舞踏会
きらびやかなシャンデリアが放つ光が、大理石の床に降り注いでいる。王宮の大広間を支配するのは、優雅な調べと、着飾った貴族たちの悦びに満ちた溜息。
その中心で一組の男女が完璧な円舞を披露していた。第一王子アレフと、公爵令嬢ロザリン。金糸の刺繍が輝く軍服と、薔薇の蕾を思わせる真紅のドレス。二人が動くたびに、まるで妖精が舞うような錯覚さえ覚える。
「なんて美しいの」
「まさに神が遣わした理想のカップル」
周囲の称賛を背に、アレフはロザリンの腰を引き、耳元で愛を囁くような距離まで顔を近づけた。しかし、その口から漏れたのは冷たい罵倒。
「ロザリン、右足の踏み込みが三センチ甘い。昨夜の立ち合いで負った脇腹の傷が響いているのか? まるで鈍亀のようだ」
ロザリンは慈愛に満ちた微笑みを浮かべたまま、アレフの肩に添えた指先に力を込めた。
「心外ですわ。あなたのリードが退屈で、欠伸を噛み殺すのに必死ですの。それにその香水の香り、ドブネズミでも隠していらっしゃるの?」
「貴様の減らず口を切り刻んてやりたくなるよ。ドレスの下に隠したナイフを借りても良いかい?」
「あなたの腰の飾りを使ってもよろしくてよ?貴方と一緒で安物ですし、ポッキリと折れてしまわないか心配ですけれど。ああ、一瞬表情が崩れましてよ?皆が見ていますわ、愛し合う私たちを」
彼女を高く掲げるようにリフトした。観衆からは割れんばかりの拍手。
「終わらせよう。この茶番には反吐が出る」
「奇遇ですわね。その鼻柱、叩き折る瞬間が待ち遠しくて堪りませんもの」
曲が終わると同時に、二人は優雅な礼を交わした。手を取り合い仲睦まじく見つめ合いながら、彼らはバルコニーの向こうへと姿を消す。誰もが、月夜の下で熱い口づけを交わすのだと信じて疑わなかった。
十分後。人影のない王宮の裏庭、練武場。
月光が照らす石畳の上。
無造作に投げ捨てられた真紅のドレスの切れ端と、栄光の証である軍服の上着。ロザリンはパニエをナイフで裂いて捨て、動きやすい革の装束を露わにする。アレフもまた、シャツの袖を捲り、愛剣の柄を握った。
「お待たせいたしましたわ、殿下。ここからは私のターン」
「同感だ。ようやく『本番』の始まりだ。死ぬなよ、ロザリン!」
「あなたこそ。地獄へ落ちる前に、私の足元に膝をつかせて差し上げますわ!」
甘い音楽の代わりに響いたのは、鋭い金属音。
夜の静寂を切り裂いて、二人きりの「武闘会」が幕を開けた。
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