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世界最強の竜、子育て始めました!?  作者: 蒼空花
第三章「継承」

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62.希望を胸に


 ──時は少し遡って、ヴェルノアールが城に潜入する少し前。

 グリュンの部屋に、珍しくルクリーヴァが訪れていた。


「ユーフェリア様、少し良いかしら」

「……別に良いけど、『様』も要らない。だってヴェルと一緒なんでしょ?」

「それは……まぁそうなんですけれど」


 煮え切らない言い方をした白金の髪の人に、思わず俺は首を傾げた。どうしたんだろう、いつもはこんなに柔らかい雰囲気を持っていない。

 その時あれ?と思う。今日は珍しく水色がいない。大概隣に居たりするのに。


「……グリュン」

「っ!?何で、その名前……?」


 そんな俺の戸惑いは受け取られないまま、ふわり、と白金の髪の人は俺に対してお辞儀をした。優雅で綺麗としか言いようのないその姿に、俺は思わず少し後ずさる。

 ヴェルもそうだけれど、美人が丁寧なことをしていると怖い。例えるならそう、怒られる前のような。

 しかし、そんな俺の考えとは違った言葉を言った。


「先ずは貴方に感謝を──我が弟、ヴェルノアールを救って下さった事に」

「へ……?」

「あの子はずっと……ずっと一人で生きていたんです。だからあんな風に、誰かを護ろうとしているのが、嬉しくて……」

「ま、待ってっ!?どうして……?貴女は俺の、敵じゃないの?」


 俺とヴェルを引き離したのは、間違いなくこの人……と、後あの水色で。それだから余計に、今言ったことが理解できなくて。

 敵、と形容するのが正しいのかは分からないけれど、思わず俺はそう聞き返した。


「何処から説明しましょうか。

 ……まず、グリュン。貴方が『竜化』をいずれ発症することは分かっていました。何故ならそれは、ネーヴェ王家に生まれたものの宿命だからです」

「……だったら何で、ルクリーヴァ……さん、は協力してるの?」

「それは……至って単純なのですけれど。私はただ、愛する弟の幸せを願いたいだけ。私にとって、貴方が元気ならそれで良いのです」


 え、と小さく呟く。

 まず、俺の病気は生まれた時から発症する……つまり先天的なもの。俺が何か恨みを買ったから、とかではなく。うーん、簡単に言ったら遺伝みたいな感じなのかな?

 ……それにしても、ルクリーヴァさんはあんなにもヴェルの事を思って動いてるのに、何で当の本人には言わないんだろう。ヴェルは自分に誰も味方が居ないって思ってるから、ルクリーヴァさんが居たら嬉しいと思うんだけど。


「──それは、出来ないのです」

「え……?」

「元来より、『元素竜同士は仲良くしてはならない』という契約があります。相反する属性なら、尚更」

「……面倒じゃないの?それ。破っちゃ駄目なの?」

「ふふ、そう出来たら楽でしょうね……どれだけ楽しいか、考えることもありました」


 そう言ったルクリーヴァさんは、悲しそうに俯いた。

 契約。という事は契約主も居るはずなのだけれど。でも元素竜自体、謎に包まれ過ぎているから確かな事は分からない。

 俺が少し頭を悩ませていると、そうでした、とルクリーヴァさんは言った。


「今日はグリュンのお父さんが帰ってくる日です。あぁ、安心して下さい。お母さんよりはまともな人ですし、常識人ですよ」

「う、うん……。でも、怖い」

「私も一応居ますから、ね?」

「……やっぱり俺、第一印象って大事だと思うんだけど」


 思わず呟くと、苦笑いされてしまった。事実でしょ。

 ルクリーヴァさんによると、玉座まで行って欲しいのだとか。本当に俺が王族なの?と思ったが、まぁ、そうでもなければあの敬いようは説明がつかないか。


「では、また後で」

「はーい、またねルクリーヴァさん」


 軽く手を振って、俺自身もベットから立ち上がる。

 さて、玉座まで向かおうかな。暇だし、する事もないしね。


♢♢♢


 コツコツと足音を鳴らしながら歩く。一人で歩くなんて久しぶりで、何処となく孤独を感じた。今までずっと、ヴェルと一緒だったから。


「…………帰り、たいなぁ」


 小さくそう呟いた。叶わないとは知っているし、無理な事もわかっているのだけれど、願わずにはいられなくて。

 その時、ふと何かの魔力を感じて振り返った。

 柔らかい、暖かな、それでいて綺麗な魔力は間違いなく。


「───え……ヴェル?」


 その魔力の源まで駆け寄る。透明で、音もない。けれど確かにここに、存在している。

 そっと、屈んだような気配がして手を伸ばす。すると右手……?を掴んだような感覚がして。


「本当に、いる……?」


 恐る恐る、そう言う。俺がそう言った直後、懐かしい声だけが聞こえた。


「……あぁ。久しぶりだな、グリュン」

「なん、で……どうして……?」


 確かに、願っていた。けれど、ヴェルに危険が及ばないようにって思って、過去の俺はあの行動をしたのに。

 本音を言えば、来てくれて嬉しい。でも、望んでしまう。

 ──ここから救ってくれる事を。

 その時、ヴェルが突然言った。


「……グリュン、落ち着いて聞いてくれ。今はまだ、ここから救えない」

「………うん」

「でも、二日後──戴冠式の日に、必ず助けに来る」

「っ!分かった……!」


 ……あぁ、やっぱり。

 俺の家族は、頼れる人は、ヴェルしかいない。

 たいかんしき、が何かは知らないけど、でも二日後に助けてくれるというのは、確かに俺の希望で。 

 思わずその透明な空間を思いっきり抱き締める。抱き締め返してくれた温もりは、思い出そのままだった。


「じゃあ、またねヴェル。待ってる」

 

 精一杯微笑んでそう伝える。

 元気でな、という言葉を背に貰って、俺は再び玉座の間まで歩き出したのだった。

 

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