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世界最強の竜、子育て始めました!?  作者: 蒼空花
第四章「英雄は世界に愛を乞う」

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70.アクアリアへの旅路


「あぁ〜…疲れたぁ」

「ちょっと見ないうちに体力落ちたな、グリュン」

「うぅ……だって!ずっと部屋の中に閉じ込められてたんだもん!」

「っはは、まぁそうだな、仕方無いか」

「これからちゃんと戻すから!ちょっと待ってて!」

「あぁ、いつまでも待ってる」


 ねぇ!というグリュンの抗議の声を聞きながら、再び俺は笑う。快晴すぎるぐらいの空の下。アクアリアへの旅路を、俺たちは二人並んで歩いていた。

 ルクリーヴァが教えてくれた街道に沿って歩くこと数日。順調に街へと近づいていっているように思う。付近に流れている川の流れは澄んでいて綺麗で、空気も濁ることなく涼やかだった。


「……?近くにヴェルと似た気配がする」

「え、分かるのか?」

「うん、何となくだけど……魔力とか、雰囲気?が、似てるの」

「……まぁグリュンには隠す必要がないから言うが……今から向かうアクアリアには、俺の妹……水の元素竜『スルアヴェラ』がいる」

「っ!どんな人?」

 

 キラキラとした眼差しで問われ、思わず息を詰める。

 脳内に浮かぶ水色のボブカットに緩いパーマが掛かった彼女は、無邪気な笑顔を向けているが、その口から発される言葉が外見とは全く似つかわないことを知っている。

 あー……と思わず口籠ると、グリュンは小さく首を傾げて。それでも俺の意思を感じ取ったのか、出会ってからのお楽しみだよね!と言ってくれた。良い子だ、本当に。


「じゃあその子に会う感じ?」

「いや……別に会いたい訳でもないんだ、俺が」

「え?じゃあ何でその子がいるの?ヴェルが会う約束したんじゃなくて?」

「……アクアリアはネーヴェと同じく、水の元素竜を崇める街だからだ」

「…………………なるほど。理解しました」


 少しの苦々しさを含んだ声で、グリュンはそう言った。

 ネーヴェでの出来事が、決して悪い思い出だったかと言うと、そうでもないのだが、良い思い出だったと胸を張るには、少しばかり大変過ぎたと言える。


「えー?仲良く出来るかなぁ」

「どう……だろうな、ちょっとグリュンには合わない性格かもしれないな」

「そ、そんなに?」

「……まぁ、警戒する必要は無いぞ。多分」

「多分ってなに!?」


 えっ、と挙動不審になるグリュンに思わず笑ってしまう。そこまで警戒しなくても。命を狙いに来る訳では無いのだから。

 そんな風に会話をしながら街道を歩いていると、盗賊が現れたのでグリュンが処理した。本当に頑張って体力を戻すつもりらしい。ただ、あまりにも弱かったのか、準備運動にもならなかったようだ。


「………分かった!ヴェルと手合わせ」

「却下だ。今のグリュンと戦ったらとんでもない事になる」

「えぇー……駄目?ちょっと周りがぼろぼろになるぐらいじゃない?」

「それが駄目なんだ……」


 『ちょっと周りが』では無いのだ、俺たちは。

 そろそろグリュンは自分の力を知った方が良いかもしれない。ふっ、と息を吐いたら国一つ滅んでましたとか、洒落にならない。

 そんな事を考えながら歩いていると、突然ピタ、とグリュンが立ち止まる。

 思わずどうした?と問うと、小さく返事が返ってきて。


「……誰か、走ってくる?」

「え、誰が──っ、うわっ!?」

「ヴェル!?」


 何日か前にくらったような腹への頭突き。最近のトレンドなのだろうか。

 しかもグリュンと違ってそこそこの威力があって、地味に痛い。思わず対物理障壁を張ってしまった。

 誰だ?と思って下を見ると、見覚えのある水色頭。

 ………もしかして、こいつは。


「スルアヴェラ……」

「っお兄ちゃん!久しぶりに会えた!ボク会いたかったんだよ?」

「そ、うか……元気にしてたか?」

「うん!お兄ちゃんの言った通りに!で………それ、誰?」

「え、俺?グリュンだけど」

「………何でお前がお兄ちゃんの力持ってんのさ!?」


 ひゅっ、と辺りの温度が下がる。あ、まずい。これは……広範囲魔法の詠唱中だ。

 その声は、澄みきった泉のように空気を震わせ、魔法を編んでいく。俺は慌ててグリュンを背に庇い、スルアヴェラの周りに障壁を張って、辺りに被害が及ばないようにする。

「──ッ、『大海溝』!」

 その刹那──大量の水が、スルアヴェラを中心にして弾け飛んだ。


「な……なにこの人!?」

「……スルアヴェラ。一応俺の妹。なんだが……ちょっと癖がある」

「ちょっとじゃないよね!?大分だよね!?」

「……ボクに対して生意気なんだけど。お兄ちゃんの何?お前は」

「……息子ですけど。ヴェルは俺のお父さん」

「────は?」


 バチバチに睨み合う二人の間に挟まれた俺は、思わず頭を抱えた。

 だから、こうなりそうだったから、行かなかったのに……。

 脳内でルクリーヴァが笑う。腹立たしいほどに美しい笑顔だった。


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