ふたり53
「くっ、くるしいです…」
「だいじょぶ、わたしは苦しくない」
君のおでこと僕のおでこ。くっついてる…!
だからなんだ。なにか、面白いことか?それとも…。
あっ、冷たさだ。
「もういいよ、離れて…」
呼吸が無意識に戻ってくる。虚になっていく瞼を感じる。『ふたり』の声なんてしないのに、邪魔なんて一切なかった。なのに、俺は君への興味を切る。
「あれえ、襲わないんだあ?『ふたり』くんも黙ってるんでしょ?チャンスじゃない?」
「そうかもねッ」
「うわあ!おっ、だいたんだねえー」
君を押し倒す。にやけている君の顔。僕を揶揄っているのか、それとも嘲笑っているのか。
どうしたって、この状況から俺の思考回路はなにも期待していない。
ベットに倒れ込む君から離れても、なにをしても興味が尽きてる。
意識ははっきりしているのに、何者にも変えられない俺という存在に優越感はない。ただ、鬱陶しさと、虚無感を感じる。
「そろそろ、帰ろうかな。我慢できなくなりそう…」
「あーあ、もう誘ってあげないから」
「それは、ちょっとこまるなあ…」
「じゃあわたしも、新しい小説でも読むとしますかああーあ!涼くん、明日から夏休みだけど。昼夜逆転生活には気を付けなきゃだぜっ」
「うん、気をつけるぜ…」
情緒の乱れる君の部屋を後に、俺はひとり歩いて帰っている。
『ふたり』は呼んでも反応を見せない。何かおかしい。確かに喧嘩もしたし、左手のことも謝ってないけど。そんなことは昔からのことで、今更なことだ。
左手も、別に大したことでもない…はずだ。
「『ふたり』?左手のことなんだけど。今になって後悔してる気分だよ…そのっ。悪かった。もうしないから…俺だって痛いの嫌いだし、血とかも苦手だし」
おい、そんなこと言ったって。許すわけないだろ。
命乞いをしろ。僕はお前と違って暇じゃないんだ。
そんな言葉が返ってきそうだ。
でも、『ふたり』からの応答はなかった。




