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小旅行

作者: 土猫

 タバコと缶ビール、適当な菓子パンと適当なジュースを買った。財布の中にはありったけの金。僅かな幸福感が去来する。レジから外を見ると若干の雪。少し億劫になってため息をつく。


 車に戻ると、車内はかけっぱなしの空調のせいでむしろ暑い。上着を助手席に投げる。カーステレオからは、顔も知らないアナウンサーの淡々とニュースを読み上げる声。ロボットみたいだと鼻で笑った。


***


 シートベルトを締め、車を発信させる。次第にさっきのコンビニも遠ざかり、建物も減っていく。深夜のコンビニは目に悪いと常々思う。コンビニの眩い灯りに慣れた目は、暗闇に慣れるまでに少々の時間を要した。

 すれ違う車は少ない。当然だ。こんな真夜中にわざわざ車を走らせる人間なんてそうはいない。幸い雪は少ない。この調子なら積もり始める前に目的地に着けるだろうか。

 しばらくして、高速道路に乗る。そろそろ疲れてきた。次の休憩所で休もう。時計は三時半を示していた。


 暖房に慣れきった体に外の空気の冷たさは暴力的だ。

 タバコに火をつけて一服する。正直なところタバコの味は好きじゃなかった。なんで吸っているのか自分でもよく分からない。


「…なんでかなぁ」


 こぼした言葉は訳も分からずタバコを吸っている自分に対するものか。はたまた現状に対する不満だったか。

 煙の行末に星空は無い。

 吸殻を灰皿に突っ込んで、運転席に座り直す。


***


 だんだんに陽が登って、夜が明ける。

 雪は止んで、あまり積もっていない。

 早朝独特の空気感が好きだ。静まり返った空間。まるで世界に自分一人になったかのよう。僅かに希望を抱ける瞬間だった。


 昼を過ぎるとすれ違う車も増えてきた。

 そういえば今日は休日か。曜日なんて気にしなくなって久しい。子供の頃は、休日になるとどこかに連れて行けとよく親にねだったものだ。


 休憩所に入り、昼飯がてら菓子パンをジュースで流し込む。足りないような気がしたけど、徹夜の反動か。胃がこれ以上のものを受け付けなかった。


***


 高速道路を降りると、また雲がかかって天気が怪しくなってきた。まぁ、この調子ならすぐ着くだろう。


 山道かつ、住民も少ない田舎だからか。車を運転するのは老人ばかり。少々心配になってしまう。


 そうこうしているうちに目的地に到着する。

 景色が良いと評判の展望台。

 なるほど、確かに壮観だ。けれど、それ以上でも以下でもない。きっと日本中どこにでもある絶景。当たり障りのない観光地。

 抱く感想はその程度。自分の心が乾いていないことを祈るばかりだ。


 缶ビールを開けて、一口飲む。

 まずい。こんなものをありがたがって飲むような人間はどうかしてる。

 缶をひっくり返して残りのビールを崖の底に捨てた。

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