第4話:初めての告白とすれ違いの影
春の柔らかな陽光が教室を満たす中、北川颯太はいつもの席に座っていた。窓の外の桜は満開を迎え、淡いピンクの花びらが風に舞っている。しかし、彼の心は晴れやかとは程遠かった。
昨日、紬に話せない秘密の一端を匂わせてしまったことが頭から離れない。彼女の瞳にはまだ何も知らない無垢さが宿っていて、その輝きを守りたいという気持ちが強くなるばかりだった。
放課後、校庭のベンチに紬が待っていた。彼女の顔には昨日より少しだけ緊張と期待が入り混じった表情があった。
「北川くん、話せる?」
声は震えているが、まっすぐ彼を見つめていた。
颯太は深呼吸をしてから頷いた。
「うん、できるだけ…」
紬の目が一瞬だけ潤んだのを見て、彼は胸が締めつけられる思いだった。
「実はね、ずっとあなたのことが好きだった」
紬は小さな声で、しかし確かな言葉を伝えた。
「……ありがとう」
颯太は言葉を探しながらも、心の奥底で熱い感情が静かに芽生えているのを感じていた。
「でも、俺には話せないことがあるんだ」
彼は視線を落とし、声を震わせた。
「何でも話してほしいよ」
紬は言葉を重ね、手を差し伸べる。
「もし話したら、君を傷つけるかもしれない。それが怖いんだ」
颯太の吐露は震えていたが、紬は黙って彼の手を握り返した。
その瞬間、二人の距離は確かに縮まったはずだった。しかし、運命は残酷だった。
翌日、颯太の体調が急に悪化し、学校を早退せざるを得なくなった。紬は何も知らず、心配する間もなく彼の姿は消えてしまう。
彼女の胸にぽっかりと空いた穴と、告げられなかった秘密の重さ。二人の距離はまた遠くなる。
春の終わりが近づく中、颯太は心の中で誓う。
「必ず君に全部話す。その時まで、強くいよう」
風に揺れる桜の花びらは、二人の未来を優しく包み込んでいた。