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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

念願のヤンデレ彼女がポンコツ過ぎて、私はどうしたらいいですか!?

 逃げ出したくなるくらい、重い愛が欲しかった。だから監禁されたて、やっと念願のヤンデレな彼女ができたんだって喜んだんだけど。


「これで綺花あやかさんは、わたしだけのものです」


 妖艶に微笑んだのは付き合って二週間ばかりの私の恋人、七緒ななおちゃんだ。肩にかかるくらいの茶髪で、MARGARET(マーガレット) HOWELL(ハウエル)っぽい上品で大人っぽい服を着ている。そこら辺の女子大生よりも、頭一つくらいお嬢様だ。だけどそんな外見とは裏腹に、昨日ちょっとサークルの飲み会で私が他の女の子と仲良くしていだけで呼び出された彼女の部屋にそのまま閉じ込められてしまうほどに、重たい愛と局所的にズレた倫理観の持ち主である。

 十人が十人、彼女の本性を知れば関わるべきでないと言うだろう。しかし、私は違う。私は愛の重たい恋人をずっと探していた。


「七緒ちゃん、ねえ、お願いだから考え直して。昨日のことなら、私謝る。もう七緒ちゃんを不安にさせるようなことなんてしないから……」


 もちろん、内心では諸手を挙げて『監禁歓迎!』なのだ。

 七緒ちゃんには本当に申し訳ない限りなのだけれど、それでも彼女を不安にさせておかないと、『あ、なんだ。綺花さんって浮気の心配とかなさそうだし、わたしも監禁とかよくないですよね。お互い束縛なく、カジュアルな恋愛を楽しまなきゃ!』みたいに心変わりされてしまうかもしれない。

 悪いのだけれど、私は口では彼女のを重い愛に戸惑う女として振る舞わせてもらう。当然、適度に他の女の影もチラつかせる。自分でも認めよう、悪女だ。そう思ってもらって構わない。悪女になってでも、ヤンデレに重く愛されたいのである。


「そんなこと言って、綺花さんは直ぐまた他の人に色目使うじゃないですか。……でもここならもう安心です。ここに居る限り、綺花さんにはわたしだけですからね」

「七緒ちゃん……っ!」


 思わず、目がハートマークになっていた。ただあくまで気持ち的なものでしかないから、七緒ちゃんには気づかれていないだろう。


「それでは食材などを買ってきますが、おとなしくしていてくださいね」

「七緒ちゃんっ、私お家に帰りたいよぉ」

「ふふ、代わりにプリン買ってきてあげるからお留守番よろしくお願いしますね」

「……ぷ、プリン」


 プリン程度で監禁をチャラにできるというのは、ちょっと虫がいいのではないか。と思いながら、私は部屋に取り残される。


「あっ、待って、七緒ちゃんっ!」


 閉じられたドアを見つめながら、私は戸惑う。

 もちろん、お土産はプリン以外が所望だったからじゃない。


 ――監禁されたはずなのに、私部屋にそのままだけど……大丈夫なの!?


 私は手や足を縛れているわけでもなく、ただベッドに腰掛けたままだ。そんな自由に動ける私を残して、七緒ちゃんはそのままバタンとドアを閉めて出て行ってしまう。

 いやいや、さすがに……そう見えないだけであのドアは外から鍵がかけられるタイプなのだろう。

 女子大生が都内で一人暮らしするのには手堅い感じの、オートロックで小ぎれいなマンションの一室。間取りは多分1DKで、五階建ての最上階というのもまた育ちというか親から手厚い保護があるのを感じさせる。ただこの手のマンションに、中から開けられない類いの鍵がついてるドアって見かけない。DIY的な感じで付けているんだろうか。賃貸でそんなことしていいのかな。

 内開きだったから、外から荷物か何かで開かないようにしているってこともないだろうし。


「……逃げるつもりはないけど、一応ね」


 なにか言い訳するように、私はドアノブに手をのばした。


「え? 嘘でしょ七緒ちゃん……」


 開いた。普通に開いた。そのままキッチンを通り抜けて、の玄関についてしまう。こっちにこそ、なにか細工があるんだろうか。

 錠を捻ると、普通にドアが開いて、マンションの廊下へ出られそうだ。きょろきょろ辺りを見回すが、七緒ちゃんが見張っているみたいなこともない。

 私が履いてきた靴もそのまま玄関に置かれていたので、履いてこのまま出ることも可能だ。


 ――七緒ちゃんっ!! そんなっ、監禁がザル過ぎるよっ!! これ普通に遊びにきた友達を留守番させているのと変わらないよっ!?


