メモリーメモリー(プロット)
高校二年生の愛花が仏壇の前に座っている。
自分とあまり顔が似ていない実の母親。母子家庭であったにも関わらず娘が物心つく前に母が病気で亡くなり、愛花は今の養父母に育てられていた。
「私の本当のお母さんに会ってみたいな」という独り言を養母に聞かれ、二人の間に気まずい空気が流れた。
最初こそ謝ろうとしたが、自分を責めるような口調の養母に少しずつ口論はエスカレートしていく。
「だって、あなたは本当は私の親じゃないもん!誰でもいいんでしょ、自分たちの子供になるのなら。〝私〟じゃなくてもだれだってよかったんでしょ!」
初めて親子喧嘩をしたことでその場に居づらくなって衝動的に家出した愛花は、泣きはらした目を擦りながら歩いていた。
公園で遊んでいた黄色い帽子の男の子が、ボールを追いかけて車道へ飛び出すちいさな姿が目に入る。
愛花は子供を庇い、歩道に向けて男の子を突き飛ばす。
赤信号が光る中、彼女の身体が地面に転がった。
ふと気が付くと、見知らぬ通りに愛花は立っていた。直前までの意識を振り返り、車に轢かれたのだと思い出す。
ただし自分の名前だけ、なぜかすっぽり抜け落ちて忘れている。
愛花が家を飛び出してからそれほど時間も経っていないはずなのに、昼間であったはずの辺りはすっかり夜になっていた。
愛花は見慣れない風景に、ここはどこかと頭を捻るが、もしかして自分は死んで天国に来たのではないかと顔を青くする。
あてもなく歩く愛花は大きな川を横切る橋へとたどり着いた。
橋の上では、一人の黒髪ショートの女性が立っていたが、生気が感じられない目をしていた。
虚ろな瞳の女性は、今まさに川に身を投げようとしている。
慌てて止めに入った愛花に、女性は一世一代の決断を邪魔されたと泣きながら糾弾する。
女性の名前は円花といい、夫からのモラハラに苦しんでいた。
「あたしの苦しみを何も知らないくせに、自殺を止めるな。この先の人生、面倒を見てくれるわけでもないのに無責任だ」と泣き叫ぶ円花。
話を聞いていくと、円花は兼業主婦であるものの夫によって家事を全てやらされており、なおかつ日常的に人間否定的な言葉を投げかけられていることが明らかになる。
夫につけられた心の傷を震えながら見せる円花の心が、もう限界であることを実感した愛花は、自分の軽率な行動を謝ったが、彼女の腹部がすこし大きくなっていることに気づいた。
彼女が妊娠していることを知った愛花は、お腹の子まで死なすつもりだったことに茫然とする。
「生きてたって辛いことしかない。本人が望んでいないのに、勝手に産むことだって無責任でしょ」
「確かに嫌なことだって沢山あるけど。私は、私は生んでくれてありがとうって思ってる。貴女が幸せになったら、世界はまた色づいてみえるよ」
そう言った愛花の瞳からもまた、涙がこぼれた。
愛花は今朝心にもない言葉を養母にかけたことを思い出す。もう会えないのかと、謝れないのかと思うとどうしようもなく哀しい気持ちが広がっていった。
「私は信じてるよ。未来は明るいって。円花さんが信じられないのなら、それでもいい。ただ、もう少しだけ食いしばって世界を見守ってみようよ。今が辛いんだったら、環境を変えよう」
愛花は円花に彼氏と距離を置くことを提案する。
一人で話し合うのが怖いのであれば、相談所を介してもいいと伝えた愛花。
円花は自分のために涙を流してくれた愛花に感謝し、生まれてくる子供の名前を打ち明けた。
「夫には否定されたんだけどね、あたしは子供には愛っていう漢字を入れるってずっと昔から決めてたの」
礼を述べ、僅かな笑みを浮かべながら円花は去っていく。
愛花も家に帰りたいが、帰り方はおろか、帰れるかもわからない。
「天国にしては、町並みとか妙にリアルだし……」
首を傾げたものの、愛花の瞼はどんどん重くなっていく。
愛花が目を覚ますと、病室で頭に包帯を巻かれ寝ていた。
養母が泣きながら愛花を抱きしめ、何度も何度も謝ってくる。
「最初一目見て思ったの。この子じゃなきゃダメだって。私たちには〝愛花〟が必要なのよ」
養父はほっと胸を撫でおろし、愛花に向かってはにかんだ。
愛花も涙をこぼしながら、養母を強く抱きしめ返す。
傍にいた医者が丸一日意識不明だったことを伝えた。
優しくて、すこし寂しい気持ちに包まれているものの、それがなぜかは分からない。
「なんか、すごく温かい夢を見ていた気がする」
黄色い帽子を被ったちいさな男の子が病室に入ってきた。
母親と一緒にぺこりと頭を下げるのを見て、形を持っていた少しの違和感は徐々に溶けていく。
数週間後。
愛花は朝飛び起きると、大慌てで朝食をつまみ、スニーカーをひっかけて飛び出していく。
「今日も、私たちの娘は元気ねえ」
仏壇に飾られている写真を丁寧にタオルで拭き上げる。
フレームの中では黒髪ショートの女性が、産まれたばかりの娘を抱きしめ、満面の笑顔で笑っていた。




