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ふたり35


 夜の匂いは相変わらず。夜の風も相変わらず。

静かなはずの足音はいつも通りではない。それは君がいるから。

いや、なんで小説みたいに考えてんだ。現実逃避か?


「ねえ、いきなりなんの用だったの?連絡手段あるよね?メールとかさ、交換してなかったっけ?」


『夜、ひとりで何度も歩いたこの道。学校とは反対の道。これは、君の家へと向かう道だろう。そんな道で、君を横目に僕の質問攻め。なんとなくの疑問を吐いている』


「あれ、怒ってる?」


「怒ってないよー、呆れただけ。別に、なんだって良いけどさ」


「あーあ、怒っちゃったあ」


『怒っていないと言い切ったのに、僕を決めつけるかの様に嘲笑う君の言葉と表情。僕も怒ってなんてなかった。呆れただけで、イラついていたわけじゃなかった。ただ、何者かに腹が立っている』


「メール、ほらっ。わかる?」


空回りだ。苛ついてなんかない。これは恥ずかしさと苦しさが同時に込み上げた感情だ。そんな単純な感情を『怒り』と勘違いしてるだけだ。

そうだ、落ち着けって俺。そうだ。これは、空回りだ。


「メール、今度からそうする」


「いや…ごめん。怒ってないよ。ちょっと苛ついてただけで」


「おこってるじゃん…」


「冗談だよ。うわー、でも恥ずかしかったんだよー、本当に恥ずかしかった!」


『大丈夫そうだ。いつもの僕ら。何も湧き上がらない感情を理解した後、君に冗談を言う。そして生ぬるい温度を感じながら夜の空を見上げる。そして、本当の恥ずかしさを誤魔化す為、自分の感情を素直に口にした』


落ち着いた。もうこれ以上、俺は悪化しない。

感情も、状況も。


「恥ずかしがらなくてもいいじゃん。家庭はそれぞれだし大丈夫だよ、私は結構そーゆーの慣れてるし」


「え?どーゆーこと?」


『星を数えながら君の話を聞く。大した会話が生まれる訳でもなさそうだから、暇潰しにはもってこいだ』


「私、養子だから。それに、前の家族ふたりは牢屋か逃亡か、わかんない」


『星の数を数え切れてしまうほど、真っ暗な空。そして、つまらなくもない君の言葉。僕の目は、夜空そっちのけで君の顔を捉えていた』


「な、なにそれ。知らなかった、ごめん。変なこと言わせちゃって」


「ううん、ちょっと話したくなったから。それが涼くんの家に来た理由かな…」


『面白そうな会話だ。退屈ではない。ただ、盛り上がってはいけない会話であることも従順に理解している』


めちゃくちゃ大事な用事だった…。おちゃらけて家に来た訳じゃないのか。なのに、なんで俺はあんなこと言っちゃったんだ。いや、これは喧嘩なのか?


「そうだったんだ、ありがとう。でもなんで僕にそんなこと教えるの?」


「だって、私のこと知りたいって。言ってくれたから」


「そりゃ、そうだけど…」


『そんな話をいったいどれ程まで深ぼれば良いのかわからない。彼氏としてどこまで他人事の様に話を進めれば良いかもわからない』


『ふたり』の言う通りだ。突然そんなことを教えてくれたとしても。この話の内容が、信頼の外にある気がする。


「大丈夫だよ、私は涼くんになんて思われても、なんて言われても怒らないよー」


「やめてくれ、掘り返さないでくれ。べつに怒ってないし」


ふふっ、


ひとつ。軽く笑う君に救われた気がした。


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