60.望みを描く
「何故ですか!?何故、どれも反応しないのです!?」
「落ち着きなさい、フェルア。貴方が取り乱しては駄目よ」
「……っすみません、ルクリーヴァ様」
結果として。俺は六つの血液に、どれとも適性を示さなかった。
それに少しだけ、安堵した。どこの誰とも知らない竜に適性があるなんて、死んでも嫌だったから。
少しだけ笑みが溢れる。何でも思い通りに行くと思うなよと、ちょっと言ってみたい。
──あぁ、ここまで人生を達観したことは今までにあっただろうか。
「やはり、あの子だけだというの……?」
「あの子というと、元素竜の残りの一体……今まで誰も傷をつけられてない、世界最強と言われている竜でしょうか」
世界最強。その言葉に反応する。もしかして、残りの元素竜は。
僅かな望みが、俺の中に芽生える。それなら良いと、いや、そうであって欲しいと、ずっと思っていたから。
「えぇそうね、貴方たちが祀っているわ」
「ですが、今まで我々でも見たことが……」
「……あら?気付いていなかったのかしら」
「え、何をでしょう?」
「昨日貴方たちの前にいたじゃない、ヴェルノアールなら」
ひゅ、と息を飲む音がする。それは俺、というより、フェルアと呼ばれていた水色が発した音で。白い灰が舞っていくのが俺にも見える。あー可哀想だなーと心にもないことを思いながら眺めていると、ぴか、と視界の端で何かが光る。
なんだろう、と思って光った右手を見ると、黒く浮かび上がる、何かの模様があった。最初は警戒したものの、すぐに何の模様か思い出す。
───ヴェルに貰った加護の紋様と、同じだ。
そう思ったその瞬間、それの発する光が強くなって思わず目を瞑る。眩しさが収まった後、恐る恐る目を開けると、何故か瞳に違和感を覚えて。
何だろう、自分のものじゃない感じ?だったので、鏡の前で瞳を隠すように伸ばしていた前髪を少しだけ上げ、自分の顔を見た。
その時すぐ、明らかな違いに気が付いて。
「───あ、瞳の色……」
そっと、目の近くを触る。うん、別に痛くはない。俺は驚いた。だって瞳の色が、紫と黄緑のオッドアイになっていたから。
ヴェルとお揃いなのは嬉しい、けど。でも何で?
そう考えていると、茫然自失に陥っていた水色が復活したらしく、しばらく静かだった部屋がまた騒がしくなった。
「……っ、では早急に協力を──」
「うーん、それは無理でしょうねぇ。貴方たちが昨日やったこと、覚えてないわけじゃないでしょう?」
「そ、れは……」
「それに、あの子も馬鹿じゃないの。やられた事は死ぬまで覚えてるわよ。
……まぁ、私たちは死なないのだけれど、ね?」
薄く微笑んだ水色じゃない方は、ちょっと俺から見ても怖かった。ブラックジョークにも程がありすぎるのでは。
背筋が凍りそうな視線を俺も巻き添いで食らった後、二人は何かを話しながら俺の部屋から出て行った。本当に忙しないなぁ、あの人たち。
「……ふふ、でもヴェルかぁ」
吸い込まれそうなぐらい真っ黒な髪で、それでいて輝くような綺麗な紫色の瞳を持った、ヴェルを思い出す。
もし、ここから出ることが出来て、また、旅が一緒に出来るなら。
それほど幸せな事はないと、心の底から思ったのだった。




