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夢の異世界記-短編をつらつらと-  作者: ジェンキンス
3/5

スリーマンセル


始まりはとある晴れた日。


心も体もとても晴れやかになれるようなすがすがしい晴れた日。


私たちのようなものには邪魔にしかならない、

忌々しい晴れの日。


あぁ、いやだいやだ。


「前方6時方向、数5」


「了解」


5発の射撃音、バサバサと何かが崩れる音。

私の放った弾丸は無事命中したようだ、当たらなければ死ぬのは

私になっていたけど。


「沈黙確認、作戦続行」


「了解」


草むらをひたすらに匍匐前進、目標まで50m。

近づきすぎたか。


対象は聴力の代わりに気配察知に優れたseedだ。

気づかれないように細心の注意を払いながら匍匐すること150m。

いい加減にしてほしいものだ。


「対象を目視、いけるか?」


「この距離なら」


構えて、安定させて、覗く。

全神経を集中させひたすらに最高のタイミングを伺う。


奴がこちらのほうを向き何もないことを確認し安堵する、

そして逆側をむく。

その瞬間を。


 まだだ、まだだ、焦るな、待て。


奴がこちらを向いた、一瞬キョロキョロしたがこちらには気づかない。

何かしらを感じたんだろうが、逃げなかったのが運の尽きさ。


さぁ、向こうをむくぞ。


 ・・・・・、今だっ。


射撃音と同時に倒れる奴。

作戦は成功だ。


「目標の鎮圧を確認、素材の回収後本部に帰還する

通信はいったん終了する」


相方が本部に連絡をしている、そこでやっと一息つくことができた。


「お疲れ様、シャルフ

流石の腕前だ」


「ありがと、オルドナ

あなたあってこその成功だわ」






本部に帰ってきてまず出迎えるのは歓声。

内容は様々だけど、どれも称賛の声であることに

少なからず喜びを感じる。


「二人とも、お疲れ様」


大量の、しかし一糸乱れぬ敬礼。

人の波が勝手に割れてそこから出てくるのは

我が組織一番の腕前でしかも本部長であるお人。


「ありがとうございます、デュール本部長」


「渡したいものがある、私の部屋に来てくれ」


「承りました、本部長」


革靴が鳴らす小気味いいカツカツという音共に再び人の波の間を行く本部長。


そしてまたも騒ぎ始める雑踏。


「この二人に掛かって落ちないseedはいねぇ!

俺らは最強だ!」


いつにも増して大きな声で雄たけびを上げ始めたほかの部隊員。

戦ってるのは君たちじゃなかろうに、よく俺らと言えるものだよ。


「シャルフ、いくぞ

遅れたらseedじゃなく本部長に殺されてしまうよ」


おどけながら言うオルドナに、そうだねと頷く私。


「渡したいものって何だろう?」






本部の中でも特に薄暗い道をまっすぐに進む、その最奥にその部屋はある。


『本部長室』


限られた精鋭と本部長しか入ることを許可されていないそこは

限りなく暗い雰囲気を醸し出していた。


 この薄暗い通路にも原因はあるのだろうけど。


前本部長に聞いた話では許可がいる上に薄暗い部屋なんかに立ち寄ろうと

考えるもの好きもいるまい?ということであったが。


「先行情報部隊所属、オルドナ、シャルフ

入ります」


「入れ」


毎度お馴染みの声かけのあとすぐに出る許可。

私はこの声かけがキライだったりする。

緊張して噛むから。


重厚な音を響かせ開かれる扉。

そんなに大きくも、重い素材を使ってるわけでもないのに

なんでこんな音が出るんだか。


「よく来てくれた

この度の働き、大変感謝している

二人の働きで事前に大事を防ぐことができた。」


「「ありがとうございます!」」


「今後も頼む」


「「了解しました!」」


しばしの沈黙の後、部屋に響く小さな笑い声。

出所は部屋の中にいる三人の口もと。

 

 はっはっはっはっはっは!!


