳴り、朱音は上がっている感覚に襲われた。

「これから会ってもらうのは、この島の管理最高責任者だ。とりあえず、ここから先のことは他言無用だ。わかったな」

 紅葉は、静かに告げる。距離を置いて立つ朱音は、返事をしたつもりだろうが、声は出ていなかった。

目的階には、わずか三十秒ほどで着いた。

 足早にエレベーターを後にする紅葉。朱音は、それを追いかけるように出ていく。

 降りた先にはホールが広がり、木製の扉がぽつんとあった、そのすぐ横に掛けられた札には、『第二都心計画都市管理最高責任者室』と刻まれている。

「ここだ……」

 紅葉は、そのまま扉に向かいノックをする。返事は無いが、ゆっくりと取っ手を掴み扉を押し開けた。

「――了解した。対策はそちらに任せる。それではな」

 部屋の中にいたのは、黒髪の男。伊乃宮 善史だった。黒いスーツに純白のワイシャツ。『あの日』とは、全く雰囲気が違った。

 手に持っていた固定電話の受話器を置いて、伊乃宮は朱音の方を向く。

「久しぶりだな……朱音君」

 伊乃宮は、朱音たちを見て薄笑いを浮かべた。朱音とは一ヶ月ぶりの対面である。

「お……お久し振りです」

 朱音は、その場で少したじろぎながら会釈する。

 紅葉は、扉のすぐ横の壁に寄りかかり、腕を組んでいた。

「それじゃ、いろいろと打ち合わせをしようか。これから山程やることがあるからね」

「……はい」

 戸惑いのある返事が、朱音の口から漏れた。


「――わかっていると思うが、君は釈放されたわけじゃない。この島に閉じ込めている状態と思ってもらっていい。簡単に言えば、この島が巨大な監獄って言うわけだ。これからは、われわれが命令する『任務しごと』をやってもらい、『減刑』を報酬として君に与える。まあ、簡単なシステムだ」

 伊乃宮は、引き出しから取り出したファイルをデスク上に開き、ビジネスライクに話を進めていった。呆然と話を聞く朱音。

「その任務だが、ほとんどの相手が『超能力者』になる。気を抜いていると、最悪、死ぬぞ……」

 伊乃宮は、鋭い目で朱音を睨み、警告する。

 異能の力。それが超能力だ。

謎に包まれている部分が数多く、なぜ能力が使用出来るのか、その発生原因すらわかっていない。能力は『国際特殊能力規格』によってランク付けされ、大きく『第Ⅰ種』『第Ⅱ種』『第Ⅲ種』の三つに分類される。

発火、発電、氷結、物質反射、空間移動などが、代表的なものとして挙げられ、能力の種類は、強弱や本質的な違いを除けば、三百種類くらいとされている。

世界の全人口のうち、超能力を持つのは約3割。能力の強力さゆえに、隔離されたり保護されたりしている超能力者も多い。

太古の昔から能力者は存在するとされていたが、『魔女狩り』を代表する虐殺や差別などによって、自らを能力者と名乗る者は、ほとんど居なくなったとされている。公に能力者と名乗る者は、今から約五十年前に徐々に現れ始めることになるのだが、それまでに現れた強力な能力者を取り締まることが出来なかったため、テロなどが超能力者によって秘密裏に行われることも多かった。

その後、国連の『特殊能力者に関する人権保護条約』によって、超能力者の存在が認められるようになり、超能力者というだけで差別されることはなくなった。

しかし、それは国家レベルの話であって、民間ではほとんど浸透していないのが現状だ。

「君が死亡した場合、我々は責任を取れない。この計画も無くなり、世界の脅威も排除されたことになる」

「……なんで俺が、そんなことを」

 その言葉は、どこか恐怖で怯えるようであった。

「悪いが、君の運命は、あの裁判でもう既に決まっていた。君が殺されなかった理由は、年齢的に若過ぎたからだ。六歳の未来ある子供を殺すのはどう考えても人道に反する。だから、君は生かされた。千年間禁固という、長大な刑を負ってね」

「運命が決まっていたというのは……このことですか?」

「いや、お前は、あと数日で死刑が執行される予定だったんだ」

「し、死刑?」

「ああ。お前は高校生の年齢になった。区切りよく、脅威を排除できるというのが、国家間で秘密裏に打ち合わせされていた」

「本当ですか……」

 自分の身に起ころうとしていたことを知り、動揺を隠せない朱音。

「よかったよ。君が殺される前に救出することが出来て」

「感謝したらいいのでしょうか?」

「感謝はいい。まあ、君を救出するのに、かなりの犠牲を出した。その分くらいは働いてもらう」

「わかりました」

 朱音は、曖昧な返事をする。伊乃宮は、その返事を予想していたかのように、ニィと口を緩める。

「とりあえず、彼女ともう一人に君の護衛を担当してもらう。我々は、君を要人。『VIP』として歓迎する。だから、逃げたらどうなるか、わかるな……」

 朱音の背筋が凍った。伊乃宮の眼光は、相手を威嚇するのは充分すぎるほどの威圧感を持っていた。思わず後ずさりする朱音だが、伊乃宮の目はすぐに解かれ、やさしいものへと戻る。

 朱音は、威圧感に押され、思わず縦に首を振る。だが、それ以外の答えは、存在しないに等しい状況だったのだ。

「よし」

 伊乃宮は、デスクから取り出したファイルを開き、あるページに手をかざす。すると、そのすぐ真下の証明印欄が光りだし、印が刻まれた。そして、ファイルを朱音に差出し、

「さあ、君の印を」

 デスクの上にあった朱肉に指を当て、朱音は力強く押印する。

「ようこそ、新東京島へ」

 その時から、朱音の罪滅ぼしが始まったのは、言うまでも無い。


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