第6話:約束の季節、揺れる想い
夏の光が校庭を容赦なく照らす午後。蝉の鳴き声が波のように押し寄せ、空は限りなく青く、透明だった。
北川颯太は藤原紬と肩を並べて歩いていた。彼の歩幅は少しだけぎこちなく、けれども確かな意志を秘めている。
紬の瞳は太陽のように輝き、颯太を見つめた。
「元気そうに見えるけど、無理してない?」
声は優しく、しかしその裏には強い想いが秘められていた。
颯太は一瞬ためらい、深く息を吸い込んだ。
「うん…少しだけ。でも、君といると不思議と力が湧くんだ」
その言葉には嘘も隠し事もない。だが、体の奥でくすぶる影は消えなかった。
放課後の屋上。夕暮れの風がふたりの髪を揺らす。遠くで蝉の声が消え入りそうに響く。
「ねぇ、颯太」紬が小さく声をかける。
彼は視線を上げ、彼女の瞳をじっと見つめ返した。
「君が話したいこと、いつでも聞くよ」
紬の言葉は、まるで静かな海のように深く、どこまでも広がっていく。
颯太の胸の中に固く閉ざされた扉が、ほんの少しだけ揺れた。恐怖と希望が交錯し、言葉にならない感情が溢れそうになる。
「怖いんだ」静かに告げた彼の声は震えていた。
「何を?」紬は息を呑んだ。
「全部話したら、君を失うかもしれないって」
その言葉の重さが、ふたりの間にひんやりとした空気を漂わせた。
紬はゆっくりと頷き、震える彼の手をそっと握り返す。
「たとえそうなっても、私はここにいる。君のそばに」
その言葉に、颯太の心は初めて安堵の灯を見つけた。どんなに暗い夜でも、必ず朝は来るのだと。
夜の静けさの中、彼は病室の窓から見上げる星空に願いを込める。
「いつか、すべてを話すその日まで。君のために、強く生きる」
夏の終わりを告げる風が窓辺を優しく撫で、二人の物語に新たな1ページを刻んでいた。