ふたり52
『君が食器を洗っている。その食器を僕が拭いて棚に片付ける。普段母さんの手伝いもしないくせに、この時ばかりは礼儀を重んじればいいと言う短絡的な行動。短絡的な行動…。
片付けも終われば、君が僕の手を引いた』
「わたしの部屋、案内するね」
「ちょっと、手は離してくれ。歩けるよ」
「駄目だよ、涼くんすぐ逃げるし、すぐ寝ちゃうから」
「逃げないし眠くないから」
『文句を言っている間に、二階を登って君の部屋の前。僕の部屋とまったく同じネームプレート。これは、最近買ったやつ?新しい気もする』
「みて、同じやつでしょ?」
「ほんとだ、わざわざお揃いにしたんだね」
「んー、涼くんのお母さんの趣味が良いから。気に入っちゃったの、これ」
「この家には似合わない安物って感じだけどね…」
「まーたそんなつまんないこと言ってえ、まあ入ろ!」
『手を繋がれたままに君の部屋。白にほんのり薄いピンク。大きなベットに、勉強机もしっかりとした作り。収納スペースも多くて…。1番目が引くのは…』
「本棚っ、すげえ…」
「でしょっ、本はいっぱい読んだの」
『いち、にー、さん、しー、ごー。列、五段。横幅は君の部屋のベットよりもある。そんな本棚にぎっしり…。この本棚にある本が身体にのしかかってきたら…。なんだか狂気を感じる』
「前に図書室で借りたやつ。読み終わったばっかりだったけど。文字見るのは結構疲れるんだよなあ…」
「私は、基本的に暇だからねえ。まあここ、座ってよ」
『ベットに腰掛けた君に言われるがまま。本棚から君の隣へと向かう。そして、この本棚の匂いと、いつもの君の匂いに意識がおとなしい』
いや、はっきりしてる。感覚と感情が静かなんだ。
冷静な感じか、違うな。これは、気分が良いというか、安堵…?
「おっ!ふっかふかだ」
「凄いでしょ、でも。やっぱり広すぎるんだよね」
「で、でもさ!広ければ寝返りうっても落ちないじゃん、それに熟睡できそうなふわふわ感。いいなあ」
「涼くん?なんか元気そうだねえ」
「そうかな、なんだろう。初めて人の部屋入ったし、こんな広い部屋見たことなかったからかな?気分上々って感じ」
「じゃあ、この部屋はひとりだと寂しいから。毎日でも呼ぼうかなあ…」
「じゃあ暇な時に進藤と吉田も…」
「それは嫌かも、なんかうるさくなりそうだし」
「あっ、、そうだね。確かにそうかもね…」
なんか素っ気ない君。
それより、『ふたり』がしゃべらない。
この部屋に面食らってんのか?
なにか、君と話したいことってなんだ?
そうだなあ、やっぱり旅行のことでも、話そう。
いや、この部屋の内装をもう少し落ち着いて見てみようかな。
例えば、化粧台。あれは僕の部屋にはないし、そもそも女の子の部屋にしかないのか。いや、最近は男も化粧をしたりするのか。
「涼くん?今『ふたり』くんはどうしてるの?」
「ああ?今は、なんか黙ってる。緊張してんのかな」
「そう、残念だなあ。本のこととか話したかった。あと『ふたり』くんのこともしっかり教えて欲しかったのに」
「本の話は『ふたり』がしたいだろうし、『ふたり』のことって言ってもなあ…。前言った通りのことしかないからなあ。あっ、夏休みに行く場所。決まりそうなんだけどさ!」
「うん…どこ?」
波ひとつ立たない感情。自然的な、感覚。
スマホを取り出す手のひら。君と肩がついた俺の肩。前に調べていた場所を君と見る。
「山って言ってたけどさ。この辺なら川辺で遊べるしさ、夜になると近くの公園でさ、ほらっ!運良ければ蛍が見れるって有名でさ」
「ほおー!いいもね…景色もいいし。ここにしよっ」
「えっ、ほんとにここでいいの?なんか、怜奈から提案があれば考えるけど。これだと僕が楽しんでるだけじゃないかな?」
「ううん、いいの。涼くんと一緒なら別にね…」
「そっかあ、じゃあ。一応…ホテルとか予約取っとくけど。保護者の同意書あれば泊まれるらしいし、母さんにはこのこと言っちゃうけど、いいよね。もし変更したかったら言って。また話し合お」
「うん、わかったあ」
スマホも触らずに俺と話してる君。
意識してしまうのは心に余裕があるから。君は、こんなにも綺麗だったか?もっと、冷たく感じたけれど、今は暖かい。
それと…。
なんだっけ…。
「涼くん、気分はどう?」
「えっ?ああ。気分はいいよ。やっぱり眠くない」
「そっ、じゃあ…。するっ?」
「なに…。って、馬鹿なんじゃん?」
「馬鹿だけど、涼くんよりは頭いいよ」
「じゃあ賢くない、って言った方がいいかもね」
「賢くはないかもね、こんな生きかた…」
うわっ、君の腕が首に回ってる。君の目も鼻も口も正面。随分と近い…。
これは、ほんとに駄目な奴…だ。なのに、逃げたくはない…。