  七緒ななおちゃんは小一時間で私が監禁された部屋に帰ってきた。


「ただいまー綺花あやかさんっ」とか「家に帰ると、綺花さんが待っていてくれるなんて、なんだかすごく幸せですねっ」とか……可愛らしいことを言ってくれるのは私も嬉しい限りであるのだけど。


 十分逃げる余裕あったよ? 部屋も玄関も普通に開いてて、私も手脚自由で……え、七緒ちゃん、本当に私のこと監禁する気あったの?


「七緒ちゃん、おかえり」

「はい、お留守番しっかりしてくれた綺花さんにはちゃんとプリン買ってきましたからねっ」

「あのさ、ドア普通に開いてたよね? あれ、出ようと思ったら、私出られたと思うんだけど」

「……へ? 綺花さん、わたしから逃げようとしたんですかっ!? ひどいっ、そんなっ……だってわたし達付き合っていて、わたしこんなに綺花さんのこと好きなのにっ」


 私の言葉に、七緒ちゃんのエコバッグを握った手が震えた。


「えっ、いや逃げようとしたって言うか……逃げようとしたら逃げられたよね? て話で……」

「でも部屋のドア、開けたんですよね?」

「……玄関も普通に内側から鍵開けられるし、靴もそのままだったよね?」

「玄関もっ!! 綺花さん、全然おとなしくお留守番してくれてないじゃないですかっ」


 ――あれ? これ監禁じゃなくて、やっぱりただの留守番だったの?


 いやいや、そんなはずない。ちょっとしたことで浮気を疑われた私は、七緒ちゃんからこの部屋に閉じ込められたのだ。間違いなく重い愛故の監禁である。


「怒りましたよ、わたし」

「もしかしてっ、お仕置き!? そんなっ私、七緒ちゃんに言われたとおりしてたのにっ」


 よしよし、やっぱりヤンデレだ。普通これくらいのことでお仕置きなんてしないもんな。きっと部屋を出ようとするかどうか試していたんだ。うん、監禁がザルだったのは、私の愛を試していたヤンデレ故のあれなんだな。

 きっと重いお仕置きが待っているに違いない。なんだろう、痛い系はあんまり好きじゃないけど……でも愛故なら、私頑張るしっ。


「プリン、実は二種類買ってきてて……こっちはクリームたっぷり載った豪華なやつで、綺花さんにって思って買ってきたんですけど……」

「ぷ、プリン……?」

「やっぱり悪い子な綺花さんにはこっちのノーマルなやつですっ! でも安心してください、そっちもすごく美味しいですからっ。値段も大差ないですし」

「えっ、いやその……お仕置きは……? 安心って?」


 胸のわくわくが、一瞬で冷めていってしまう。

 正直、プリンとかどうでもいい。嫌いってわけじゃないけど、特別好きということもない。

 だいたい――。


「値段一緒なら、最初からクリームのプリン二つでよかったんじゃない?」

「本当は、綺花さんと半分ずつ食べ比べしようかなって思ってたんですよ。それなのに……綺花さんがお留守番できないから……」

「ご、ごめん?」


 ヤンデレと言うより、痴話喧嘩というか……なんか子供の駄々っ子レベルな気がする。ダメだ、こんなんじゃ軽すぎる。私はどこかに浮いていってしまいそうだよ。


「そうじゃなくてね、七緒ちゃん! プリンはいいからちょっと聞いてよっ」


 ヤンデレに愛されるべく、なるべくは流されやすく自己主張少なめだけれど包容力のあるタイプを目指していた。だから本当はこんな風に、はっきりと意見するのは当初の予定ではなかったのだけれど、でも私と七緒ななおちゃんは恋人でお互いのこれからの円満な関係のためにはしっかりと一度話し合う必要がある。


「七緒ちゃんは、私のことが好きなんだよね? それで、私が他の人に浮気しないか心配で、この部屋に監禁してくれ――したんだよね?」

「は、はい。綺花さんのことを疑うのは悪いと思っているんですが……でも、わたしっ」


 よかった、この前提は問題ないらしい。


「あーうん、大丈夫。一旦反省とかはいらないからね。それでね、本題は監禁のことなんだよ」

「え? 監禁の事って……あっ、お手洗いの場所教えてませんでしたか!? ごめんなさいっわたしっ」

「違う違う! いや、それも大事かもだけど……」


 実際、他が完璧な監禁で数時間放置されるとお手洗いの問題は解決しておいてもらわないと困る。ただ今回は全然完璧どころか穴だらけのお留守番だったから、そんな先の話はいい。だいたい部屋数少ないから適当に探しても直ぐ見つかるし。