部屋に満ちる笑い声。

三人が三人とも現状に我慢しきれなかったのだ。


なんといっても私たち三人は元々スリーマンセル。


リーダーのデュール

スカウトのオルドナ

シューターのシャルフ


いつもこの三人だった。

どんな作戦も、どんな理不尽も。

この三人で乗り越えてきた。


「改めてお疲れ様、オルドナ、シャルフ

本当は俺も戦場で二人と一緒に・・・」


「それ以上はいいっこなしだよ?

デュール?」


「そうそう、というかデュールが出てくると囲まれた時の

俺の取り分が少なくなるからしばらく籠ってて大丈夫!」


「酷くないか?!」


そんな他愛もない会話、昔の話や、一緒に行動してないときに何してるのかやら

話しまくった。

今のような面倒な立場なんか忘れて話した。


「そういえば渡したいものあるっていってたけどなに?

この前みたいに会う口実だったりする?」


笑いながら聞く私に、どうせそんなとこだろっていうオルドナ。


でもデュールの顔は今までの笑顔を完全に消して俯いてしまった。


「何かあったのか?デュール」


「あぁ、実はな

先ほど二人が帰ってくる少し前に大量のseed反応があってな

しかも上位個体も確認された」


「それは本当か?デュール」


「あぁ、本当だ」


「それならこんな悠長に話してる時間なんてないじゃない!

速く全部隊員に話して対策練らないと!」


「全員承知済みだ、その上であぁも騒いでるんだ」


じゃぁなんで!そう言おうとしたらデュールが顔を上げて告げた。


 seedが十万、上位個体が別に一万もいるんだ。


私とオルドナはきっと信じられないといった顔をその時していただろう。

本来seedと上位個体が群れたとしても合計して百いくかいかないか。


それなのにその千倍のseedと百倍の上位個体、異常だった。


「それこそ、衛星兵器や特殊武装を使用してでも数を減らさなきゃ!」


「減らして、その数なんだよ!!」


いつも落ち着いてるデュールが声を荒げる。


「衛星兵器で十万減らした!

特殊武装で総攻撃して五万減らした!

それでもまだそれだけいるんだ!!」


「で、でもそんな衝撃・・・!」


「大型のテクノシールドだ、あれを使って対象地域を囲んでいるんだ

もってあと2時間ってところだろうな」


八方塞がり。

この言葉がこれだけ似合う状況があるだろうか。


衛星兵器は一回使ってしまえば6時間のチャージ時間が必要になり

特殊武装は乱用できるほど余裕がない。

個人携行武器じゃ雀の涙。

部隊員も量がいるわけじゃない。


「二人は・・・逃げてくれないか?

俺は長だから逃げるわけにはいかんが二人なら逃げてもいいって部隊員からの承諾も得ている」


「そんな・・・!」


「そんなことできるわけがないだろう!!」


オルドナが吼えた。


「いつも三人でなんとかしてきた、確かに今回ばかりは無理かもしれないが

デュールを置いていくことはできない!」


「ならどうすればいい!?

二人を逃がせば今後の希望があるってことで俺は部隊員たちを説得した!

俺は何をしたら正しいんだ!」


「やめて、二人とも!

