54.兆候
「もう少しで着くぞ」
「あ、あそこがネーヴェの手前の街?」
「街……まぁどちらかと言うと村だな」
太陽が丁度真上に来たぐらいの時間で、村に到着する。辺境である事と、近くにそこそこ大きな国があることから、名もない村となっていた。
さて、食料の買い出しをしに行くか、と思っていると、冷ややかな冷気を感じて思わず振り返る。その魔力は間違いなく、俺と同様に竜族のものだった。
「まさか……?」
「どうしたのー?」
「……いや、何でもない。グリュン、足元に気をつけて……って」
見事に雪につまずいて倒れ込んだグリュンを起こす。ちょっと目を離しただけで、何かしらが起こっているのはどうしたら良いのだろうか。いやまぁ、俺が目を離さなければ良いだけなのだが。
少し心配なので、先に宿を取ってから買い出しに行こうと決める。
実はここ最近、少しだけ何かがおかしいのだ。何というか……そう、雰囲気が違う。
まるで何か、知らない存在が近くにいるかのような感覚が、ずっと付き纏っていた。
「じゃあグリュン、留守番を任せた」
「はーい、気をつけてねー?」
パタン、とドアを閉める。その時、何かグリュンが言ったような気がしたが、聞こえるはずもなく。ただ、かと言って聞き返すのもどうかと思ったので、そのまま買い出しに向かったのだった。
♢♢♢
「あー……どうしようかなぁ」
そろそろ勘のいいヴェルは気付いてもおかしくはない。それこそ、早めに相談した方がいいという事は、俺だって分かっている。それに最近、全身が痛くて仕方がない。おそらくはこの症状のせいだとは思っている。
でも、それでも、勇気が出ないのだ。
これがバレてしまって、ヴェルに捨てられたらどうしようとか、答えが出るはずのない問いがぐるぐる回っていく。
「……瞳も見られたら終わりなんだよね」
いつの間にか変化していた、俺の瞳孔。それは既に、人が持ちうるものでは無かった。それを隠すために、髪を伸ばして見えないようにしているのだけれど、それももう、長くは持ちそうにない。
「あぁー……本当にどうしよう」
その呟きは誰にも拾われる事はなく、ただ冷たい空気に溶けて消えていった。
♢♢♢
「ただいま……って、寝てるのか?」
ならまぁいいか、起こさない方が良いな、と思い紙袋を机に一旦置く。
明日にはネーヴェに向かうとして……準備するものは、と考えつつ、カバンの中身を整理していく。
すると、のそのそとグリュンが起きてきた。
「すまない、起こしたか?」
「ううん、大丈夫」
心なしかそう返すグリュンは、元気がなさそうに見えて。けれど、寝起きだから仕方ないかと思い、深くは触れないことにした。それにしても、途端に寒くなったな。普通関所を越えるだけでこんなに温度が変わるものなのか?
未だに分からないこの冷気の正体に首を傾げつつも、一旦晩ご飯の準備をしてグリュンと食べる。珍しくあまり食べなかったグリュンに何かあったか、と尋ねるも、首を横に振って何でもないと返されて。
けれど、食欲が無いだけで、他は元気そうだったので、重い病気ではないのだろうと思い、俺も今日は早めに眠りについたのだった。