「ほら見て、七緒ちゃん、私の両手と両足」

「えっと? 手は白くて細い指が可愛いですし、綺花さんの細い脚も頬ずりしたくなるくらい綺麗ですけど?」

「違うっ! ほら、自由でしょ? 好きに手も足も動かせる。これだと部屋から簡単に出られるよね?」

「……そっ、それはそうかもですけどっ!」


 かもじゃなくて、そうでしかない。

 ハッとなにかに気づいた七緒ちゃんは、視線をちょっと気まずげに逸らした。


「も、もしかして普通なにかしらこう、縛っておくべきでしたか?」

「うん、監禁だったら出られない部屋に閉じ込めるか、せめて縛るくらいしないと……」

「で、でもドアはちゃんと閉めましたよっ!」

「いやっ、鍵とかなんもないよね!? そんな戸締まりの話してないよっ」


 でも大丈夫、みたいな顔されても困る。本当にこの子は何も監禁のことをわかっていないのか。


「でも玄関は鍵しましたよ?」

「内側からなら普通に開けられるよね?」

「…………でもほら、オートロックですから」

「だから内側からは関係ないんだって!!」



 頭が痛くなってきそうだった。しかしせっかくできたヤンデレの恋人だ。見捨てるわけにはいかない。私も彼女の重い愛に応えるよう、ヤンデレをしっかり教えないといけない。……いや、ヤンデレというか監禁?

 ちょっと涙目になっている七緒ちゃんを、慰めるように優しい声を出す。


「急だったからね……賃貸だし、そんな閉じ込めるのにちょうどいい部屋とかドアってないよね? それは仕方ないと思うんだ。でもほら、私の靴を隠しておくとかさ、そしたら私も裸足のまま直ぐに外へ出られないってなるでしょ?」

「靴を、隠す……っ!」


 思いも寄らなかった、と七緒ちゃんが手を叩く。もちろんこれは本来は保険のようなものだ。手脚は縛って、ドアに中から開けられない鍵をかけ、それでも万が一のために靴などを隠しておく。これで少しでも逃げられるまでの時間を稼ぐのである。監禁の基本じゃないか。


「あとさ、ベランダも窓普通に開くよね?」

「でも五階ですよ?」

「外とか隣の部屋に助け呼べるから」

「そ、そんなっ……じゃあベランダの窓も……」


 私は、「うん、やっぱり開かないようにしないとだよね」と頷く。しかし本来なら窓のある部屋に監禁というのがそもそも間違っているのだ。やっぱりベストは地下だ。声も外に届きにくくなるし。


「……わたしの監禁はダメダメだったんですね」

「うん、悪いけど、落第だよ」

「それじゃあ……なんで、綺花さんは出て行かなかったんですか? 帰りたいって言っていたのに」

「へ? あっ……それは……」


 熱弁しすぎた私は、()()()な監禁ぶりを説明してしまい、いつでも逃げ出すことができたと七緒ななおちゃんに教えてしまった。

 そうなると、帰りたいと言っていたはずの私がこの部屋に残っていたのがおかしくなってしまう。


「あ、あのそれは……えっと……」

「もしかして、逃げたらわたしに何をされるかわからなくて、怖かったとか?」

「そ、そうっ! 簡単に逃げられるからって、逃げてそれでお終いじゃないからねっ! 身の安全が確保できてないとっ」

「……ふふっ、なんだよかったです。それじゃあわたし、綺花あやかさんの気持ちに応えないとですね」


 七緒ちゃんは、にっこり笑うとキッチンへ向かった。何をするのかと思えば、包丁を片手に、


「綺花さん、わたし頑張りますから」

「ちょっえっ!? それはいきなり頑張りすぎじゃない!?」


 ヤンデレが好きな私も、この流れで包丁の出番は驚きを隠せない。軽く刺されるくらいなら……まあ、一度くらいいいかなとは思っていたけど、もっと段階を踏んで重い愛を噛みしめたいのに。あんなへなちょこ監禁の次に刺されるなんて、そんなジェットコースターじゃ、せっかくのヤンデレが楽しめないよっ!!