そんなことを言ってる場合じゃない!」


少し息を切らせる私と二人。

私自身も何をしたら生き残れるのかわからない。


沈黙する私たち。

そのうちデュールが耐えかねて口を開く。


「わかった、じゃぁ部隊員をすべて任意のスリーマンセルで組ませ

別方向に逃げさせよう

俺たちは殿となって残る」


「なるほど、生き残るのが目的なら確かに最善策かもしれないな

俺たちは全滅必須だが」


「それでも、誰が逃げる誰が残るとかよりはいいわ

私たちは3人一組の最強チームよ

きっと生き残れる」


話はまとまったし、私もこんなこと言ったけど生き残れる自信は

微塵もない。


「すまないな、渡し物がこんなもので」


「いいさ、この仕事を続けてればいつかは死んでいたんだ

今死んでも後で死んでも変わりはないさ」


「そういってくれて助かる

俺は部隊員に話してくるから二人はここで休んでてくれ」


一応作戦終わりの私たちを気遣ったのか、デュールは一人部屋から出ていく。

それにしても大変なことになってしまった。


「いつ死んでも仕方ないとは思ってたけどいきなり過ぎるわね

もう少しオルドナやデュールと話したかったな」


「それは俺も同じだ、結局三人の時が一番安心できたし何より俺の居場所だった」


「オルドナ・・・」


暗い雰囲気しか残ってないけど、仕方ないのかな。

状況が状況だし。







「二人とも」


ドアが開きデュールが入ってきた。

部隊員との打ち合わせはどうやら終わったようだ。


「部隊員は今スリーマンセルを組んでいる、やはり普段のメンバーがいいようでな

案外早く組み終わりそうだ

最後の作戦はあと10分で始まる

俺たち3人が本部に残り籠城斉射、引き付けてる間に部隊員が散開

全部隊員が本部から消えてseedが本部の中に入り始めたら俺らは携行銃で各所に弾幕を展開

その後本部内にてseedと戦う」


思わず無言になるくらい無茶苦茶だ。


「と部隊員には伝えてあるが一部訂正がある」


「え?」


「奴らが本部の中に入り始めた段階である場所に向かう

俺が秘密裏に作らせていた地下道だ

そこから俺らは近くの山にあるセーフハウスに向かい身を隠す」


「そんなことしたら・・・!」


「わかっている、俺らが引き付けるはずだったseedは部隊員を追いかけるだろう

だけど、俺だって本部長の前に人間だ」



 好きなやつらと一緒にいたいんだ



その言葉に死ぬ覚悟が消えてしまった。

隣にいるアインも同じようだった、さっきまでの暗い様子もなくなり

少し震えている。


「ずる・・・いよ

せっかくかっこよく散るつもりだったのになぁ」


「すまない、だけど俺は二人と生きたいんだ」


「今のお前、サイッコウにカッコ悪いよ、デュール

だけど、俺もカッコ悪くなりたがってる」


少しの間、沈黙が続く。

次の瞬間。



「「「生きよう」」」



私たちの意志はいつも以上にまとまっていて、カッコ悪かった。






「散開し終わったな」


全ての部隊員からたくさんの感謝の言葉を貰いながら見送った。

そんな、部隊員たちを私たちは自分たちのための犠牲にする。


「このあと本部内からの篭城斉射は予定通りだ

seedが入ってきた後は話した通りだ

生きるぞ」


「あぁもぉ、こんなに自分がセコい人間だったとは思わなかったなぁ」


「それも仕方のないことだ、俺たちは生きる、カッコ悪くな」



ドドドドドドドドドドドド



さっきから来ていた地響き。

それが更に大きくなる。


「引き付けてからの斉射だ!

弾を全部使わなくても構わん!

俺の合図で打ち合わせの場所に走れっ!」


「「了解、部長!」」


三人で笑いあう、これからは死闘だ。

たくさん笑っておこう、しばらく口は呼吸するだけのための機関と成り果てるから。


「斉射開始ぃぃ!!」


耳が聞こえなくなるんじゃないかってくらいの轟音。

数秒か十数秒か、撃ち続けるがその時が来る。


あたりが明るくなると共に耳がキーンとなりちょっと聞こえづらくなる。


スタングレネード。


事前に打ち合わせしていた合図だ。


ダッと走り始める私と二人。

全員が全員生き残るために必死に走る。


走る、走る!走る!!

指定された通路をひたすらに、横には見慣れた二つの顔。


デュールからのハンドサイン。

『もうすぐ』

私とオルドナのハンドサイン。

『了解』


オルドナからのハンドサイン。

『真後ろ、複数、3カウント後斉射』

私とデュールのハンドサイン。

『了解』


3・2・1!

