ふたり49
今日はもう夏休み前最後の学校。午前中だけ。
行く意味もない。行ったところで面倒ごとが増えるだけ。この眠さの邪魔になるだけ。そう思いながら、もうそろそろ学校も終わり、下校の時間になるはずだから。
この病院から学校への反対の道。君の家とも僕の家とも反対の道。まだ知らないこの道を歩こう。
『おい、落ち着いてねえな。ズル休みして気まずくなってるだけなら3人から届いてるメールをみてもいいんじゃないのか?なんで見ない?後悔するからか?』
「違う、めんどくさい事を考えたくない」
『解決にならないまま、その後悔もわからないまま歩き続けたって、知らないままだった後悔に追い付かれるだけだ。それに、学校とは逆方向に行く理由を、「知らない道だから」なんて浅はかな考えで自分を測るな。お前はただ逃げてるだ。それと、逃げている自分自身を見ようとしてないだけ。そんな奴が新しい道なんて通っていい訳ないだろ。やっぱり、身体のある奴の考えはよく分からないな』
「手のひら。いたいなあ…」
『だまれ、死ね』
…。
『この道も結局知ってる道。戻ってきてしまったこの道。さっきまではまだ通ったこともない道だった。でも、隣の道に潜れば、そこはもう知ってる道』
「なにしてんだろ、帰って寝よう」
『憂鬱な空色。蒸し暑くて制服を脱ぎ白のワイシャツ。腕を捲ってこもった暑さを逃す。それにしても、どうして制服を着ているんだっけ?』
「偶然だ。それに、手の怪我くらいで休んでたら、病院の先生にも怪しまれると思ったし。あの先生、俺の通ってる学校知ってるし。連絡されたら困る」
『なにを怪しまれる?精神病とか?うつ病とかだったら問題があるのか?困ることなんてないだろう、事実が一つ、理解できるんだからさ』
「はあ?まったくだ。身体のない奴の思考はわからねえ」
「りょーーーーーくん?」
『こんな時に?このタイミングで?君と言う奴はどこまでも邪魔だ。前からくる君の足取り。静かでつまらなそうで』
「あれ、見つかったか…」
「だってえ、ここ帰り道だもん。今日はズル休み?」
「帰り道って…もう学校終わってから結構経つし、まあいいや。今日はズル休みしちゃった。あと、昨日はごめん、寝ちゃって」
「ううん、昨日のことはね。別に、怒ってないよ。だけど、今日私がメール送ったの無視してるよね?」
「それは気づかなかった。ごめん」
「そっかあ。まあまた何かあったら連絡するから、明日から夏休みだしいっぱい寝れるねえ」
『通り過ぎてく君。僕はそんな君の姿も追わずに僕の家へと帰る足取り。君を怒らせてしまったことに後悔するのではなく、君を怒らせた原因が誰にあるのかを理解しているだろうか』
『ふたり』の言葉ひとつひとつがうるさくて邪魔な感じ。ただ、この夕焼けと今の僕の立場的には、『ふたり』のそんな嫌味な言葉が似合いすぎている俺。
「はいはい、俺が悪いですよ…」
「あっ、涼くん。その手は?」
「別に、なんでもない…」
「私の家、来てよ。昨日のお礼ってわけじゃないけど。どうせ暇ならさっ」
『君の声に足を止めた僕。また近づいてくる君の声と同時、君が僕の背中に鞄をぶつけた』
「んん、怜奈が良ければ。行きたいかも」
「わかったあ。じゃあ、また連絡するから」
「うん…」
『暑い。一度帰れることに安堵して、家に帰って君からの連絡を待つ時間、シャワーを浴びて眠気も覚ます。なんだか、誰かに操られている様で、君といる時間も灰色に変わっている気がする。なにを押し込めたいのかはわからないけど、感情や一種の理性を灰色にしなくちゃいけない気がする』
「『ふたり』、俺はお前が嫌いで。お前は俺が嫌い。それでいいんだろ?」
自分ってなんだろう。
俺って、どこに居るんだろう。
ひとり。寂しい。寒い。静か。




