57.竜なりの愛し方
まず、だ。状況を整理しよう。
グリュンが何者かに連れ去られた。それは確かで、どこに連れ去られたかというのは定かではない。
しかし、水色頭がグリュンの事を『ユーフェリア』と呼んでいたのは気に掛かる。もしかしてあれが本名だったりするのだろうか。
まぁそれは良い。どんな名前だろうとグリュンは変わらないのだから。
それより、今優先すべきはグリュンの場所の把握。どこに向かっているかだけでも分かれば上々だ。
「───『召鴉』」
そう呟くと、真っ黒な体を持つ俺の使い魔が現れる。基本的に戦闘能力はないので専ら索敵担当なのだが、俺自身にあまり必要がなかったので、忘れていたと言っても過言ではない。
「すまない、グリュンの捜索を頼めるか?」
そう言うと『都合よく使いやがって』というような顔をされたような気がしたが、それでも行ってくれた。ありがたいな。
さて、その間に俺は宿に戻って荷物を回収しよう。最低限あるとはいえ、あったら便利な物とかは置いて来てしまっている。そう考えて、宿に戻る。流石に出た記録がない人が戻って来たら、宿の番の人が驚くだろうと思い窓から入った。
「……こんなに広かったか?」
がらん、といつもより広く感じるその部屋で、思わずそう呟く。グリュンの存在は、知らず知らずのうちに俺の中で大きなものへと変化していたらしい。
しばらく荷物整理をしていると、外から主張するような、カツカツという音がして振り向く。そこには俺の使い魔が『早く開けろ』と言わんばかりに突いていた。
窓を開けると、一直線にこちらに向かってきて、俺の腕にとまる。
かぁ、と少し不貞腐れながらも的確に情報を集め、簡潔に報告してくれた。
「……成程、ありがとう助かった」
すると役目は終えたとでも言わんばかりに霧になって消えていく。今まで使っていなかったから、相当お怒りのようだ。
まぁまた使う機会はこれからあるだろう、と考えつつ、先程教えてくれた情報を整理する。
まず第一に。グリュンはネーヴェに向かっていったという事。しかし、ネーヴェは俺を祀る国だと聞いた。ならば何故、ルクリーヴァが一緒にいたのだろうか。
そして次は、グリュンの場所はネーヴェの王城らしい。それも一番王の間に近い、中心部に近い部屋にいるらしい。となると、最後に呼ばれていたユーフェリアは、グリュンの本当の名前である可能性が高いのか。
最後は……何とも言えないな。グリュンの母らしき人がいたらしい。まぁその点についてはグリュンが拒否していたとは言っていた。
「……さて、俺もネーヴェに向かうか」
確かに、俺はそこまで知略を巡らせるのは得意ではない。それはどちらかというとルクリーヴァの得意分野だ。けれど余程の戦略じゃない限り、潰せる力もまた持っている。
諦めは悪い方だと自覚しているが、だから何だと言いたい。
大切な自分の子供を何の理由もなしに奪われて、それを野放しに見捨てるような親が普通いるだろうか。いや、世界は広いから、もしかしたら居るのかもしれない。でも、少なくとも俺は、そうなりたくない。
……血も繋がっていないと言われてしまえばそうなのだけれど。
「それ以上に、大切なものをくれている」
俺を外に連れ出してくれたのもグリュンで、あの過去を受け入れてくれたのもグリュンだ。感謝してもしきれないほど、俺は救われている。だから今度は、俺がグリュンを救う番だ。それに、親たるもの、常に子供の味方でいるべきだろう?
それに、あんな辛そうな表情で別れを告げたグリュンが、どうしても俺には、幸せになるために俺を切ったようには思えなかった。
──子供の幸せを一番に願う。そんな親でありたい。
……お世辞にも、俺は親に恵まれていたとは言えなかった。
愛されていたわけじゃない。だから俺も、愛し方を知らない。
いつも、いつも、グリュンと一緒に過ごす度に、間違っているのではと、思うことがある。もしかしたら俺も、あの人たちのように接しているのではないかと。
言葉が足りないことも理解している。感情表現が希薄なせいで分かりにくいことも十分理解している。
だから、俺は行動で示すと、遠い日にそう決めた。
俺の森でグリュンを拾って、初めて笑ってくれたあの日に。
「……はは、懐かしいな」
人形態では泣くくせに、竜形態だと笑うグリュンには困ったな。どうやってご飯を与えるべきか本気で悩んだのだったか。それに毒りんごを食べてしまった時も焦ったな。
他にも色々な思い出が、次々と蘇る。
「あー……、駄目だ」
──歳を取ると、涙脆くなるな。
大丈夫、まだ間に合う。だから心配するな。そんな暗示に近い言葉を自身に手向ける。
一度目を瞑って、深呼吸をする。そうして鞄を二人分背負った後、俺は部屋の扉を開けてネーヴェへと向かったのだった。