三人分の射撃にseedも進行スピードが落ちている。


オルドナからのハンドサイン。

『敵、無力化成功』

私とデュールのハンドサイン。

『了解』






何度目かわからない襲撃を乗り越えやっと着いた脱出口。

フルフェイス型のヘルメットのような形状のポットが3機きっかり。

ポットの上下左右にレールが這わせてあり、ブースターのような機構が備わっていることから

高速で移動することが伺える。


「入口は塞いだ、これでもう上位個体だろうと入ってこれないが

速くここから脱出するぞ」


「念のためバリアシールドも展開させておいたよ

万が一ドアが壊されても数分は持つはず」


それぞれがポットに乗り込み機体の無線通信が飛んでくる。


『一番後ろの機体、つまり俺が乗ってる機体だが爆破スイッチが備え付けてある

それを起動させてやれば本部のそこら中に設置してあるサイコボムと

この通路の途中に一個あるサイコボムが爆発する

その衝撃はとてつもないものになると予想される、二人とも用心してくれ』


いつの間にそんなものを設置してたんだ。

恐ろしいけど、これで一掃するのね。

流石に隊員たちを見殺しにはできなかったのかな。


『では、発進する

発進時Gが発生するから備えててくれ』


『『了解!』』


ブースターが爆発音とも取れるような音を吐き出しながら火を噴いた。

物凄い・・・!


「うっ!」


確かに凄いGだ・・・!

身体が後ろに持ってかれる!

気絶しそう・・・、だけど耐えればっ。


「ふぅ、なかなか辛かったわね・・・」


数秒続いたGもようやく収まり、やっと落ち着けるようになった。


『そろそろ、爆破予定地点だ

二人とも備えてくれ、一瞬だが先ほどのGに値する衝撃だと思われる

衝撃だけで、音やら熱はこのポットで遮断してるから』


「はぁ、今度はそれ?

さっきのG結構辛かったのに・・・」


『大丈夫だ』


「ん?」


『俺も辛かった』


そう、笑うような声のデュール。

次の瞬間、明らかに先ほどのGよりもつらい衝撃を受け今度こそ私は気絶してしまった。






目が唐突に覚める。


最後にみたポットの中の景色ではないことに少々焦ったが

すぐに事前に話されていたセーフルームに様相が似ており安堵した。


「オルドナ?デュール?

どこ行ったの?」


私は寝かされていたソファから体を起こし二人の姿を探すが

見当たらずつい不安に駆られてしまった。


もしかして。という気持ちと

大丈夫。という気持ちが入り混じった変な気持だった。


「やっと起きたか、シャルフ」


「あ、オルドナ!」


「俺もいるっての」


「デュールも!」


よかった、二人とも無事だった。

まぁ、二人に何かあったりしてたら私もただではすまなかっただろうけど。


「シャルフ、外はもう夕焼けだ

久しぶりにきれいなのを拝めるぞ、最近はseedで忙しかったからまともに景色なんて

見れなかったしな」


そういって私に手を差し伸べるオルドナと無言で手を差し出すデュール。


「三人でゆっくり景色なんて眺めるのいつぶりかな、ちょっと楽しみ」


「これからは毎日拝めるよ、ここは最前線からだいぶ離れてるから

二人が毎日のようにseed退治に行くこともないし」


「俺は少しいてくれたほうが退屈せずに済みそうだけど」


「そんなこと言っちゃだめよ、また大群で来られたらどうするの?」


そんな他愛もない会話、また昔のようにのんびり暮らせる時が来たようで

ひたすらに嬉しかった。


「そういえば」


「「どうした?」」


重なる二人の声に少しクスっときながら

私は二人に聞いてみる。



 もう昔みたいに二人をコードネームで呼ばなくてもいいんだよね・・・?



その時の私の頬はきっと夕焼けよりも赤かったと思う。

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