この世界に神はいない
石畳の美しい街並みを漆黒の軍隊が行進する。
住人は家の隅で震え、何事もなく通り過ぎるのを祈っている。
しかし、この世界にはその祈りを聞き届ける神はいない。
ドガッ!
ドアが乱暴に蹴破られ、鍵の部品が床に散らばった。
妻と子を庇いながら男が尋ねる。
「な、なんでこんなことを・・・あっ!」
問いに答えるものはいない
王城の広場に王都中の人間が集められているのではないかと思うほどの人がひしめき合っていた。
それを城壁の上から騎士たちを引き連れた青年が見下ろす
城壁に掲げられたシヴィル王国の旗が、強風に激しくはためいていた。
まるで広場に集められた人々の恐怖を映すかのうように
恐怖に震える者、憤る者、困惑する者
反応は様々であるが、これからたどる運命は皆同じだった。
誰も王都に吹き荒れる強風に抗うことはできない。
「みんなすまない。どうか許してくれ」
男が呟くと閃光が住人たちを包んだ。
吹き荒れていた強風が凪、一人残らず地に伏せる。
立ち上がるものはおろか身動き一つするものはいない。
まるで、この世界に誕生した魔神に平伏しているかのように。
青年の体が光を発し、縮んでいく
小学校低学年くらいの少年へ
黒い髪や瞳は白銀に
光が収束し、少年は笑みを浮かべる
虹彩は白銀に輝き、命の輝きを失った王国民達を見る。
次の瞬間、少年と目が合いハッと目が覚めた。
顔を上げるとそこはいつもの休憩室だった。
スマートウォッチの画面には休憩時間終了と表示されている。
震え続けるスマートウォッチをなだめて休憩室を後にする。
(なんか、変な夢やったなぁ...)
仕事用のPCに向かい、患者の状態を入力しながら夢について考えてみるが
気味の悪い夢をみてしまった。
独身の頃は異世界に憧れていた時期もあったが、今となっては妻子を持つ立派なアラサーだ。漫画やラノベの読み過
ぎってことかな。
夢の事を頭の中から掃き捨てて午後の勤務をこなしていく
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夜勤者に申し送りを済ませ、バッチリ定時に退勤
今日だけは残業するわけにはいかないのだ!
「お疲れ様です!お先に失礼します」と爽やかに職場を後にする。
外に出ると師走の寒さが肌の露出した顔や手に突き刺さる。
そういえば、患者さんが今日は10年に一度の大寒波が来ていると言っていたなぁ。
しかし、明日は愛娘の2歳の誕生日だ!
飾り付けはどうしようか。
クラッカーは怖がるだろうし...
風船の数は...
道行く人が大寒波に凍える中、
スキップでもしそうな軽やかな足取りで無敵の父は帰路に着く
「ただいま!」
「パパおかーり!」
「おかえり、お疲れ様」
24歳の頃に建てた注文住宅のマイホーム!こだわり抜いた玄関扉を開き、妻と娘に迎えられる。俺の穏やかで温かい日常だ。
妻の作ってくれた食事をみんなで食べ、娘をお風呂にいれて
妻が娘を寝かしつけてる間に
いよいよ練りに練った娘のバースデーパーティの飾り付けをしていく
山のように積み上げられたプレゼント!
「完璧やな」
と自画自賛して寝室に入る。
娘と共に眠ってしまった妻の頭をそっと撫でて
もう眠ってしまった主役よりも楽しみにしながら眠りに落ちた。
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眠っていると急に落下したような感覚を覚え、目を覚ます。
心拍数が上がり、息が乱れながらも自分が横たわっていることを自覚出来た。
びっくりした〜。こんな感覚久しぶりやな。
落ち着いて呼吸を整え、心拍を落ち着かせる。
そこで異変に気づく。
体が動かん。これが金縛りか?
