72.英雄の軌跡
「……私に、魔物退治を?」
「ええ、最近アクアリア周辺では魔物が大量に発生していまして……」
「…分かった、引き受けよう」
「本当ですか!?ありがとうございます!ユグナ様なら安心ですね!」
その言葉には何も返さず、私は依頼の紙を貰って冒険者組合から出た。
世界全体に、毒の魔力を振り撒いていた魔物を倒したとはいえ、まだまだ平和な世の中にはならないらしい。
そう言えば……王都に戻った時、ヴェルノアールらしき魔力反応を見つけたが、数日後に居なくなってしまっていた。
あれは本当にヴェルノアールだったのか、それとも似た人物だっただけなのか。
今となっては知る由もない。ただ、心の何処かで気に掛かっていた。
「…まぁ、運の悪さには自信があるが」
はは、と渇いた笑みを溢す。もしかしたら、もう倒されてしまっているのでは──なんて。少しだけ考えて、その考えを振り払った。
あの竜が、そう簡単に倒されるとは思えない。
そう思いながら、簡単に準備を整える。薬瓶、包帯、それと僅かな調味料。食材自体は現地調達で構わないから、それぐらいしか揃えなかった。
「おや、ユグナ様。今度はどちらへ?」
突然後ろからそう話しかけられて、思わず振り返る。
そこには、良くも悪くも私の苦手な人種がいた。
「……アクアリア周辺で、魔物討伐だ」
「成程成程、しかし遠いでしょう。私どもの馬車に乗って行かれては?」
「…結構。貴殿らに世話になる程の遠さでもない」
「……そうですか」
こいつは──否、こいつの属す集団は、人身売買を生業としている。
……私を売ろうとしている魂胆が丸わかりだ。元々私の種族は、嘘や真意を見抜くのに優れている。
思わぬ妨害に、盛大に気分を害されたが──まぁ良い。
「さて、出発するとしよう」
♢♢♢
風系統の魔法で身体能力を強化し、光系統の魔法で体力を回復させる。その為、長距離の移動も難なくこなす事が出来ている。
魔力の消費が激しいので、常人には出来ないとされているが、生憎私には時間しかなかった。故に魔力量だけは、誇れるものの一つで。
まぁ言わずもがな、もう一つはこの剣、『聖剣エルノヴァ』だが。
「……しかし、もうすぐアクアリア近辺に到着するが……。おかしいな、魔物の気配が全くない」
嘘を吐かれた?いや、その空気は全く無かった。となると……
……あたりの魔物が逃げ出すほどの、上位存在がいる?
一度私は立ち止まって、あたりの気配を探る。魔力濃度が濃すぎる存在が二体ほど付近にいるが、それはあまり関係なさそうだ。
ただ……。変な魔力の構成をしている奴がいるな。無理やり二色を混ぜ合わせたような、しかしそれでも、しっかりと馴染んでいる。
「……あぁ、竜化を克服した者がいるのか」
時折見かけるそういった人たちは、決まって不思議な魔力構成をしていた。今感知したような、魔力の混ざり方を。
ふむ。ではこの近辺に元凶となる魔物はいないか。
そう考えた私は、早々にその場を立ち去り、アクアリアの街へと向かったのだった。
♢♢♢
「えっ!?魔物がいなかった!?」
「あぁ…全くな」
「おかしいですね……つい先日も魔物に襲われた行商人がいたのですが……」
「……」
「あ!ユグナ様、よければ調査して下さいませんか?追加報酬もお支払い致しますので!」
「………了解した」
手渡された依頼書を眺めながら、私は思わず溜息を吐いた。
理解していたことではある、が。面倒だ。
調査系の依頼は、私には向いていない。まず、見た目が目立つ。金髪碧眼なんて、目立つ以外の何者でも無い。
「……情報収集、しかないだろうな」
また溜息が一つ、星が瞬くような夜空に消えていったのだった。




