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第2話:秘密と距離のあいだ

教室の窓から差し込む柔らかな光の中で、北川颯太きたがわ そうたはひとり机に肘をつき、ぼんやりと外を見つめていた。隣の席はいつもと変わらず空いている。あの日、藤原紬ふじわら つむぎに誘われて昼休みを過ごしたあの時間は、まるで遠い夢のようだった。


「おはよう、颯太」

声に振り向くと、悠也が笑いかけてくる。


「おはよう、悠也」

「最近どうだ?体調、まだ変わらないか?」

親友の言葉は優しいが、颯太はいつも心のどこかに隠した秘密の重みで押しつぶされそうになる。


「大丈夫。普通だよ」

そう答えながらも、彼はわずかに目を伏せた。


昼休み。校庭の片隅で颯太はひとり静かに本を読んでいた。風がひと吹きして、桜の花びらがひらひらと舞い落ちる。


突然、背後から声がした。

「北川くん?」

振り返ると、紬が笑顔で立っていた。


「また一人?」

「うん、なんとなく…」

ぎこちなく答える颯太に、紬は少し考え込んだ。


「私も、北川くんと話せて嬉しかったよ。よかったら、また一緒にお昼食べない?」

その笑顔は、まるで太陽のように眩しくて、胸が締めつけられた。


しかし、颯太は迷いがあった。彼女には言えない秘密がある――余命半年という現実。知れば、紬はきっと傷つくだろう。


「ありがとう。でも、今日はちょっと…」

彼の声は震えていた。


紬は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを戻した。

「わかった。またね」

そう言って去っていく後ろ姿を、颯太は無言で見送った。


家に帰ると、母が優しく声をかけてくれた。

「今日も学校はどうだった?」

「普通」

返事は短く、心は疲れていた。


部屋の片隅にある診断書が目に入る。余命半年。数値や検査結果の数字が冷たく並んでいる。


「もう、時間がないんだ…」

呟くように、自分に言い聞かせる。


翌日、学校で紬とすれ違った。彼女は明るく颯太に手を振ったが、彼は視線を逸らした。


秘密が重くのしかかり、距離ができてしまう。だが、紬の存在が彼の心の奥にぽっかりと空いた穴を少しずつ埋めていくことも、颯太は感じていた。


春はまだ続く。だけど、彼の世界は少しずつ変わっていく――。

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