初めて体験する現象に落ち着きかけた心拍数が再び跳ね上がる。
耳には、慌てる心臓の音しか聞こえない。
だんだん息苦しさまで感じる。
やばい。息が・・・!
体中に鎖が巻き付けられているかのようにびくともしない。
あかん、死ぬ!うごけぇ!!
ドッドッドッドッ
鼓動が大きく早くなり、必死に力を込めた。
バギッ!!
鎖が千切れ、体と呼吸が自由になった。
数分間供給されなかった酸素を求めて肩で呼吸する
指一本動かせないほどの脱力感に襲われながら周囲の状況を確認する。
そこは自宅の寝室ではなく、隣で寝ていたはずの妻子もいなかった。
その代わりに見慣れない部屋の中
馴染みのないローブをきた見覚えのない人達
全く状況が飲み込めない中で、呼吸と心拍が少し落ち着いてくると
周囲の音が聞こえ始める
「成功だ!」
「これで我々は救われる!」
「流石は召喚士長だ」
「国王様に報告しろ!」
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口々に喜びの声を上げる者たちの中に1人疼くまり、呟く声がなぜかはっきり聞こえた
「あり得ない。調伏の呪鎖が破られた!?触れただけでも意識を保てないはず!」
疼くまっていた男が立ち上がり、どこからともなく鎖を取り出した
「今すぐっ!かけ直さねばっ!!」
疼くまっていた男が立ち上がり、どこからともなく鎖を取り出した
さっきの金縛りはこいつの仕業か?かけ直すとか冗談やないぞ。
男は明らかな敵意のこもった眼差し
手には鎖を持って何やら呪文を唱えている
チャラ...
体を支える手の下に金属片があった。
「これは、さっきの鎖か」
それは禍々しく血管のような模様が浮かび上がっている
しかも不気味に脈動しているように見える
そして怪しげな呪文を唱えている男が握っている鎖が
徐々に同じような模様が浮き上がってくる。
とっさに鎖の破片をつかんで立ち上がり、落ちていた鎖のかけらを男の眉間に投げつけた。
「ぐあっ!」
詠唱途中で投げつけられた鎖のかけらは男が新たに作り出した鎖を巻き込み
脈動する1本の鎖になり男を縛り始めた。
「召喚士長ー!」
「一体何が!?」
お祭りムードだった周囲の態度が一変
鎖に縛られた男に駆け寄る
「ま、まさか!これはいかん!!解呪が...間に、あ!!」
召喚士長と呼ばれた男は鎖に絞め殺されてしまった。
なんちゅうもんで縛ろうとしてんねん
もしあれで再び縛られていたらと思うとゾッとする
「一体何が!?」
「勇者様がご乱心なされたのか!」
『レベルアップを確認しました。ギフトを開封します。』
「この鎖は一体...?」
騒然となる中、扉を開き従者を従えた男が入ってきた
「勇者召喚が成功したようだな」
「国王陛下。ゆ、勇者召喚は成功したのですが・・・」
「勇者様が乱心なされて、召喚士長が、、」
は!?乱心!?
「この者は本当に勇者なのか!?」
「よく見ろ瞳が黒いぞ!恐ろしい。」
さっきまでお祭り騒ぎしてたくせに、急に罪を被せてきやがった。
国王は血溜まりに沈む脈動する鎖を見て全てを悟ったようだ。
「愚か者め。なぜ私の忠告に従わなんだ。」
国王と呼ばれた男はひどく残念そうに呟き、こちらに向き直るとすぐさま頭を下げた。
「召喚に応じて下さった勇者に対してあまりにも無礼な対応をまずは謝罪させていただきたい。」
「陛下!なりません!」国王は従者の制止を無視して続ける
「まずは状況を整理させていただきたい。勇者殿は別室にてお待ちいただけないだろうか」
どうやら、今すぐ冤罪をかけるつもりはないらしい。
とりあえずは従っておくべきか。
そのまま従者に促されるまま部屋へ向かった。