「血は苦手なんですけどね」

「あ、あのねっ、臓器のあるところはダメで、そのほらっ、胸とか女性の場合脂肪が楯になるから実は軽く刺す分にはけっこう安全で……」

「む、胸ですか?」

「傷跡とか目立つかもだけど、でもそれも七緒ちゃんの愛の印って思えば……」


 慌てて早口となる私に、七緒ちゃんがきょとんと首をかしげた。


「胸ってどこら辺のことを言うんですか?」

「おおいっ!! そりゃ平均ちょっと下くたいの胸だけど、そんなこと言われるのは違くないっ!?」

「えっ……その……えらの下あたりですか? すみません、本当にわたし魚を捌くの初めてで」

「えら? 魚?」


 今度は私が不思議そうに聞き返す。七緒ちゃんはエコバッグから、ポリビニールに入った一匹の魚を見せる。丸のままのお魚だ。


「それ、捌くの? 包丁で?」

「はい。……綺花さん、お魚好きって聞きましたので」

「え、うん、ありがとう?」


 そういえば、今回の監禁はそもそも昨日のサークルの飲み会で別の女の子――瀬野せのさんとたまたま魚料理で盛り上がっていたことが原因だった。

 しっかり私の話を盗み聞きしていてくれたのか。それに、苦手な魚料理にも挑戦してくれて。


 ――ぶっちゃけ、ちょっと思っていた以上にポンコツでヤンデレ具合が私の好みかって言うとだいぶ怪しい。だけど……。


 そんな七緒ちゃんだけれど、いや、そんな七緒ちゃんだからこそ、余計に愛おしく思えてきた。

 ずっと恋い焦がれていたヤンデレとは違うけれど、七緒ちゃんがこれだけ可愛らしく見えるのは、もしかしたら本当の恋なのかもしれない。


「七緒ちゃん、ありがとうね。私、七緒ちゃんがどんな子でも本当に――」


 ぎこちない手で包丁を握って、魚に向かう七緒ちゃんの背へ私が気持ちを伝えようとした時だ。

 スマホの着信音が鳴る。私のだ。


 ――いや、これもだよね。私も当たり前すぎて触れないで置いたけど、スマホがあると家族や友達、警察にだってすぐ助けを呼べるわけだから、絶対そのままにしちゃダメだって。


 呆れながら画面を見ると、瀬野さんからのメッセージだった。


『綺花ちゃん、昨日はありがとうっ! あたし、ああいう飲み会は初めてで緊張してたんだけど綺花ちゃんのおかげですっごい楽しかったよ。それでね、サークルの人に聞いたんだけど、綺花ちゃん、七緒さんと付き合っているって本当? 七緒さんって、サークルの子だよね? ちょっとお高くとまった感じでさ、ううん、綺花ちゃんの恋人にこんなこと言っちゃダメだよね。でも綺花ちゃんには、あたしみたいなのとの方が上手くいくんじゃないかなって。えっとさ、あたしじゃダメかな? あはは、ごめんね。突然。でもあたし綺花ちゃんのこと、すごく好きになっちゃったし、絶対七緒さんとか、他の人より綺花ちゃんのこと幸せにできるよ。だってあたし、綺花ちゃんのためならなんだってできるもん。好きだよ、綺花ちゃん。ねえ、七緒さんなんかと別れてさ、あたしと付き合おうよ? ねえ? ダメ? あたしじゃダメ? あたし、綺花ちゃんのこと大好きなのに、ダメなのかな。愛してるのに。綺花ちゃんさ、人当たりよくいつも笑っているけど、本当は人付き合いそこまで好きじゃないよね? あたしはわかるんだ、綺花ちゃんのこと。綺花ちゃんは誰か一人にすっごく愛されたら、他の人とかどうでもよくなっちゃうタイプだよね? でしょ? 好きだよ、好き、大好き。好きで好きでたまらないから、あたしとなら上手くいくでしょ? ね? 付き合おう? 七緒さんに別れようって言えない? だったら、あたしが話付けていいよ? うん、そうしよ、それで七緒さんの前であたしと綺花ちゃんの本当の愛を見せてあげよう。うふふ、楽しみだなぁ、綺花ちゃんっ!』


 鼻血が出るかと思った。


「え、綺花さん、どうしました? お料理はその……もう少し時間かかりそうなのでゆっくりしてもらえると……えっと、ここを切ればいいのかな?」

「う、うん。あの私……七緒ちゃんのこと――」


 魚相手に苦戦する彼女を、私はやっぱり――。



   FIN.

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 他にも百合小説をいくつか投稿予定ですので今後ともチェックしていただけますと喜びます!

 11/20に百合長編の書籍も発売予定(下のランキングタグ部分に詳細あります)ですので、こちらも是非のぞいてみてください!!

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