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ふたり8


「あれ、一ノ瀬さんって、その、家はどの辺なの?」


何を話して良いかもわからないし、特に話し掛ける話題もない。だから、つまらない言葉を振ろう。


「んーと、涼くんの家を出て右にまっすぐで学校でしょ?私の家は左側まっすぐ行けば涼くんの家の並びにあるよー、まあ交差点は渡るけど」


「そうだったの!?ごめん、知らなかった」


「まあ、朝会ったことないからねー。遅刻しそうな時以外はいつも涼くんの家の前通ってる」


「そうだったの!?知らなかった、ごめん」


『意味のない会話になった事を後悔するよりも、一緒に帰る事になった過去に後悔しよう、、めんどくさいこの雰囲気と、他人が居ると自分がままならないこの状況は嫌いだ』


「あ!そうだ涼くん!ちょっと聞きたいことがあってね」


緊張が込み上げてる。つまらない会話から始まる突拍子もない会話。いじっていたスマホをしまった君は俺の前。

立ち止まった俺らのつま先は見つめ合ってる。

当然の様に、静かな瞳が瞳を見てる。

これはもしかしたら、本当に告白だったり。

もしそうなら、俺はいったい何をすれば良い?

出遅れすぎている思考だ。言葉が見当たらない。


「な、なに?なんでも言ってよ」


気難しくも無く、気まずさも無い。

ただ遠のいて行く感覚だ。今君を見ている俺は不器用な表情に言葉を任せる。


「もしかして、私のこと好きだったり?」


『期待はずれ。面白くも無い言葉に惑わされることもなく、僕は向かう君を通り越して行く。

顔が熱くなっているのはやっぱりイライラしているからで、言葉を返さない理由は怒りを抑える為だ』


「あのさ。僕も一つだけ一ノ瀬さんに言いたいことがあってさ…」


「なにー?」


君の顔は相変わらず可愛い。でも、君のことなんて何も知らないし。考えだってまとまらないし、『ふたり』がいるから始まるはずの青春や恋愛は皆無で。


「自分の中にさ…もう一人がいるって言ったら…どうする?」


『どうでも良い気持ちはあった。別に君と付き合いたいなんて思っても無い。だけど、多分これだ。

僕の事を知って僕を失望したり。「変な奴だ」と気を遣われるのは嫌いなんだ。有り得ない存在になりすまして人と関わることが嫌いなんだ』


「なにそれ、変なのー」


「まあ、ごめん。別に嫌いでも好きでもないよ」



『ふたり』の声が流れ込んだ瞬間に冷め切ってしまった俺の心はもう楽しくもなくて、君が灰色に見える。


「そっか、涼くんらしいね」


「そうかもね。涼しいでしょ、夏でも」


「涼だけに?」


「そう」


「面白いね」


「ん、帰ろう」


「うん」


『いつの間にか、僕の隣に居る君はこの雰囲気の中で何を考えているんだろうか。歩き始めた僕の隣に居る君は言葉を吐くこともなく、僕の家の前に着いた。最後に早く別れの挨拶でもしてしまおう』


「じゃあ、今日は待ってくれてありがとう。また明日」


「うん、じゃあまた」


『鞄から鍵を取り出して玄関の扉の鍵穴に鍵を挿す。一ノ瀬怜奈はもう通り過ぎていっただろうか、別に振り向く必要もないまま、玄関扉を開けて家へと入る』


「あ、涼くん…んーと、んー?私、信じてみても良いかも、面白そうだし」


振り向きも出来ないこんな状況だ。まだ俺を見ていた君。その君からの言葉。

いつもの様に、気怠そうに言ったそんな言葉はまるで、さっき聴いたくだらない言葉よりも、ずっと心が腫れた。


『僕は振り向く、まだ僕を見ていた一ノ瀬怜奈の瞳を黙って見る。くだらなくは無さそうな会話を始めたい気持ちもある。でも少し怖い。だから、僕は何も言わない。一ノ瀬怜奈も黙っている。もう一度、振り向いた僕。黙り込んだまま、家に入った』


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