68.新たな旅立ち
「……もう行くのかしら?」
「あぁ。それでも長く居させてもらったと思うぞ?」
「一週間は短いわ。私達、何年単位で生きてると思ってるの?」
「はは……それもそうだな」
ちなみにグリュンは、色々な人に挨拶回りをしに行った。迷惑をかけたし、お世話になったから、だそうだ。良い子すぎる。
少し暇だったので、城の門の前にもたれかかっているルクリーヴァに、どこかお薦めの場所はないかと聞いてみた。すると、少しだけ考えた後、こう言った。
「……それなら水の都『アクアリア』はどう?水が綺麗だし、建物も比較的最近の技術で見応えがあるでしょうね。あぁ、あと……スルアヴェラが会いたがってたわ」
「あいつか……。良い子なんだが、癖があるんだよな」
「そう言わずに。そう遠くないんだから、少しだけでも会ってあげたらどう?」
「……考えとく」
そんな会話をしていると、グリュンとウァラメールが並んで向かってくる。髪色も目の色も、二人揃ってそっくりで。あの光景こそ、本当の『親子』なのかもしれない。
……なんて、当たり前か。
俺は育ての親で、血が繋がっているわけでもない。分かっているが、それでも今まで成長を見守ってきた立場からすると、少し悲しいところもある。
「……ヴェル?どうしたの?」
「いや、何でもない。それより挨拶は済ませたのか?」
「うん!……あ、そういえば俺のお母さんを名乗る人、居なかったな」
「───……?待て。グリュンの母…つまり我の妻は、数年前に病気で亡くなっている。出会うはずがないのだが?」
「……えっ」
すさささ、と素早く俺の後ろに回り込むグリュン。まぁそうだよな、唐突に怪談が始まった、みたいな感じだったからな。
ひぇ…と小さく呟くグリュンを見て、ウァラメールも少し悩むような表情を見せる。
嘘をついているとは考えにくい。それならば、グリュンの母親を名乗る不審者の可能性が高い──そう考えているのだろう。
正直、めちゃくちゃ気になる、が。俺にはとやかく言う権利も何もないので、ここはウァラメールと、ルクリーヴァに任せておこう。
「……あれ?そういえば何でルクリーヴァはここにいるんだ?」
「本当に今更ね。……まぁ、気まぐれかしら」
「気まぐれ?」
「………………」
もう何も言わない、とばかりに視線を逸らされる。それをされたら追求できないが、ルクリーヴァにも考えがあるのだろうと結論づけた。
「それじゃあ……ウァラメール様、ルクリーヴァさん!また帰ってくるね!」
「──ああ、いつでも帰ってこい」
「もしヴェルノアールと喧嘩したら、私が何とかしてあげるから。相談して頂戴ね」
「ルクリーヴァ、喧嘩する前提なのはやめて欲しいんだが……」
最後にグリュンが元気に手を振って、俺たちは歩き始めた。
長いようで短かった、三日間。考えうる最悪の結末ではなく、一番平和に終わった結末。
それを感謝するべき相手を俺は崇拝していないが、それでもほんの少しだけ、神とやらに感謝したいと思った。しないけれど。
「ねぇヴェル、次はどこ行くの?」
「ん?そうだな……ルクリーヴァが言っていた、『アクアリア』に行ってみようか、と」
「……!もしかして水が綺麗なところ?」
「そうらしいが……知っているのか?」
「うん!前にね、ルークが綺麗な場所なんだって言ってた!」
「あぁ……あの子供か」
いつの間にかグリュンと仲良くなっていた、最初の街の子供。強くなりたいと言って特訓していたが……。そういえばあれからどうなったのだろうか。
まぁ俺もグリュンも知る由はない、か。
「じゃあそこで良いか?」
「うん!」
二人並んで、次の旅の計画を話す。変わらない光景で、俺が守りたい光景。
ずっと続けば良いとは、言わないけれど。
それでもせめて……もう少しだけ、もう少しだけは。
このまま過ごせたら良いと、思ったのだった。




