ふたり51
「どお?美味しいでしょ?」
『スプーンで一口。これはなんと言えばいい。どうしようもないくらいに美味しい。何か特別な調味料でも?そう思ったけれど、今僕は空腹だから。ただそれだけの事かもしれない』
「めちゃくちゃおいひい、です」
「うふふっ。よかったわねー、れいなあ」
「まずい、なんて言ったらぶっ飛ばしてるよ」
『おばさんがドアの方へと目を向けたので、僕もドアへと目をやれば君が既にリビングまで帰って来ていた。それに…』
「れいな、ほんとに美味しい。あとその服、似合ってる」
「あらー、私はお邪魔見たいなので、おいとまおいとまっ」
「ばっちゃん、ここに居てもいいのに」
「いいのよお、ちょうどお買い物考えてたから」
『おばさんが居なくなったリビング、そっと僕の隣に座った君。部屋着姿の君。薄いピンクのTシャツに黒の半ズボン』
そう言えば、俺はいつもの服装だ。
夜歩く時と変わらないこの服。真っ黒だなあ。
「おっ、うまあいね。我ながらにって奴だ」
「うん、めっちゃおいしい」
「それよりさ、その手。なにしたの?」
「ん、?転んだ時に偶然そこにあった枝が刺さっただけ」
「いたい?」
『痛い、凄く痛いよ』
「『ふたり』は痛いって言ってるけど、僕はもう。そんな痛くないかな…」
「そう、見せてよその傷」
「えっ?なんでよ。膿んでるかもしれないから嫌だよ」
「そっかあ、じゃあ治ってきたら見せてね」
「そんなに見たいなら…。別にいいけどさあ。また今度ね…」
別に面白いことでもないのに、やけに突っかかってくる君にはうんざりする。まあ、オムライスが美味しいから許せる。
『一ノ瀬怜奈。だんだん僕のことを理解してくれてる気がしてる。ただ、僕が正直にならなければ正解に近づくことなんてできない。自分で選んだ道に後悔している僕はいったい何者だ』
「ばっちゃん、優しい人でしょ?」
「うん、優しそうだね。まあ、あんまり話してないし、よく分からないけど」
「じゃあなんで私のこともっと知ろうとしてくれないの?」
がたんっ…。
『君からの圧力。オムライスを食べていた僕の口を君の両手が窄ませる。そして、唐突に起きた君の行動と、準備のできていなかった僕の心の距離は思う存分に近かった』
「いどぅい、ふぬすとぅ」
「私のことどう思ってる?偽ってるから信じられない?」
「すんなくとぅない、すんずぅとぅむぬう」
「なに?なんて言ってんの?」
「はっ!離してくれえ」
「それは私のセリフだよ」
「ちがう、手を離してってこと」
「そゆことか。んじゃあ、はやくいってよ」
『君の手から離れる。そして、君の質問を僕は考えている。どう話せば納得してくれるんだろう。いや、どう言っても理解できないのかもしれない』
「僕は、怜奈が偽ってるからって嫌いにはならないけど、距離感がわからなくなるだけ。逆に他人を信じてないのに、自分だけ信じてもらおうなんて、それって欺瞞だ」
「んー、そっかあ。確かにそうかもね」
「伝わった?別に怜奈の考えを否定してるわけじゃなくて、結構考えてるよ。それに、肯定してるつもり」
「私ね。偽りだとかなんだとかさ、あんなこと言って、もう涼くんに嫌われたのかと思ってたから。はっきり言ってくれて、ありがとう」
「いや、僕こそ。不器用でごめん」
『白けた雰囲気。オムライスも残り少なくて、もう味もわからないくらいに真っ赤なケチャップの量』
「涼くんらしいね…嫌いじゃないぞっ」
「なんだよそれ…」
ごちそうさまでした…。




